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復讐螺旋  作者: 桜野 ヒロ
衝動流転
16/50

疑念

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「───蒼龍様は現在、医療施設にて治療を受けておるため此方にはいらしておりません」


「ですが、その蒼龍を目撃したと言う情報を確認致しました。

 此方としては、事実だった場合には職務怠慢等にあたり、厳重注意をしなければなりません。

 恐れ入りますが、この屋敷の中に入ってもよろしいでしょうか?」


 酷く冷静に、しかし丁重に断りを入れる風魔家の侍女の方に食い下がり、オレは言う。

 蒼龍に事情を聞くのを確固たる意思として。

 仮に、本当にこの家にいたとして、蒼龍が怪我を理由に休職中だと言うのに、捜査を続けている理由が気になる。

 ───直感だが。

 蒼龍はこの事件に何かしら関わりがある。

 とにかく、ここは意地でも中に入るべきだと、オレの脳内は固まっていた。


 侍女はそんなオレを鬱陶しそうに睨みながら、溜息を零したのだった。


「お断りします。

 ただいま、屋敷の内部は工事も兼ねておりますので。

 そもそも、なにか疑わしいことがあるのなら令状を持ってきてください。

 そんなものすら持っていない、ただ半端者のクセに蒼龍様のご友人と騙る不審者をおいそれと入れることなど出来ません」


 否、オレは蒼龍の屋敷で遊んだことは何度もあるし、この侍女の方とも面識がある。

 以前談笑したことがあるから分かるが、この侍女の方はオレに嫌悪感なんて抱いていない。

 それどころか、オレに対して好意的に、そして温かく接してくれる人だった。

 それを裏付けるように、彼女のその見下したような冷たい表情は作り物のように張り付いているだけ、という感じが強かった。


 懸命に食い下がろうとしたが、ふと、ある事を思い浮かび、オレはこくりと頷く。


「…………分かりました。後日あらためて出直させていただきます」


 別に、蒼龍が屋敷の中にいるかいないかの確認なんて、やりようは数多にある。

 それに、この人に長時間もこんな冷たい仮面を付けさせるのも酷な話だ。

 似合わない事をさせて、不必要な気苦労なんてさせたくない。


「いきなりの訪問で申し訳ございませんでした」


 頭を下げる。

 一瞬、ほんの一瞬だけ安堵しているかのような笑みを、侍女の人は浮かべた。


「はい、次からはしっかりとしたモノを持ってこのお屋敷に入ろうとしてください」


 頭を深々と下げる侍女の方に背を向けて、オレは屋敷から離れ、自宅へと向かった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 未音と風魔の屋敷での一悶着が起こった数時間後。

 紺から、黒へとさらに深まった夜に、風魔の屋敷から出る一人の影があった。

 風魔家の当主であり、そして未音のかけがえのない友人である男、風魔蒼龍ふうまそうりゅうは龍が描かれた着物を身に纏い、玄関にいる侍女に声を掛ける。


「行ってくる、美江みえさん。

 いらない気苦労を掛けてしまってすまないな」


 美江と呼ばれた、昼間に未音を門前払いした女性は微笑みながら答えた。


「お気になさらずに。私などより、蒼龍様の方が心苦しいでしょう。

 屋敷の周りに人はいませんので大丈夫です。

 未音様に見つからぬように、慎重に行ってください」


 分かっている、と返して蒼龍は屋敷の門を潜り、都心の方へと向かう。

 まるでなにかに呼応しているかのように、迷うことない足取りで蒼龍はその場所・・・・へと向かう。

 そんな中で、蒼龍はふと足を止めて空を見上げる。


 ───黒の世界の中、美しい輝きを放つ星を眺めながら、蒼龍は高校の頃の思い出に色褪せていた。


『───蒼龍、よろしくね』


 似たような夜。そこで、自身に穏やかに笑みを浮かべる友人であり幼なじみの男、アルビノによって雪のような白い髪と肌をもつ因幡 藤也いなばとうやを思い起こし、どこか苦しそうに歯軋りし、蒼龍は足早に向かう事にした。


 蒼龍が向かった先は、都心にある、一つの路地裏だった。

 なぜそこまで歩いたのか、それは少し進んだ先にあった。


 まるで分岐点のように、二つに別れた場所を左に進む。

 そこには─────死体があった。

 焼け焦げになった、無惨な焼死体が壁に背を預けていた。。

 その死体と遭って、蒼龍は溜息を零しながらその死体へと歩む。

 そして、呪力を込めながら彼は手を伸ばし───────


「そこまでだ蒼龍。

 ───────職務怠慢なんかはどうでもいい。けれど、お前に訊ねないとダメなことが出来ちまったよ」


 その死体に手を伸ばした、その瞬間に彼を呼び止める声が。

 蒼龍が振り返ると、そこには自身の親友が立っていた。

 驚きはしなかった。気配はなかったもののそうはするはずだと、彼が屋敷から離れた時から読んでいたからだ。

 何日家に籠ろうが、意味をなさない。

 自身がその場へ向かうのを、絶対にどこかで隠れて待ち続けているというのは、その背に掛けているリュックを見れば一目瞭然だった。

 缶詰等が入っているのだろうか、リュックは相当膨れており、長期戦を覚悟しているのは目に見えており蒼龍は若干呆れる。

 しかしそんな異常なほどの根気強さを持ったのがこの男だろうとある種の安心を浮かべ、しかし表情は動じずに飄々とした様子で、


「よう未音、こんなとこで会うなんて奇遇だな」


 そう、未音に話しかける。

 まるで買い物途中にばったりと出くわしたかのように、軽々と。

 そんな、蒼龍の軽々しさに未音は若干の違和感と不安を感じながら、ポケットの中に入れたナイフの束を握りしめたこだった─────。

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