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それはいつか、魔王となりて  作者: 志位斗 茂家波
1章 旅立ちと始まり
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1-52 便利さも不便さも、一体なのです

…‥‥人に近い身体というのは、魔物の身体だけと比べて便利なこともある。


 手先が器用になり、周囲を見渡しやすくなり、発音が人に近づきより会話がしやすくもなる。


 いいことづくめのようにも思えるのだが‥‥‥それでも、便利さの反面不便なところもあるのだ。


【シュルル‥‥‥お風呂、ちょっと不便かも】


 ちゃぽーんっと浸かるのは、王都にある宿屋の女湯。


 従魔であるがゆえに、本来は従魔用の風呂場もあるのだが、ハクロの姿は下の方が蜘蛛で上が人の女性の身体であるがゆえに、そこに入れるのは絵面的に悪いという事で特別に人がほぼ入らない時間帯に入れてもらえることになったのは良いだろう。


 だがしかし、その体の構造ゆえにまともに風呂に入りづらく‥‥‥少々、ひっくり返った形で無理やりお湯に浸かる姿勢になるしかないのだ。



 でも、そんな姿勢になっていてもお風呂の気持ちよさというのは心地良いいものだったものだった。


 野生では時折湖に飛び込んで丸ごと洗うこともあったが、被るのは冷たい水。


 この風呂場であれば、温かいお湯に浸かるので冷えることはなく、むしろ風呂場だからこそ石鹸などと呼ばれるような代物を使って、よりきれいに汚れを落とすことが出来るのは良いと彼女は思っていた。


【シュルルルゥ~~♪】


 ゆったりと浸かるとほんのりと温かさが染み込み、体の芯からポカポカしてくるだろう。


 特に王都のこの宿屋の湯は、魔道具でどこからか源泉を引いているという温泉になっているそうで、天然なのかそうでないのか微妙なところだから、それでも効能としてリラックスさせられるのは間違いない。


 




‥‥‥そして彼女がゆったりと風呂場でのその温かさに蕩けている一方で、別の場所では少しばかり悲惨な光景が広がっていた。


「B班しっかりしろぉ!!」

「犯罪ギリギリのような行為になっているが、それで命を落したら始末書が最悪なものになるぞ!!」

「ぐふっ‥だ、駄目だ、もう血が…」

「しかし、生涯に悔いはなく‥‥‥こふっ」

「うぉぉぉぉい!!」


 宿屋から少しばかり離れた、とある建物。


 丁度女湯の中の光景を覗くことが可能な道具が使用されているのだが、彼らはただの覗き魔という訳ではない。


 王都に住まう貴族たちの、それぞれ子飼いにしている諜報員たちであり‥‥‥国滅ぼしの魔物が入って来たという情報を聞いて、その情報を収集していたのである。


 だがしかし、残念ながら絵面が酷い。魔物とは言えハクロの人部分は絶世の美女であり、こういう時に限って見張りに回るのは男性陣だったため‥‥‥情報を逃すことなくしっかりと得ようとした者たちが真剣になって見過ぎたせいで、赤い湖が出来あがりつつあった。


「というか、こういう時こそ女性諜報員かオネェ様部隊のほうを使えよ!!何で野郎どもしかいないんだよ!!」

「こういう悲劇が起きるのは、分かっていただろうがぁ!!」

「それが、残念なことに都合が合わず、また基本的にハニートラップなどを仕掛ける者たちが多いのですけれども、彼女のスタイルと自分と比べて、落ち込んで出てこれないと思うような者たちが多くて…」

「それでやる気のあったやつらが出たのですが、悩殺されたようです」

「ひっでぇ絵面になるのは、分かっていたことだろぉぉぉぉぉ!!」


 辛うじて意識を保つものたちがツッコミをいれたが、時すでに遅し。


 違う貴族家に仕える者たちが入り混じっていたのだが、この時ばかりは協力して惨状の始末を行うのであった‥‥‥


「そもそも、風呂場まで覗かせるようなこともないだろうに、何を思ってこうなった」

「拷問にも耐えられるように、精神的に固い奴もいたはずですが・・・」


‥‥‥恐ろしいのはハクロの美しさか、あるいは人の煩悩の凄まじさか。


 このあと、各家に仕える諜報員たちがまとめた報告書によって、よりメンタル面での強化を言い渡されることになったのは、また別のお話である。


 でも正直、もいだほうが早いと思う者も多かったりするのである。


なら最初から、適材適所を配属しろという話もである

そこにツッコミをいれたいが‥‥まぁ、やる気のある人が多かったんだろうなぁ

その所為で、何処かの建物が後年ホラースポットになったそうだが・・・

次回に続く!!



‥‥‥馬鹿みたいだけど、馬鹿なのかもしれない

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