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それはいつか、魔王となりて  作者: 志位斗 茂家波
1章 旅立ちと始まり
4/87

1-03 共同戦線、互に一人(一匹)だけど

一応、今作は不定期投稿。

他の作品の連載と相談しつつ、すこしペースを考えます。

 さて、目の前の蜘蛛さんと一旦取引をして治療をしたところで、多分時間はそこまで無い。


 何しろこの大怪我ぶりを見ると相当な量の血が流れているだろうし、跡を簡単に追われていてもおかしくはない。


「それなのに、すぐに姿を見せないのは狩り時を狙っているか、あるいは死にかけだからこそいたぶる気だったか…‥‥前者ならまだしも、後者なら相当性格の悪い魔物だよね」

【シュルル】


 ある程度治療して傷がふさがったところで、蜘蛛の魔物さんは器用にその辺の枝で地面に絵を描いた。


 どうやら怪我を負わせてきた相手がどういうものだったのか、わかりやすく伝えようとしたのだろうが‥‥‥


「‥‥‥頭が牙の生えた魚で、体が猿?え、こんな魔物なの?」

【シュル】


 なんというかこの魔物に関しては見覚えがあるような‥‥‥あ、爺ちゃんが昔、話してくれたっけ。


「爺ちゃんが旅に出ていた時に、出くわした魔物で聞いたかも。『ピラニアックモンキー』だったかな?」


―――――

『ピラニアックモンキー』

半魚人というには惜しい、頭が魚で体が猿のそのまますぎる魔物。

ただし、頭が魚ではあるがカナヅチであり、何のためにそうなっているのかはわからない。

ただ一つだけ言えるのは、相当獰猛と残虐な性格をした肉食の魔物で、いつでも喰らえる相手であっても弄ぶように攻撃し、完全に抵抗できなくなったところでトドメを刺しに来る習性がある。

―――――


 なんでも森とか草原にたまに出没するらしく、獲物を徹底的に痛めつけて来るらしい。


 爺ちゃんが出くわした時にも襲撃されたが、難なく焼き魚にして食べたそうだ。体の方は肉がなくて毛皮にしかならないそうだが、頭の魚は栄養満点だとも聞いた。


 けれども、爺ちゃんだからこそ簡単に対処出来たようなものであり、僕では無理だろう。


 蜘蛛の魔物さんも結構ダメージを受けていたし、かなり強そうな相手であることは予想ができ、出くわせば徹底的にやられてしまうのは間違いない。






‥‥‥けれどもそれは、あくまでも真正面から挑んだ場合であり、今は僕と蜘蛛の魔物さんで協力し合い、撃退するしかない。


「ねぇ、蜘蛛の魔物さん。罠を仕掛けるけど、手伝ってくれないかな?時間もないし、すぐに動かないと」

【シュル!】


 治療して傷がふさがったとは言え、万全ではない。


 それでも、仕返しする気満々なのか快く引き受けてくれたようだ。


 さてと、そうなるとは後は仕掛けるだけだが…‥‥周囲は木々に、蜘蛛の魔物さんに、僕の持っているのは少々の薬や野営道具程度で物凄い大掛かりなのは仕掛けづらい。


 でも、ここで下手なものを仕掛けるわけにもいかないのであれば…‥‥よし、シンプルなものでいくか。




――――――



…‥‥この辺りのはずである。


 手負いの魔物はそろそろ命が尽きる頃合い。


 ここで静かに寝かせる‥‥‥そんなことはさせる気もない。むしろ、その間際にこそ良い悲鳴が聞こえそうだ。


【グシャグシャシャ!!】


 ビコビコと陸上生活では無意味なえらを動かして叫びつつ、じわりじわりと仕留める予定の獲物を狙い、ピラニアックモンキーは歩みを早めていく。


 風にのって漂ってくる血の臭いは徐々に濃くなってきており、場所が近くなってきているだろう。


 出血量を考えると、もうすでにほぼ虫の息‥‥‥虫の魔物だけにそのまますぎるが、まだ辛うじて繋がっているところもあるかもしれない。


 身をひそめ、助かる見込みがなくともほんの少しの回復力にかけて寝ているかもしれないが、そこを強襲し絶望させることが喜びである。



 そう思いながらピラニアックモンキーが先へ進むと、月明かりの下に都合よく獲物の姿を捉えた。




【…‥‥】


 見たところ付けた傷に関しては、奇跡でも起きたのか驚くべきことにふさがっているようにも見えなくはない。


 けれども、周囲に溢れる血の香りや残っている血だまりから見ると、辛うじて生き延びはしているが体力までは回復しておらず、動けていないのだろう。


 警戒しているはずだが、身動きをしておらず、思いのほか消耗が激しいのかもしれない。




 このままにしておけば、回復ぶりからみて治る可能性は十分ある。


 だが、その治るかもしれないという油断の中で…‥‥仕留めるのが一番良いのだ。



 狙うは、真横からの大きな腹の部分。


 前方からでは噛みつきが、後方からでは糸が来ると分かっているのならば、的が大きくなる腹の部分を横から狙えばいいのだ。


 足などが邪魔なので、すぐに反撃されないように動きにくいのであれば、もう少しだけ斜めにして‥‥‥この位置からの襲撃であればいけるだろう。



 咆哮をあげて驚きによる恐怖の声色が聞きたいが、蜘蛛は案外素早く動くので、動きにくい力でもじわりじわりと忍びよればいい。


 そしてゆっくりと気配を消して忍び寄り‥‥‥今、食らいつく!!




ふみっ、ぶっ!!


 一歩足を踏み出したところで何かを踏んだかと思えば、千切れた音がした。


 何事かと思っていた次の瞬間‥‥‥


ザッスゥ!!

【グシャゴゲェ!?】


 突然、自身の真横から何かが勢いよく突き刺さり、強烈な痛みゆえに思わず叫ぶ。


 見れば木の丸太が何本か飛んできていたようで、そのうちのいくつかが自分の体に刺さったらしい。


 とは言え急所を外しており、このぐらいで動けなくはならない。むしろ、このような罠を仕掛けて待ち構えていたというこざかしさに怒りがわき、痛みよりもすぐに行動へ移す。


【グシャゴゲガァァァァ!!】


 怒りは隠しきれず、丸太が刺さったまま飛び掛かる。


 動かないようだが、いや、辛うじて動けていた時に仕掛けた罠であれば、今はその分の反動が来て身動きできないのかもしれない。


 そう考えると、こんな最後まで抵抗する輩をより徹底的に痛めつける楽しみが出来たと思えば、怒りも多少は柔ら、


バリン、バシャァ!!


 

 少しばかり、怒りの中で考えてしまった隙に、何かの液体がかけられた。


 見れば、蜘蛛の下の方に隠れるかのような小さな生き物がいたようで、その手から液体の入った瓶のようなものが投げつけられたようだ。


 細かい部分を見れば、これまで喰らってきた獲物の中で人間というようなやつの小さなもののようだが、何を投げつけ…‥‥その手からさらに、小さな火種が投げつけられた。


ボ、ボワァァァアァァァl!!

【グゲェェェェエエエエエ!?】



 突然かかって来た液体が着火し、一気に火だるまになる。


 どうやらかけられたのは油のようで、小さな火種を利用して一気に燃え上がらせたのだろう。


 しかも最悪なことに周囲に水はなく、あったとしてもカナヅチなので飛び込むような真似もできない。


【グゲガァァァ!!】


 このままでは不味いが、必死に転がって鎮火させることはできるだろう。


 だがしかし、こんな蜘蛛よりも小さな生物によって大きな痛みを与えられたことに屈辱を感じ、燃え上がる体ごとすぐに仕留めようと足を踏み出し、



ずぼっ

【ガァァァ!!‥ゲ?】


‥‥‥足元の感覚がないので見ると、どうやら穴が掘られていたらしい。


 そこまで深くもないようだが、それでも体制を崩して転げ落ちる。


【ゴゲガァァァ!?】


「よし!!上手い事連続してかかってくれた!!蜘蛛さん、今のうちに埋め立てるよ!!」

【シュルルル!!】


 驚いて体を動かす前に、土がかぶさって来た。


 これで多少は火が消えるかもしれないが、今度は息ができなくなってくる。


 必死になって手足を動かすも、どんどん勢いよく被せられて、身動きが取れず…‥‥そのままピラニアックモンキーは苦しみを味わされながら、命を散らすのであった…‥‥






―――――


ざしゅざしゅざゆ、ぽんぽん!


「ふぅ、とりあえず穴埋め完了したとして…‥‥これで逝ったかな?」

【シュルルゥ】


 最初に痛い一撃で怒りを出させ、獲物狙いで見えなくなったところから食用油をかけ、炎上させてさらに周囲を見えなくしての落とし穴から埋め立てという連続した罠を仕掛けたが、どうやら成功したようだ。


「ありがとう蜘蛛さん。糸を提供してくれたおかげで、飛び出す仕掛けが作りやすかったよ」

【シュル♪】


 どうやらこの蜘蛛の魔物の糸はある程度の調整が可能なようで、罠の発動に使う極細の糸や、丸太を弓のように射出する仕掛け用の伸縮性がある糸を出してもらい、より仕掛けを強化できた。


 これでうまいこといかなかったら怖かったが、結構短絡的というか油断していたところがあったようで、おかげで全部に見事かかってくれたようである。


「あとは、念のために掘って出てこれないように、焚火を燃やしてっと‥‥‥火を使うけど、大丈夫?」

【シュルルル】


 問題ないというようなそぶりを見せたので、埋め立て地のすぐ上に焚火を用意し、着火する。


 これでまだ生きていたとしても、火の熱がじわりじわりと地下へ染み込み、蒸し焼きにしてくれるだろう。こういういたぶるような奴ほど、結構しぶとく生きていたりする可能性もあるので、追い打ちをかけておくのが良いのだ。


「それにしても、うまくいって良かったね。蜘蛛さんの動けないふり、うまかったよ」

【シュル、シュルルル】

「え?罠の仕掛けの方がよかったって?いやいや、蜘蛛さんの糸がないと駄目な奴もあったし、手持ちに油がなければ燃やせもしなかかったからね。礼を言うなら用意してくれていた、亡くなった爺ちゃんにいってよ」


 いや本当に、油があってよかったよ。火を起こす際にほんのちょっとだけ使って引火しやすくしたり、料理に使ったりと汎用性があるので、便利だったけど、トラップにも使えたからね。


 亡くなった爺ちゃん、トラップで油を利用してもっとすごいのを作ったこともあったっけ‥‥‥魔障の森に出た鳥のモンスター相手に、半自動唐揚げトラップとか、どうやれば思いつくんだというようなものだったかな?結果としては衣に必要な粉がなくて、丸焼きトラップに速攻で改名したけどね。




 何にしても、これで後で悩まされるような魔物は対峙できただろう。


 翌朝に掘り返して確認するが‥‥‥心配はない。


「それとどうする蜘蛛さん?これでもう取引も終了して、協力する意味も無くなったけど」

【シュル?シュルルル‥‥‥】

「‥‥‥ねぇ、良かったら僕と一緒に来ないかな?爺ちゃんの遺言で世界を見て回るけど、流石に一人旅だと心細くてさ、どうかな?」

【‥‥‥シュルルゥ♪】


 お互いに協力する意味が消失したが、今回の件で僕と組んだほうが良いと思ったのか、快く頷いてくれた蜘蛛さん。


 よかった、人に出会った時に一緒の旅路で何か言われそうな気がしなくもないが、これで寂しい旅路にならずに済むだろう。


「それじゃ、よろしくね蜘蛛さん。あ、でも一緒に来るなら名前があったほうが良いかな?蜘蛛さんって何か名前持ってないかな?」

【シュル、シュル】

「無いって?じゃあ…‥‥そうだな。何か呼びやすい方が楽だし、うーん…‥‥」



 これから旅を共にする相手であれば、何かと呼びやすいほうが良い。


 蜘蛛さんでも通じるが、他にヤバそうな蜘蛛の魔物が出た時に聞き訳が付かなくなると不味いし、良い感じのものがないかと首をひねっていると、ふと空の月が目に入った。


「白い月の光‥‥‥白‥‥今は夜中で暗くて、月の光で白黒はっきり‥‥‥そうだ!『ハクロ』って呼んでいいかな?白色(はくしょく)の中の黒い蜘蛛をちょっと縮めただけだどね」


 白色の黒、白の黒、ハクロ‥‥‥無理やり感が結構あるが、これはこれでしっくりくるかもしれない。


 それに、今月の明かりで再びこの周囲が照らされるが、よく見ればこの蜘蛛の色合いは漆黒と言って良いような美しい黒色をしており、白い月夜の中であった黒い蜘蛛なので、似合っているかもしれない。


【シュル?シュル‥‥‥シュル♪】


 気に入ったのか、名前を呼ばれて嬉しそうに頷く蜘蛛さん改めハクロ。


 爺ちゃん、僕は今日新しい旅の仲間を手に入れることが出来たよ…‥‥‥



「…‥‥そう言えば、ハクロはハクロで、何の蜘蛛?蜘蛛の魔物って結構いるらしいけど、全然わかんないや」

【シュ‥‥‥シュルルゥ?】


…‥‥あ、ハクロ自身も自分の種族名が分からないのか。そう言えばそもそも、こういう魔物の種族名って誰が付けたんだろうか。そこ、考えたら不思議だな。

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