1-30 ふむ、興味が出るというか、次は期待というか
‥‥‥魔物というものは、なまじ体が人以上に頑強なものが多いがゆえに、怪我や病気で診ることはそんなにない。
精々、従魔となった魔物の状態を調べたり、かかりやすい病気の予防接種時ぐらいに診る程度であり、珍しい魔物を診る事の方がはるかに少ない。
さらに言えば、国滅ぼしのカテゴリに入っているような魔物を診る機会自体、本当に極稀なものだというのに…‥‥
「…‥‥また、あたしが診察することになるとはね。しかも同じ主の従魔とは面白いねぇ」
【グラグ?】
首が無いけれども首をかしげているようなそぶりを見せる、目の前の豪華な宝箱の魔物に対して、魔物研究学者兼医者のあたし、クラウンドはそうつぶやく。
ロイヤルチェスト‥‥‥分類上は国滅ぼしからは既に外されているとはいえ、それでも膨大な収納能力など、国としては宝物庫や戦時中の籠城戦には欲しいと言われるような魔物であり、珍しさとして少々劣るがそれでも貴重な魔物な事には変わりない。
なお、今回の診察も従魔登録されてのデータ収集のためではあるが、この魔物がもつ収納能力を色々と調べまくりたい変態、もとい同僚たちが我先にと出ようとしたので、なんとか拘束して出てこないようにしてきているのである。
あいつらが勝手にやらかせば、それこそ馬鹿な無茶をやりかねないもんなぁ‥‥‥貴重な魔物だと分かっていないのではなかろうか、あのバカたちは。
そんな事はさておき、前回からさほど日にちが経っていないというのに、同じ冒険者がこうも立て続けに珍しい魔物を得るとは羨ましい事だ。
というか、カテゴリから外れている魔物だとして、強大な力を持つ魔物であることは変わりないし、彼がこの子たちを従えているだけで、国としては脅威になりうるだろう。
まぁ、冒険者なのでどこの国に所属している云々は特に制限もないのだが、それでも下手に手を出しにくい相手でもある。
「そもそも、何でここまで寄せるのかが気になるわね」
ロイヤルチェスト、名前はラナとなっているこの魔物の歯の状態も見つつ、あたしはそうつぶやく。
ナイトメアアラクネにロイヤルチェスト‥‥‥二度あることは三度あるという言葉もあるぐらいだし、三体目が来そうなのは目に見えている。
そうだとしても、国滅ぼしの力を持つ様な魔物を引き寄せるとはどういう星のもとに生まれればこんな運命になるのだと問いたい。
‥‥‥とは言え、例が無かったわけではない。
一応、もっと多い数の魔物を従えていた者の記録自体は、実は残されていたりするのである。
ただし、内容としては相当古い古文書だったり、どこかの国では機密文書扱い、あるいは残してはいけないという判断で処分されたという話もあったりなど、下手に詮索すれば不味い話でもある。
「そう考えると、国としてはもうちょっと動くとは思うけれどねぇ‥‥‥ああ、ちょっと待って。ここの牙、場所的にちょっと汚れが残りやすくなるからもう少し磨いた方がいいわよ。魔物でも虫歯になる例があるから、きちんと歯磨きは欠かさないようにして頂戴」
【グ、グラグラ】
魔物の虫歯の治療になったら、そこはあの同僚たちに任せた方がいいだろう。歯の治療の痛みというのは、万物そろってかなりつらいのは同じなのだから。
そう言えば、いつぞやかゴリゴリダイルの虫歯があって、喰われた人いたなぁ‥‥‥奇跡的に助かったとはいえ、魔物の治療は大変なことが多いから、大事にならないでほしいものである。
「さて、身体検査も済んだし、異常ないわ」
【グラグラ】
確認を終えると、ぺこりと頷くロイヤルチェストのラナ。
アラクネのハクロだったか、あの子と同じようにある程度人の言葉も理解しているようだ。
「ふふふ、良い子ね」
しかし、こうも人の言葉をよく理解するとは、エリート種の類とはいえやはりちょっと出来過ぎている気がする。
考えられる可能性は色々とあるが‥‥‥まぁ、まだ確定事項でもないし、いう事でもない。
「あとは、面倒なこととして…‥‥」
「どぼじでづれでっでぐればがったんだぁぁぁぁぁ!!」
「われわれだって、珍しいものは見たいのだぁぁぁ!!」
「魔物を研究する者として、全てを見たいのは誰だって同じだぁ!!」
「なのに先日の件と言い、クラウンドばかりずるいぞ1!」
「だまらっしゃい、この変態共!!今日は調査資料も兼ねて、お願いしてちょっとだけ形を整えるのも兼ねて削ったロイヤルチェストの歯の粉と、せっかくだからということでナイトメアアラクネの糸を一玉持ってきているわ!!」
「ならすぐにそれを分析させろぉぉぉ!!」
「だったら今すぐに、各自研究室の整理整頓をしなさい!!先日、他の人から苦情が入ったし、一番に出来た人からあげるわ!!」
「「「やったるぞうだるぞぬっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」
こうでもしないと、部屋の掃除をしない人ばかりだから困るものだ。
この間なんて、誰かが悪魔でも呼び出してしまう様な珍事件が起きて、収めるのに困ったからねぇ‥‥‥あの時は何とか、謎の物体Xとでもいうサンプルをお願いしてどうにかこうにかなってよかったわ。
「とりあえず、全員掃除してくれるのは良いとして‥‥‥ぺータ、カルタン、いるかしら?」
「なんだなんだ?資料を優先にくれるのか?」
「違うわ。ちょっと気になることがあって、あなたたちの文献を少し貸してほしいわ。その代わり、こっちのアラクネの髪の毛を少し上げるわ」
「がってんでい!!」
「いくらでもどうぞ!!」
…‥‥何というか、絵面的に酷い気もするし、不安にもなる。
ここにいる人たち、勉強のできる大馬鹿者集団と呼ばれるけれども、この誘いでこうも簡単に乗ると厄介なことでもしでかしそうで恐ろしいものだ。
まぁ、同じ穴の狢でもあるあたしが言うのも何だけどね。出来れば、思い過ごしである事を望みたい。
そうでないならば、まだまだ珍しいものにお目にかかれそうだし‥‥‥何にしても、問題はそう早々と出てくるわけでもないか。
そう思いつつ、あたしは自分の研究室の方へ戻るのであった…‥‥
「ぎゃあああ!!ウルトラGが潜んでいたぁぁぁ!!」
「どこの誰だ!!コイツ発生させたのは!!」
「あ、こっちの研究室が買い取ったやつだ。ダンジョン産で通常の12倍の大きさになっているという珍しい奴で」
「そんなもんは流石にだめだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
‥‥‥良し、施錠して入ってこないようにしておこう。
気になることはあるが、今は隠れておこう。
というか、もうちょっと考えられなかったのだろうか。
それはさておき、動き始めて・・・・
次回に続く!!
‥‥‥ペットのインコが、書いているとめっちゃなく。
寂しいのか、かまってほしいのか。もう一羽買ってあげたほうがいいのか・・・・・




