1-19 さて、問題は無くなったと思いたかったが
‥‥‥冒険者が時として魔物を自分の仲間のように扱うケースはそこそこあり、魔物の身体能力やその他に関して人より優れた面もあるため、従魔として登録することがある。
場合によっては人以上に役に立つこともあり、だからこそ人ではなく従魔を得て冒険者になろうとする人も出ることがあるほどだ。
だが、魔物は生きた存在であり意志がある。武器やその他道具のようにただ使えば良いという訳もなく、それこそ最悪の場合は関係性が崩れ、そのままぱっくりと自分の従魔に捕食されるケースも存在している。
「ゆえに、従魔登録をした後は万が一に備え、討伐依頼を出す際に間違えずに確認するために検査を行う必要があると?」
「そうですね。特に今回ジークさんのハクロちゃんは、国滅ぼしの魔物という事で、データを得たいという話になっています。国滅ぼしの類になる魔物に関して、文献などは残しにくいですからね。過去には盛大に調べられるのが大好きすぎる魔物(?)もいたそうですが、特殊な例として考えないでください」
「(?)が付いているという事は、魔物でない可能性もあったと?」
「…‥‥魔物と言って良いほど、いや、魔物を越えた変態だった可能性もあるらしいですね」
王都のギルドから帰還して1週間後、冒険者としてどう旅をしていけばいいのか大体の確認を終え、出発の準備を整えていたところに来たギルドからの呼び出し。
何事かと思いつつも、ギルドの執務室にて副ギルド長のミリアムさんに聞いてみると、どうやらは黒の身体検査が必要になるという事であった。
「従魔登録した際に、本当は真っ先にやってもらうべきですが、従魔に関して診れる人というのは限られますからね。大抵の場合、連絡がついてめどが立ち次第、従魔を登録した人へ向けて通達しているのです」
「なるほど。でも、もうすでに移動していた場合とかだと、どう対応するのでしょうか?」
「ギルド間の連絡手段がありますからね。ギルドで冒険者の居場所の管理はできていますので、確認でき次第すぐさま連絡を行うことになります」
どうやら冒険者登録はギルドで共有されるようで、調べようと思えばすぐに確認できるらしい。
過去に冒険者資格を剥奪された人が何食わぬ顔で別のギルドで登録をし直そうとしたケースもあるようで、それを教訓にして色々な仕掛けが施されているらしい。
何にしても、ハクロの身体検査か…‥‥帰還して1週間、変化した体に慣れてもらう時間として活用して、狩りなども行ったけど、しっかりしたものでも確認したいかもしれない。
【シュ、シュル】
『いいよ、でも痛いのは嫌』
一応ハクロの気持ちとしてはやってもらっても良いらしい。自分の体は自分が一番わかると言いたくなりたそうだが、きちんと他者から見てもらわないと把握できないこともあるからね。
ちなみにまだ文字を糸で作って話しているが、会話ペース自体は前よりも早くなった。
ほぼ鳴くのと同時になって来たが、この様子だとそのうち文字だけで会話しそうでもある。
‥‥‥まぁ、いちいち読むのも大変だし、読めない人が出てきた際に会話しづらくなる可能性もあるので、現在発声練習もやっていたりするのだ。
人に似た容姿を得たからこそ、きちんと自分の口で話せるようになれそうだからね。過去の国滅ぼしの魔物でも、人語を話せるものもいたらしい。
「大丈夫です。身体測定とは言え、予防接種ではないですからね。なぜか魔物にしか感染しない魔物風邪の流行時期には従魔に接種義務が出ていますが、今回は注射はありません。特徴を確認するため、正確な体の記録を取っていくだけですよ」
【シュルシュルル‥‥‥シュル?】
『それなら安心‥‥‥今回はないが気になるような?』
そこ、気にしたらいけないとは思う。というか、魔物にしかない病気もあるのか。
そんな事を思いつつも、旅路に出る前にきちんと今の状態を確認するのは大切だと思い、身体計測を受けてから、このエルモスタウンを離れることにした。
話を聞くと身体計測用の医者が来るのは早くて明日のようで、そんなに時間を取ることもないらしい。
「あと朗報と言えばいいのかもしれませんが、今回来る魔物用の医者はまともな人ですね。何事もなく、平穏無事に終わることも言っておきましょう」
「まともじゃない人もいると?」
「ええ、そこのただ今貼り付け逆さづり全力仕事中のギルド長の、数少ない親友がそれだと思えばいいかと」
「納得した」
…‥‥入室した時からすでに目にしていたけど、聞く意味はないと思った。
しかし、そこのギルド長の知り合いじゃない人かぁ‥‥‥うん、何故だろう。物凄く安心できる気がする。
とにもかくにも、予定をずらして、早めの健康診断をお願いするのであった‥‥‥‥
「そう言えば逆さづりだと、頭に血が上って逆に仕事をやりにくいんじゃ?」
「あれ、ひっくり返すのはNGの魔法書類でして、しかもギルド長でないとできない類なのでどうしようもなかったのです」
「あ、てっきりお仕置きも兼ねているかと思っていたよ」
というか、そんな扱いにくいものを出さないほうがいいんじゃ‥‥‥何か意味があるのだろうか?
そろそろ旅立てそうだったけど、ちょっと伸びた。
まぁ、調べておくに越したことはないだろう。
そしてまともな人が来るという情報は貴重だろう。
次回に続く!!
‥‥‥数少ないと言うが、0じゃないのが確定した気がする。




