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それはいつか、魔王となりて  作者: 志位斗 茂家波
1章 旅立ちと始まり
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1-15 移動しておきましょう、そうしましょう

‥‥‥明後日になるのも結構早く、王城へ向かうことになった。


 とは言え、まともに馬車に乗って向かう手段は取らないそうだ。


「出来れば王城で正式に報告するまで、あまり目立たないように移動したいからね。そこで今回は特別に、ギルド間で使用可能な移動手段を使うことになるよ」

「お互いに許可を取り合わないと成り立たない手段ですが、無事に許可が下りたようです」


 ギルド内の宿泊所から出て、案内されたのはまた違う部屋。


 そこにあったのは、何やら大きな魔法陣らしいものが描かれた台座である。


「これが、ギルド同士をつなぐ『移動魔法陣』なのでしょうか」

「ああ、そうだよ。迷宮から発掘され、以降は各ギルドが設立されるたびに作られている魔道具の複製品だけどね。とは言え一度の稼働にはそこそこの費用もかかるから、そう簡単に使用許可も下りないものなんだよ」


 ギルド長と副ギルド長の説明によれば、これはギルドで緊急時やその他重要案件があった時、即座に出向けるようにするための魔道具らしい。


 迷宮やダンジョン、そう言った名称で呼ばれる特殊な場所でのみ発掘される特別な魔道具らしく、一度の稼働に燃料として魔物の魔石をかなり大量に消費するのでそうやすやすと使えるようなものではないそうだが、今回は特別重要案件という事で許可が下り、ギルド全体から予算が降りて使用許可が出たそうだ。



「何しろ、国を滅ぼしたこともある傾国の魔物と呼ばれるようなナイトメアアラクネがいるからねぇ。こんな辺境の地ではそうそう話が広がることはないだろうけれども、変なところが嗅ぎつけて余計に厄介なことにされかねない。だからこそ、さっさと報告して来いってことであっさり許可されたんだよねぇ」

「そんな早く許可が来るほどのものなのかな?」

【シュルゥ?】


 一緒に過ごしている身からすれば、ハクロがそんなヤバそうな魔物に思えることはないだろう。


 しいて言うのであれば、大蜘蛛の姿の時からだったけれども学習能力は高いようで、初日こそワンピースを作り上げる実力を持っていたのだが、宿泊所にいる間に他のギルド職員に頼んで衣服関係の本を貰って彼女が読みあさったら、今朝の時点で豪勢な蜘蛛の糸100%のドレスを作り上げる実力を得てしまったことぐらいだろうか。




 何にしてもそのドレスはギルドに寄付をしておくとして、さっさと移動することにする。


「それじゃミリアム君、副ギルド長としてわたしが帰還するまでギルドの事を頼む。王城のある王都のギルドを経由することになるが、王都ギルド限定土産はどうしようか?」

「なら、無事に帰還したのであれば職員全員分の王都ギルド饅頭を購入お願いします。お土産用の経費で落とせますしね。それとギルド長、また後で別の仕事が積み重なり始めますので、逃亡せずに真っ直ぐ帰ってきてください」

「分かっているよ」

「ハクロさん、こういう人ほど約束を守らずに即逃亡するので、帰る時にはしっかり厳重に縛り上げて持ち帰ってきてください」

【シュル!】

「さらっとギルド長に対して扱い酷くないかなぁ!?」

「というハクロ、副ギルド長と仲良くなったよね」


 まぁ、既に二度捕縛している実績があるのが原因らしい。普通はそうあっさりと捕らえられない人だと言うが、ハクロの手にかかれば即捕縛できるのが良かったのだろう。


 気を取り直して魔法陣の上に立つと、ギルド長は稼働させるためのカギを取り出した。


「結構久しぶりに使うが、ちゃんとあっちも稼働‥‥‥うん、大丈夫か。それじゃ、稼働するぞ」


 魔法陣の真ん中に小さく空いていた穴に差し込み、捻るギルド長。


 その瞬間、描かれていた陣が一瞬強く輝き、次の瞬間には場所が変わっていた。




「…‥‥ふむ、成功したようじゃな。久しぶりだゴラムリアよ」

「おー、ってつい先日に集会であっているぞ、バルゾーン爺さん」


 魔法陣のすぐそばにいたのは、バルゾーンと呼ばれた何やら物凄いひげが長いお爺さん。


 辛うじて頭はあるのだが、口元から伸びたものすごく長いひげが全身に巻き付いており、僕よりも背が低いようだ。


「そしてそちらが、手紙で連絡してきた新しい冒険者とその従魔になった‥‥‥傾国の魔物か」


 ギルド長の方を一瞥しつつ、直ぐに僕らの方へバルゾーンというお爺さんはこちらに目を向けた。


「なるほどなるほど…‥‥確かに、ナイトメアアラクネで間違いなさそうじゃのぅ。ほんの少し、ジャイアントタラテクトに接着剤でくっ付いただけの人間かと思ったが、確実に魔物のようじゃ」

「どんな疑い方をしているんだよバルゾーン爺さん」

「黙れゴラムリア。お主が小さい時に『スコーピオン系のように毒のある尻尾があれば、戦闘時に役立ちそうじゃねぇか?』と口にし、有言実行として鎧の肩当て部分をいくつももぎ取って接着し、尻から外せなくなった騒動を引き起こした前科があるじゃろうが!!」


 本当に何をやっているんだろうが、このギルド長。というか、うすうす感じ取っていたけど、もしかしてそうとう昔からこのギルド長って中身が変わっていない人なのだろうか。


 そんな知りたくもなかったギルド長の前科を聞いてしまいつつも、直ぐに場所を移動するのであった…‥‥



「それにしてものぅ、まさか傾国の魔物を従魔にする冒険者が出るとはな。前にもお主のギルドからはウルトラコックローチを従魔にしてみせたやつが出たこともあったが、辺境には大きな虫の魔物がでやすいのじゃろうか?」

「いや、偶然だと思うよ。それにしても懐かしいなウルトラ…‥‥あれ、出てきた際にはキャーキャー声が女の子たちから上がっていたっけ」

「黄色い声とかではなく、悲鳴じゃったがな…‥‥」


‥‥‥何だろう。前にも何かやらかしたことがあるらしいけど、詳しく聞いてはいけないやつだと感じ取れるぞ?




なにか前例があったから、実は許可が下りやすいのではなかろうか?

思わずそう疑いたくなったが、聞かないほうが幸せな話題だと感じ取る。

とりあえず今は、報告の方に意識を向けたほうが良いかもなぁ・・・・・

次回に続く!!



ところでギルドの長って、まともな見た目のまともな人っていないのだろうか。

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