1-13 ただの間抜けであれば、良かったはずだが
「‥‥‥それで本当に、王城へ彼女を連れていくことにしましたね」
「ああ。でも今すぐにとはいかないけどね。流石に連れて行くまでに準備はいるよねぇ」
副ギルド長の言葉に対し、軽く答えるギルド長。
ジークとハクロには一旦ギルドから出て王城へ向かう準備をしてもらいつつ、こちらはこちらできちんと手続きを行っていく。
「いくら何でも『やっばいの見つけたんで、王城に連れてきました☆』なんて軽く言ったら、確実に門前払いどころか危険すぎる魔物を連れてきたせいで反逆罪に該当する可能性があるからねぇ。事前に連絡が必要なのは理解できるけど、やっぱり面倒だねぇ」
「あ、そこは流石に分かっていたんですね」
「そうだよ。何年ギルド長をやっているんだと思うんだい?」
‥‥‥てっきり、何も考え無しで速攻で向かうと思っていた副ギルド長。
でも、こういう時に限って割と考えているところを見せてくるのだ。
「それが普段の仕事ぶりで出せればいいのに‥‥‥」
「真面目にやっていても、損することが多い世の中だからねぇ。適度に力を抜けばいいんだよ。とは言え、今回の件に関しては本気でやらないといけない事だがな」
先ほどまでのやや軽めな口調から切り替わるギルド長。
いや本当に、どうして普段からこういう感じの人じゃないのかとツッコミをいれたくなるだろう。
「…‥‥記録に残る中で、エリート種からさらに変貌を遂げた魔物というのはそろってずば抜けた力を持つ者が多い。その中でも、ナイトメアラクネに関しては国一つを滅ぼした実績があるのだ。そんな国を滅ぼせるだけの魔物が、少年の従魔となっている事態がそもそもとんでもない事なのだ」
「と言いますと?」
「彼女の様子や、ここに来てからの行動記録などを見ればそう簡単に滅ぼすような魔物でもないし、害さえなければ危険度が低いと言って良いだろう。だがしかし、だからこそやらかす馬鹿が出るのだよ」
強大な力を持つと言われている魔物を聞いて、何が出来るのか。
それが敵対するのであれば、多くの場合犠牲を払っても討伐の道を選ぶものが多いだろう。
けれども、人の手によって従わせることが出来るのであれば、その力をわがものにできるのではないかと考える者が出る可能性というのは0ではない。
「ジークという少年、彼自身が彼女を従えていることに関してはまだ良いのだ。関係性も良好であり、悪しき欲望などを持つ様子もなく、そこそこの実力を持ちながらも慢心せずに将来性あふれる若者だろう。しかし、それゆえに狙いやすいとも言えるのだ」
話した感じ、実力自体に関しては問題はない。
彼女との関係も良好で、悪い方向に導くことはないとギルド長は思う。これでも、ここのギルドを統べる者として人を見る目ぐらいはあるのだと自負をしているのだから。
「しかし、そこに付け込まれた時…‥‥悲劇が起こるのは、考えなくても想像できるだろう」
彼自身を懐柔するという手段もあるかもしれないが、亡き者にしてということを考える輩が出てもおかしくはない。
実力はあれども見た目こそはまだ幼き少年のように見え、そんな彼が強大な魔物を従えさせることが出来るのならば、自分達がすげ変わってもそのまま利用できると頭の悪い者どもは考えるかもしれない。
「‥‥‥国を滅ぼせるような魔物に関して、直ぐに報告を行うのは愚か者が確実に出ることも理由にあるのだ。たとえ、滅ぼせるだけの力があっても表に立つことを好まず、穏やかな生活を望む魔物もいるからな。基本的に討伐が推奨されるとは言え、眠れる怪物を好んで起こすような真似はしない」
それでも、起こしてしまう愚か者が出てしまうのはどうにもならないのだ。
そのせいで、いくつの国が歴史の中で滅ぼされ、人々の命が奪われたのだろうか。
「だからこそ、今回の事態は包み隠さずに報告し、王城に連れていく際にもしっかりとついていくとしよう。他国までに王族の権利が及ぶとは言い難いが、それでも畏きものならば国滅ぼしの余計な怒りを買う真似もしないだろう。それに、王族に謁見し、後ろ盾になってもらうことで愚者を防ぐ意味合いもあるのだ」
恐ろしい魔物だからこそ、後ろからそっと見守り、万が一が無いようにするしかないのだ。
国が幾つも滅んでいった事例があるからこそ、国滅ぼしの魔物に関しての扱いは全国で共通し、下手に手出しをしないように、する奴が出ないように動くのである。
「ああ、面倒だなぁ。愚者共が出た際に、被害を出される前にやらないといけないのは。とは言え、彼女を変貌させた原因と自覚しているからこそ、真面目に当たらないといけないのか」
遅かれ早かれ、姿が変わる可能性は大きかっただろう。
ギルド内でのごたごたや、盗賊たちの交戦の記録も聞いており、ゆえに最後の一撃を自分で下し、直ぐに行動を起こせるようにしたとは言え、それでも面倒なことになったのは変わらない。
「‥‥‥ま、力があるからこそまだ未熟な者たちを導くのも大人としての務めか。ミリアム君、明後日ごろに出発することを彼らに通達しつつ、出向いている間の留守を任せるよ」
「はい。任せてください」
「それと、せっかく王城がある王都へ出向くから‥‥‥ちょっと他の職員たちを集めて、コレの整理をしてくれないか?」
そう言いながらギルド長は懐から書類の束を取り出し、副ギルド長の前に置いた。
「これは?」
「留守にしていた間に、調べておいた他のところの調査用紙。ギルドに関わる職員やその他帰属に関してのものでねぇ、ここに載っているのはちょーっとばかり制裁が必要になる人ばかりだから、優先順位を頼みたい。悪即斬なら楽だけど、加減がどうも難しいしねぇ」
はははと笑いつつも、その目の奥は笑っていない。
どうやら中に書かれている者たちはふざけるような者でもなく、徹底的に潰すべきだと判断した者たちなのだろう。
「では、こちらの方で処理しましょう。それではギルド長、明後日に向かうのであれば王城迄の手続きやその他の作業をお願いしますね」
「わかったよ。ああ、こういう時に真面目にしないといけないのは疲れるなぁ…‥‥」
…‥‥辺境の地にあるエルモスタウンのギルドを統べる、ギルド長のゴラムリア。
普段こそはふざけまくっている愉快な逃亡犯としての認識を大衆に抱かれているが、彼がギルド長になる前のことを知っている者たちはどういう者なのか真に理解しているのだ。
かつて、冒険者の中で逝ける伝説の中の老子と呼ばれた人物に師事を乞い、冒険者の中でも最高ランクのSSSに一歩及ぶことはなかったが、それでも高い地位にまで上り詰めた冒険者だと。
ゆえに、誰よりも魔物やその他の危険なことに関してすぐに理解をして、行動に起こすことが出来るのだ。
そんな人物であると知っているものは数が少ないが、それで良いとゴラムリアは思う。自分はそんな大したものでもないし、のんびりアホのように過ごすのが性に合っているのだと分かっているのだから。
それでも、人をきちんと考える思いやりはあり‥‥‥だからこそ、あるかもしれない不味い可能性を潰すために積極的に動く。
ただの間抜けな不真面目野郎というレッテルが本当であればよかったのだが、そうはいかないものだなと思い、苦笑するのであった…‥‥
「ところでギルド長、一つ良いでしょうか?」
「ん?何だねぇ?」
「王城へ登城する前の報告書を猛スピードで書くのは良いのですが、身体データは何時取ったのでしょうか?バストウエストヒップ‥‥‥」
「見ればわかる!そう、そしてまだまだ成長する未来があることもね!!あ、でもミリアム君は残念だけど永遠のゼ」
…‥‥余計なことを言う口があるのは、ギルド長の痛い所だろうか。
だが、そんな欠点があるぐらい良いじゃないのと彼は言いたかったが、真っ赤に染まったのでまた最初から全部書き直す羽目になり、言う暇を無くすのであった。
そんな人なのに、なぜ辺境の地にいるのか。
色々と理由がありそうだが、それはそれでまた別の話。
ひとまず今は、綺麗にしないとなぁ・・・・・
次回に続く!!
‥‥‥真っ赤な花が咲くのは、もはやお約束なのか。




