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それはいつか、魔王となりて  作者: 志位斗 茂家波
1章 旅立ちと始まり
11/87

1-10 やらかしの種は、撒かれていたようだ

――――私の身体は、宿屋に入るには少し不便らしい。


 ゆえに、ここで寝るのも文句はない。


【シュルルゥ‥‥‥】


 ふと真夜中、何となく目を覚まし、周囲を見渡す。


 寝ているのは宿屋に併設された馬小屋の中であり、寝ているのはここに宿泊している馬たちだ。


 

 そして小屋の中から外の方を見れば星空と月夜に照らされて見える宿の姿があるだろう。




 あそこには、私と一緒にいるジークという人間の少年が寝泊まりをしているが、野宿している時とは違ってぐっすり安眠しているに違いない。


 人のいる街中というのは、夜中であっても衛兵たちとやらが警戒を続けており、私達がやる必要もないので安眠できるのは非常に良いことだ。


【シュルルル】


 起きたのは良いけど、やっぱり二度寝したくなるような眠気がゆっくり来たのであくびをして、再び足を丸めてしっかり安眠できる体勢へ移す。


 交代で見張りをしないで得られる安眠と言うのは、こうも幸せなものかと思っていたが‥‥‥ふと、ある事に気が付いた。


ビリィ‥‥‥

【…シュル】


 どうやら私はまだ大きくなれるらしい。


 体から聞こえた、破けるような音に自身の成長を気が付かされて脱ぐ用意を行うことにする。


 私はこうやって皮を脱ぐことで大きくなれるが、脱皮したての時は結構柔らかいので周囲の敵となる魔物や動物が怖ろしかったが、このような安心できる場所ならば警戒することもあるまい。


 そのためいつもの脱皮よりも少しだけゆっくりと丁寧に動き、少しづつ破けた個所から皮を脱ぎ去ることにした。


 皮は後で食べるが、今回はどのような味なのだろうか?人間たちの話だと、私のような魔物の脱皮した皮は防具などに重宝するらしいが、食べたことはないっぽいのがもったいないと思う。


 そう思いつつ、隅から隅までしっかりと脱ぎ去っていく。


 ずるずると脱ぐ感触は、今まで体を覆ってくれていた皮への感謝が詰まっているようで、そして今新しく形成された表面にはこれから使う皮への誕生を祝うような感覚がある。





【シュルッルゥ‥‥‥シュル】


 ぐいっと一番脱ぎにくい場所だった背中の皮も脱ぎ去り、食べる予定の皮をしっかりとたたむ。


 ああ、そうだ。ジークにもこの皮を分けてもいいかもしれない。人間ならば防具に使用するだろうが、この皮の美味しさも彼には知ってもらいたい。


 あの大怪我をしていた時に私に近寄って、共に強敵を退けた仲間。


 だからこそ、お互いに力を合わせた感覚がしっかり残っており、共有したいものはあるのだ。


【シュ、シュ、シュルルル‥‥‥シュ?】


 ぺちぺちと脱いだ後の皮をたたみ、彼にあげようと思う部分を切り裂こうとしたとき、ようやく私はある事に気が付いた。


 何やら、視線が高い(・・・・・)。いつもよりも高い場所から見下ろしており、ちょっと作業がしやすい。ただ、ちょっと前の方に重みがあるようだ。


 それと、足の感覚が何やら変な具合があり、今自然と使いこなしていたが‥‥‥あれ?私のこの前足、何か違うような‥‥‥


【シュルル、シュル】


 どうなっているのかと思い、腹を地面に付けて足を広げて確認したが、足に大した異常はないっぽいかな‥‥いつも通り片側4本、計8本(・・・・・・)‥‥‥んん?え、数おかしくない?私前足を使っているなら2本抜けて計6本ぐらいだよね?


 それでいて、この前足を使うような感覚をしている部分をよく見ると…‥‥これ、人間の手(・・・・)になってない?

 というか、私の前の方が重いのも、何か胸元にぶら下がっているし、頭の感じも目はあるけどなんか視界が違うし、触るとさらっと人の髪のような感触が…‥‥おおぉぅ?



 ペタペタと動かせる前足、いや、両手(・・)を使ってしっかり探り、私自身の形を把握する。


 そしてこれは何か夢なのではないかと思い、自分で糸を出してびしっとシバいたが、痛みはきちんとあるし、夢ではないっぽい。


 という事はこれは、間違いなく夢の中ではなくしっかりとした現実であり、感覚的に私に人の身体が生えたような‥この体の方にある頭に意識があるのだろうか。


【シュルシュル、シュ…‥‥シュルルルルルルルルゥ!?】


 うんうんと頷き、今の状況に納得しかけたが、信じられない事態だとようやく頭に思考が追い付き、思わず叫んでしまうのであった…‥‥








【シュルルルルルルルルルゥ!?】

「うわっ!?何今の声!?」


 真夜中、宿の中でぐっすりと寝ていた僕は今、外から聞こえて来た悲鳴に驚いて飛び起きてしまった。


 野宿とは違って、快適に安眠できる宿屋の生活も悪くはないと思っていたが、油断していたのかもしれない。


 というか今の声、ハクロの鳴き声だけど何かあったのだろうか?




「ハクロ、なにがあったの!!」


 宿で寝ている客たちも今の悲鳴で起きてしまったようだが、そんな事も構わずに僕は慌てて部屋を飛び出し、ハクロが寝ているはずの宿の横にある馬小屋へ駆け込んだ。


 流石に宿屋にハクロぐらいの大型の魔物が入れるような部屋は無かったようで、仕方がなく馬小屋の方を少し借りて馬たちと寝かしてもらったが、何かあったのだろうか。


 そう思い馬小屋の中に駆け込み、ちょうど月明かりが差し込んで照らし…‥‥その中にいたモノを僕は目にした。



【シュル、シュルルルル!!】

「‥‥‥‥へ?」




‥‥‥そこにいるはずだったのは、大きな黒い蜘蛛の姿をしたハクロである。


 だがしかし、照らされた月明かりに浮かび上がったのは、確かに蜘蛛の身体はあれども一回りほど小さくなっており、頭の方から何かが生えていた。


「…‥‥いや、違う?人が‥‥‥繋がっているというか腰かけて‥‥‥ハクロ‥‥‥なのか?」




 月の白い光によって照らされる、美しい女性の姿。


 けれどもその下には蜘蛛の体がしっかりと存在しており、ゆったりと腰かけているようにも見えるだろう。


 ショートカットで黒い髪をなびかせ、不安げな表情をした美しい美女。


 衣服を着ておらず素っ裸な状態だったので、その事実に気が付いて慌てて目をそらそうとしたのだが、その行動は遅かった。


【シュル、シュルルルルルルルルルル!!!】

むぎゅごぎぼぎぃ!

「もぎゃあああああああ!?」


 ばっと、その蜘蛛の女性は素早く跳躍したかと思えば、泣きそうな表情で僕の体を手繰り寄せ、豊満な胸元に沈め込みつつめきめきと嫌な音がなるほど締め上げて来た。


【シュルル!!シュルルル!!シュルルルル!!】

「ちょ、まっ、混乱しているか不安になっているか、わかったけど」

ぎゅうううううううううう!!めきめきめき!!

「折れる折れる!!骨がぁぁぁぁあああああああああああ!!」


 柔らかいものに包まれる感覚と、猛烈な骨の悲鳴が聞こえ、死んだ爺ちゃんの姿が川の向こうに見え始めるのであった…‥‥‥










「あだだだ…‥‥ハクロ、とりあえず落ち着いた?」

【シュ、シュルゥ』


 申し訳なさそうに落ち込みつつ、その蜘蛛の美女‥‥‥ハクロらしい魔物の女性に僕はそう問いかける。


 爺ちゃんが川の向こうから、適当な岩を投げつけてぶっ飛ばしてくれなければ、そのまま一緒に逝きかけたけどどうにか息を吹き返し、僕は彼女の糸で治療されていた。


「まず、確認を取るよ。ハクロだよね?」

【シュル】


 うんうんと頷き、答えるハクロ。


 しっかりと会話が出来ているのは変わってないが、姿が大きく変貌しすぎだと思う。


 あとまぁ、裸のままだとちょっと危ないので、上着を掛けたのだが…‥‥あとできちんとした服を買っておこう。なんかサイズが合わないせいで結構危ない。


【シュルル、シュル、シュルルル】


 何がどうなって今の姿になったのか、落ち着いて糸で作った文字も交えてハクロは説明してくれたが、どうやら彼女自身にも今の状態は分かっていないらしい。


 脱皮して片付けている最中に、自身の変化に気が付いたようだが‥‥‥魔物に人の体が生えてくるものなのだろうか?


「そんな話、聞いたこともないしなぁ…‥‥あ、蜘蛛部分は脱皮前より小さくなっても、あまり変わらないね」


 一回りほど小さくなったが、それでもしっかりとした蜘蛛の身体は残っている。


 それに、頭の方も元々あった部分には口や目が無くなっているが、新しい人の体の方にある頭にあるようで、目も二つあるように見えて、髪をちょっとかき分ければ残る他の目もものすっごく小さいながらも残っているようだ。


【シュルルルゥ】

「突然の大きすぎる変化に、思わず混乱したか…‥‥うん、まぁそうだよなぁ、いきなり自分の体が知らないものになっていたら、泣き叫ぶ以外に何があるのだろうか」


 不安になる気持ちを理解しつつ…‥‥うん、結局どうしてこうなったのかわかっていない状態。


 この場で僕らがこれ以上知識を得ることはできないし、ここはもうギルドに行って聞いた方が良いのかもしれない。でも、今真夜中だしなぁ‥‥‥宿の方もさっきの悲鳴で起きた人がいたようだけど、落ち着いた頃合いですぐに誰かが来る様子もない。


「夜中でもやっているっけ?」

【シュル、シュルルル】

「ああ、うん。深夜は夜勤の人がいるけど、わかる人は多分いないってか‥‥‥となると明日の朝一番に向かった方が良いかもなぁ」


 とりあえず、現状はどうしようもないし、朝一番にギルドに向かって聞くしか手がないだろう。


 登録していた従魔が、ダークネスタラテクトから何か違う種族になったと申し込む感じになるとは思うが、他にも余計な混乱を招きそうな気がしなくもない。


 でも、何もしないよりもまずはしっかりと聞ける人がいたほうがいいと思い、朝にギルドへ向かう事を決める。


「それじゃ、このまま朝まで‥‥‥いや、ここで一緒に寝ようか」

【シュルルルルルゥ‥‥】


 宿の中に引き返して部屋で寝ようとしたが、落ち着いてもまだ突然の変化で不安な心が隠しきれないせいか、ぎゅっとハクロが裾をつかんで訴える。


 その為、朝に彼女を見て叫ぶ人が出た際に、事情をすぐ説明できた方が良いかもと思い、僕等は一緒に寝ることにしたのであった…‥‥


「あ、でも馬小屋で寝れるかな?」

【シュルル、シュル!】

「うわっ、即席でハンモックが!?糸の出す速度や加工技術も上がっているのか…‥‥」


 お、乗って寝てみると結構居心地がいいかも。伸縮してフィットするし、心地よい揺れが眠りやすいかも‥‥‥



そう言えば、説明ってどうすればいいのか。

「寝ていたら、蜘蛛から美女が生えました」とでも言えば良いのか。

うーん、頭おかしい人にしか思えない説明かも‥‥‥

次回に続く!!



‥‥‥脱いでいる最中に気が付きそうだけど、結構天然なのか。

それとも自然に動かせ過ぎて、違和感を感じにくかったのか。

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― 新着の感想 ―
[一言] あら、誰も書いて無いの?もったいない。 明らかにアラクネとかアルケニー(めがてん)なのに。
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