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それはいつか、魔王となりて  作者: 志位斗 茂家波
1章 旅立ちと始まり
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プロローグ

アルファポリスと同時掲載と書きつつ、

投稿忘れていてすいません。

新しいお話をどうぞ、お楽しみください。

―――ざぁぁっと雨が降りしきり、暗雲が立ち込める。


 ここは人が立ち入らぬ魔境であり、凶悪な魔物たちがひしめき合うのだが、そのような状況だからこそあえて隠居の地として選び、俗世から離れた生活と鍛練の日々を送る者もいた。



「‥‥‥それなのに、これはどういうことなのだ」


 人里から離れ、煩わしい国から解放されて十数年。


 穏やかに暮らしていたその老人は、気まぐれに雨中の散歩をしていたところで、それを見つけた。




 雨の降りしきる中に、放置されていたのは一人の赤子。


 だいぶ衰弱している様子だが、それでもまだ命はあるらしい。


 だが、なぜ赤子がこの人里離れた魔境の森の中にいるのかといえば…



「この臭い、雨に紛れていたようだがあの巨大な鳥が原因か」


 近くにいたのは、真っ黒こげになってぶすぶすと煙を出して焦げている巨大な鳥。


 これもまたこの森に住まう魔物なのだが、時たま遠方で出て狩りをすることがあり、牛や馬などをつかんで運んで飛ぶさまを何度も見かけたことがあった。


 天候や状況を整理して推測すると、おそらくこの巨大な丸焦げ鳥はここへ戻る前にどこかの人里に寄り、赤子を餌にしようと考えて攫ってきたのだろう。


 牛などに比べると明らかに量は少ないが、おやつとしてゆっくりと味わおうとしていた可能性がある。まぁ、そもそもこの鳥自体は大食いでもないので、もしかすると干して保存食などにしようと考えていたのかもしれない。



 だがしかし、本日は久しぶりのかなり激しい嵐となっており、偶然落雷が直撃したことで落下したのだろう。


 命は落としたが、幸か不幸かその巨体のみが焦げ付くされつつも全身に伝わり切らず、羽毛が偶然クッションとなり、赤子の命を救ったのだろう‥‥‥雷の直撃はどう考えても掴んでいた赤子にも十分巻き添えになるはずだが、無事でいたことはかなりの幸運である。


「そう考えると、悪運が強いのぅ。成長すれば、大物になるかもしれん」


 せっかく拾った命だ。このまま耐えさせるのも忍びはない。


 けれども、親を捜して届け出たいところだが、生憎どこで生まれ育ったのかも分からないし、魔境を離れて人里に探しに出たとしても、既に死亡届が出されている可能性もある。


 赤子の方に何か特徴でもないかと探るも黒目黒髪以外には特徴がちょっと乏しい。


 難しいかと思いつつも目を移していくと、老人はある事に気が付いた。




 右手に浮かぶ、三日月のようなあざ。いや、あざと言うには少し変わっており、ぼんやりと光っているようにも見えなくはない。



「この模様‥‥‥そうか、この子が」


 かつて滅びた、とある国に用事で訪れた際に、残された書庫を見つけ、興味本位で呼んでいた時があったが、その中身にこのあざに関する話があったことを思い出した。


 過去にあった栄光にしがみつき、既に力も失っているというのに魑魅魍魎のような輩がうようよとひしめき合うところだが、それでも歴史はそれなりに古かったようで、かなりきめ細かな詳細が記されていたから印象強かったのだろう。


 はたまたは、それ以外の書はほとんどが自慢話のオンパレードで、嘘偽りが多そうだと思って呆れていたところもあったせいか、まともなもののほうが覚えやすかったのも理由かもしれない。


 


 とにもかくにも、興味本位だったとはいえ内容を覚えていたが、おそらく今の世に住むの者たちには理解されていないはずだ。あの滅んだ国の書庫は、持ち帰った後国の学者に渡そうとしたところ、不慮の事故で全部失う羽目になったのだから。




「何にしても、親も分からぬから届けようもないし…‥‥ここは思い切って、儂が育ててみるか」


 何もせず、ここで穏やかに過ごさせたほうが良いだろうと老人は考える。


 この子の手に浮かんだ三日月のあざはそれだけ意味のあるものであり、俗世に帰すのは不味い事だろう。一応、見えないようにするための簡単な仕掛けは施すことはできるが、力を使う時が来たらすぐに隠蔽は無意味と化すだろう…‥‥無いと思いたいが、やっておいて損はない。


「しかし、そうなると赤子の育て方なども知らぬとな…よっちゃんやゼーの坊主に聞いてみるか」



 若いころには武者修行の旅に出ていたやんちゃな時もあり、その中で頼りになる友人たちと知り合い、隠居した身であってもその交流関係は失われていない。


 だからこそ、経験としては自分より豊富な者たちに聞き、この赤子を育て上げようと老人は思った。



「それと、この模様があるという事は…ふむ、()はすでに用意されているのだろう。ならば、後は時を来るのを待つだけなのかもしれぬなぁ」



 その時が来るというのは、もうわかっていること。


 ならば、待つとしよう。寿命が持つとは思えないが、尽きたとしても友人たちが面倒を見てくれるだろうし、立派に一人立ちをする時を見ることができるかもしれない。


 人生と言うのは最後まで何があるのかも分からないもので、この不思議な運命のめぐりあわせに老人は赤子を抱きつつ、思わず笑うのであった‥‥‥‥



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