内緒
俺が、今月で最後にあなたと会えるというときに、バイトを休んだ。後悔している。いろんな意味で本当に後悔している。
じいちゃんは、あなたが店に来ていつもいる俺がいないことに、戸惑って立ち止まっているのに気がついた。そして、いつもの席に案内をした。
「すまないね。今日遼は体調が悪くて休んでいるんだよ」
「お孫さんは遼さんっていうのですか? 」
「おや、知らなかったのかい?あの子は、楠木遼っていうんだよ。てっきり、知っているかと思ったよ。いつも、仲良く話しているもんだからね」
「遼さんは、あまり自分のことを話さないので。失礼ですが、どこか体が悪いんですか? 」
「それは、すまなかったね。せっかくだ。それを含めて話してあげよう。でも後で、遼に怒られてしまうね」
そう言ってじいちゃんは、俺のことを勝手に話始めたらしい。お客さんがいなかったらそれを利用しての犯行だった。
俺には、両親がいないいこと、生まれつき体が弱くて、体調を崩すこと。そして、よく入院すること。それもあって高校行かなかったこと。今は、十八歳になったこと。勝手に俺のことを全部、あなたに言ったそうだ。
あなたは、他のお客様と俺達が話しているのを聞いて、俺のことを少しは知っているかもしれない。俺の名前とか?
常連客には、よく「遼ちゃん元気?体調はどう? 」と聞かれてたからだ。
その日は、風邪をひいて寝ていた。体調が良くなってからばあちゃんが話してくれた。
聞き終わったあと、俺はじいちゃんをすごく怒ってやった。勝手に俺の個人情報を事細かに、ペラペラと話されたからだ。
じいちゃんは俺に謝りながら、あなたは俺のことで泣いてくれたと言った。
「私は、何も知らないで自分のことを話してしまった。遼さんを悲しませてしまった」
あなたの言葉を聞いたじいちゃんは、こう言ったそうだ。
「遼を、悲しませてなんか無いよ。遼はね、自分の出来なかったことをさなえちゃんから聞いて、私達に嬉しそうに話してくれてるよ」
それを聞いて俺は、なんだか複雑な気持ちになった。じいちゃんに、勝手に俺のことをあなたに話したことに対して一方的に怒ってしまった。理由を聞かないで。
あなたが泣いてくれたことを、申し訳ないより嬉しいと思ったのは、自分のことを家族以外で分かってくれたから。
「何で、遼に話したんじゃ?わしとばあさんとさなえちゃんとの内緒話なのに、遼に怒られてしまったじゃないか」
と、じいちゃんが、ばあちゃんに言い訳をするように言った。
「勝手に話した、じいさんが悪いよ」
と、ばあちゃんが言った。
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