僕の大切な思い出
前回は、別に投稿した物語です。
遼が亡くなり、叶翔が大きくなったときのことです。自分の名前の由来に興味を持ちました。
これは、僕の大切な思い出。
晩御飯を食べ、片付けも終わった頃だった。
僕は、おじいちゃんに、「お風呂に入って」と言いに行った。そのあと、リビングでソファーに座るお母さんに話しかけた。
「ねぇ、お母さん」
「叶翔、どうしたの? 」
「僕の名前の由来ってどういう意味? 」
「いきなり、名前の由来を聞いてなにかあったの? 」
「学校の授業で、自分の名前の由来を調べてきましょって先生に宿題を出されて」
「なるほど。まず、最初にその説明をしてほしかったな」
「ごめんなさい」
「いいよ」
そう言ったあと、さなえは立ち上がった。そして、叶翔を抱きしめながら言った。
「叶翔の名前を名付けたのは、お父さんだよ」
「そうなの? 」
「うん。お父さんが、一生懸命に考えてくれたんだよ」
「叶翔、ちょっとついていきて」
そして、お母さんは、お父さんの部屋に僕を連れていった。お父さんが、亡くなってから、掃除はされたが当時のまま残されていた。
お父さんの机の引き出しから、なにやら年期の入った箱を取り出した。
お母さんは、さらにその箱の蓋を開けて中身を取り出す。
「これは、なんだと思う? 」
「なんだろう? 」
「これはね。お父さんが、叶翔が大きくなったとき見せてって、物語の最後の方に書いていたの。読んでみて」
「うん」
それは、物語とは別の本のようなものだった。お父さんが僕たちに遺した対の物語だと思った。物語は小さい頃から何度も読んでもらったことがあるけど。これの存在は、初めて知った。
その本のようなもののタイトルは、お母『叶翔へ』だった。そこには、たくさんの写真が貼られていて、僕の成長記録を書いてあった。
そして、ひとつひとつにコメントが載っていた。例えば、今より小さい僕がたっている写真には『初めて立ったよ。とても上手!! 』やカメラ目線の僕の写真には『最初はおとたんからおとうさんと言ってくれた』などが書かれていた。
そこには、お母さんと僕が写っている写真は、あってもお父さんとの写真は無い。いつも、お父さんが撮っていたからだ。読み進めていると、お目当ての名前の由来について書いている文章を見つけた。
『叶翔が、大きくなったときに、名前の由来って聞かれると思うんだ。叶翔の名前の由来はね。叶っていう字は、願いや夢をかなえるって意味があるんだけど。翔、とぶって意味もあるんだけど。お父さんは、叶翔に高い壁にぶつかっても、辛いことがあっても諦めすにその羽で壁や辛いことを翔びこえて、自分の道を作って欲しいっていう想いを込めたんだ。今読んでいる、叶翔には、難しいかもしれないね』
それには、ひとつひとつに、フリガナがふられていた。何歳の僕が読むか分からないからかもしれない。お父さんの優しさを感じることが出来た。
そして、自分がいないことも予知しているようにも感じた。
僕はそれを読みながら泣いて、お母さんは僕の背中を優しくさする。俺はまたペラペラとページをめくる。
最後のベージには、お父さんが生きていた時に撮った僕の誕生日の時の家族写真。
そして、最後のページの隣には、お父さん、お母さん、僕の三人だけの家族写真が貼られていた。
そこに写るお父さんの表情は、とても幸せそうな笑顔だった。僕は、お父さんの顔をよく覚えていない。
だからその写真を見ておぼろげだったお父さんの顔をがはっきりしたんだ。
『叶翔、起きて!朝だよ。せっかくの休みだからって早くしないと、朝ごはん食べれないよ』
『分かったよ!おかあ…。えっ?お父さん? 』
『お母さんじゃなくて、ごめんね。お父さんだよ。どうした? 』
『何で? 』
『大丈夫? 』
『ベ別に、大丈夫』
『そう良かった。早くご飯食べよう! 』
『うん! 』
三人で、朝ごはんを食べる。おじいちゃん達の朝は、早いから一緒に食べていない。僕は、朝ごはんを食べる前に洗面所に行った。
『遼さん。さっき叶翔を起こしてくれてありがとう』
『いいよ。さなえちゃんは、いつも朝ごはんを作ってくれてるから。叶翔を起こすのは俺の仕事だろ? 』
『そうだね』
僕は、洗面台で顔を洗ってリビングに戻ろうとしたとき、ふたりの声が聞こえた。
お父さんが生きていた時に、確かに僕を起こすのはお父さんの仕事で、お母さんは、朝ごはんを作っていた。
たとえ、夢でもうれしい。お父さんに会えたから。お父さんが亡くなってから何年も立つ。成長した僕を見て欲しいと思った。
『お父さん、改めておはよう!お母さん、おはよう! 』
『『叶翔、おはよう! 』』
『今日は、お店が休み』
『えっ? 』
『たまには、家族サービスしないとね』
『そうだね。遼さん』
『ねぇ、お父さん』
『改まった顔をして、どうした? 』
『僕に、叶翔って名付けてくれてありがとう!この間、お母さんにね。名前の由来を聞いたんだ。それで、僕の名前が今まで以上に好きになったよ。お父さんに、なってくれてありがとうございます! 』
『叶翔。そう言ってくれて、お父さん嬉しいよ。こちらこそ、生まれてきてくれてありがとう』
『……僕ね。ずっと、お父さんに言いたかったから、言えて良かった! 』
『そうなんだね』
『うん! 』
『さなえちゃん、どうして泣いてるの。俺の方が泣きたいのに……』
『だって……、ふたりが……。もう、遼さん分かってるのに聞かないでよ』
『ごめんね』
『お父さんとお母さん、相変わらず仲良しだね』
『相変わらずじゃないよ。ずっと、仲良しだからね』
『もう!遼さん! 』
そして、三人で笑う。とても楽しい時間。夢なんて、覚めないで欲しい。まだ、お父さんといたい。
『叶翔』
『何、お父さん? 』
『これからも、みんなをよろしくね』
『任せて、お父さん! 』
『うん!あと、さなえちゃんは、無理をしないでね』
『うん、分かってるよ。私も遼さんと、どこまでも一緒に生きれて幸せだったよ』
『うん!ありがとう、さなえちゃん』
最後に、お父さんの笑顔を目に焼き付けた。
声が聞こえた。
「叶翔、起きて!」
「お母さん?」
「今、夢でお父さんに会ったよ」
「えっ?僕もお父さんと夢で会ったよ」
「「もしかして、同じ夢を見ていた? 」」
「お母さん。お父さんに、会えて良かったね」
「うん。お互い、お父さんに言いたかったことが言えて良かったね」
どうやら僕達は、あのまま寝てしまってたようだ。その前は、お父さんのベットの上で腰をかけていた。でも、今はベットで二人して寝ていた。
そして、布団をかけられていた。あとで、おばあちゃん達に話したら、こんなことを言われた。
「きっと遼の仕業だね。あの子は、ふたりのことが大好きだから。きっと、自分の話をしてくれて嬉しかったんじゃろうな」
「ふたりとも、良かったのう。ワシのところにも来て欲しいわ」
「また、始まった」
おばあちゃんは、いけいけと手振りで僕達に合図してくれたので、その場をそっと離れた。
「お母さん、僕ね」
「うん」
「やっぱり、お父さんのことが好きだな」
「うん、お母さんも好きだよ。叶翔よりもね」
「僕が、お母さんのことを守るね」
「ありがとう!叶翔」
夢だけど。お父さんに会えて、言いたいことを言えて良かった。お父さんに、また会いたいって思う。
でも、次会うときはもっと先だ。これは、夢でも僕の大切な思い出だ。
「だから、お父さん。安心して、天国で僕達を見守ってね」
とお仏壇で手をあわせた。
お供えしていた花が、答えるかのように揺れていた。
読んでいただきありがとうございました。
遼は、さなえと叶翔にそれぞれ物語を遺しました。
もし、自分の命が短いことを知ったら、あなたは大切な人に何を遺しますか?
これで、『あなたに』は、完結です。次回は、『幸せを願って』で会いましょう。




