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あなたに(改正版)  作者: 宮原叶映
20/21

(番外編)最初で最期の手紙

本編では、描かれていないもうひとつの物語がありました。本編第12話『結婚』のあとの話です。


遼は、二十歳になった。つまり、大人の仲間入りだ。おばあちゃんたちは、遼の両親について語るのです。

 俺が二十歳になったときに、おじいちゃんが一通の手紙を渡してくれた。

 

「本当は、渡そうか迷っていたんじゃがな。今の遼なら大丈夫って、ばあさんが言うもんでな」

 

「大切にするんじゃ」

 

 と、二人の表情がどこか俺を心配している感じがした。

 

「うん。分かったよ」

 

 その手紙が入った封筒には真っ白だった。封を切って手紙を取り出すと、白い便箋にたくさんの文字が書かれていた。

 

 

『 いきなりこんな手紙を送りつけてごめんな。   

 俺はお前を産んだゆかこのことを今でも愛してるんだ。

 ゆかこは、お前を産むのが難しいって医者に言われた。体力が持たないからと。ゆかことお前のどちらかを選べばどちらかが助かるとも言った。俺はお前じゃなくて、ゆかこに生きて欲しかった。でもゆかこは、生まれてくるお前に生きて欲しいと言った。

 ゆかこは、『私達の子供が生まれるのよ。私はそれがとても嬉しいから。私、頑張るね』って笑顔で話すんだ。それをみたらもう反対何て出来なくなった。

 こんな俺じゃお前を育てれないって思った。ゆかこが亡くなって生きる源も同時に失った。 

 お前が生まれてすぐに、医者から生まれつき体の弱い子って言われた。

 ますますどうしたら分からなくて。自分自身の心が崩壊しそうだった。

 俺のろくでもない親に頼ることも出来なかった。


 だから、ゆかこの両親にお前を預けたんだ。二人には、俺のことを話さなくていいって言ったんだ。おれが写ってる写真は、全て捨ててくれって頼んだ。二人は、すでに俺のことを少し話したかもしれないな。


 お前は捨てられたと思うだろう。俺はお前を育てる勇気が無かった。ゆかこのことをお前の母さんの死から立ち直れない。始めはお前を育てようとも思った。

 でも、育児放棄して死なせてしまうかもしれないって不安になった。その当時ならしていた可能性は高かった。ゆかこは自分の生を犠牲にして、お前を生んで死を選らんだのに、俺が殺してはいけないと思った。

 だから、俺はお前に生きて欲しいからゆかこの両親に預けたんだ。

 そんな俺は、お前に父親って認めてもらったり会ったりする資格なんてない。

 

 内容がぐちゃぐちゃで長くてごめんな。これは、すぐに捨ててくれていいから。

 

 遼、誕生日おめとう            』

 

 

 俺は手紙を読んで、ポロポロと涙を流した。今さら何でこんな手紙を書いたんだ。あんたのせいで、俺の人生はめちゃくちゃになったのに。俺のことを何も想ってなかったら、怒れたのに。

 自分ばかりせめて、何逃げようとするんだ。あんたは、お母さんのことが何よりも大切だって知ってる。ばあちゃんたちが教えてくれた。

 あんたは、俺に愛情なんてこれっぽっちもないと思ってたのに。本当に手紙の内容がぐちゃぐちゃで癖が強い字で書いて、それがもしどうしようもない内容だったら捨ててやるのに。

 たくさんの感情が込み上げてきて、大人になったって言うのにまだ涙が止まらない。

 

「遼、そのままでいいから聞くんじゃ」

 

 と、ばあちゃんは静かに言った。

 

「遼の父親の颯都(りくと)とは、一ヶ月前に約二十年ぶり会ったんじゃ」

 

「えっ?」

 

 ばあちゃんは、衝撃的なことを言った。音信不通で俺を捨てて死んでるかもしれない人に……会ったって言われてもすぐには信じれなかった。

 

「遼のお母さんの月命日の墓参りの時だった。娘のゆかこが亡くなってから何年たっても、ばあちゃんたちより先にお墓がきれいに手入れされていたんじゃよ」

 

「楠木家の墓の手入れする人も限れているから、不思議に思ってな。この間は、いつもより早く墓参りに行ってな。そこで颯都に会ったんじゃ」

 

 二人は交互に話していく。

 

「遼のお母さんのゆかこのことを想ってくれた人じゃ。その人と娘が結ばれなかったら、ゆかこが命をかけて生まなかったら、遼はこの世にいなかった。それにな、お前の父さんは遼のことを想ってばあちゃんたちのところに預けに来たんだ。遼は、父親に捨てられてなんかないんじゃよ」

 

 ばあちゃんの話で余計に、泣き止めなくなった。

 

「今まで、話せなくてすまんかった。じいちゃんたちはな、事実を知って遼の体調が悪くなるのが恐かったんじゃ」

 

「じいちゃんたちは、悪くないよ。俺が自分のことでいっぱいで、向き合いなかったからだ」

 

 ばあちゃんたちは、何も言わなかった。


「じいちゃん、ばあちゃん、ありがとう」

 

 俺は、自分の部屋に駆け込んだ。赤ちゃんのように泣いた。涙が止まらなくて、顔や感情がぐちゃぐちゃになった。

 

 とりあえず、状況を整理しよう。パーティーのあとさなえちゃんにプロポーズをした日のだった。


 今日は、遅いから俺の実家に泊まることになってて。おばあちゃんは、前にあの人に会って手紙をもらったってこと?

 で、あの人は生きてて俺のことを想っていてくれたってこと?

 

 コンコンと、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 

「遼さん、今いい? 」

 

「ごめん。今は……」

 

「無理でも入るからね」

 

 俺の言葉を遮り、さなえちゃんが部屋に入ってきた。

 

「遼さん! 」

 

 俺の名前を呼び、さなえちゃんはぎゅっと抱き締めてくれた。そうしたら、涙が止まった。

 

「遼さん、さっきねおばあちゃんたちと話したの聞いちゃった」

 

「……」

 

「遼さんが飛び出したあとに、私もおばあちゃんたちにその話をしてもらったの」

 

「……」

 

「遼さんのお父さんとおばあちゃんたちが、遼さんのお母さんの月命日に会ったたのは聞いたでしょ」

 

「うん」

 

「おばあちゃんたちは、遼さんのお父さんに再会して最初に思ったのは憎しみじゃなくて喜びだった。遼さんに会って欲しいって、おばあちゃんは頼んだ。でも、お父さんは断った。今さらこんな男が、遼に会うのはおかしい。資格なんてないって。かたくなに会うのを拒んだ」

 

「俺のこと何てどうでも良かったんだ」

 

「違うよ。遼さんは、手紙を読んで知ってるはずだよ。お父さんは、遼さんのことを今でも想ってくれてるの」

 

「分かってるよ。でも、あの人はお母さんだけが好きすぎて忘れられなくて、俺の父親の責任を捨てたんだ。それは、変わらないだろ? 」

 

「違うよ。遼さんを守ろうとしたんだよ。ずっと、遼さんのことを想ってる。その証拠に、遼と遼さんのお父さんとお母さんの三人の写真を肌見離さず持ってるの」

 

「えっ? 」

 

「遼さんが生まれて、産声を聞いてお母さんとお父さんは安心した。お母さんの容態が悪くなると思って、病院に許可を取って生まれたばかりの遼さんをお母さんは抱いて、その隣でお父さんは二人を見ていて幸せな時間を一枚の写真におさめてもらったの」

 

 さなえちゃんはそう言って写真を見せてくれた。でも俺は写真に映る男の人が父親なんて……。


「そんなの知らない」

 

「おばあちゃんたちも再開するまで知らなかったって言ってたよ。おじいちゃんが会わないのなら手紙を書いてやりなさい。遼の二十歳の誕生日に、今の想いを書いて伝えてあげて欲しい。遼のことを想うなら今度のゆかこの命日の時にここに来るからその時に渡してくれって頼んだの」

 

「そんなの知らない」

 

「うん。そうだね」

 

 さなえちゃんそう言って、俺の背中をポンポンと撫でてくれた。

 

「みんな、遼さんが大切で大好きだからね。想ってこそ言うのを悩んじゃうんだよ」

 

「うん」

 

「遼さん、大丈夫だからね」

 

「うん、さなえちゃん。俺ね……」

 

「うん」

 

 俺は、深呼吸をした。

 

「あの人は勝手だよね。一人で悩んで、決めて、嫌われるようなことして。償いのような感じでお墓掃除してさ……」

 

「うん」

 

「今さら、こんなことされても知らない」

 

「うん」

 

 俺の感情はぐちゃぐちゃになった。

 

「俺には、父親がいたってこと? 」

 

「うん。でも、お父さんはもういないの」

 

「えっ? 」


「お父さんは、一週間前に病気で亡くなったの」


「えっ? 」


「末期の癌でね。ばちゃんたちと再会した時も何も言わなかった。今日の日付で大きい封筒におばちゃんたち宛の手紙と遼さん宛の手紙が入ってたの。自分が長くないのを知って、一生懸命その手紙を書いたんだって」


 手紙をよく見ると癖じゃなくて文字が歪んで汚かった。父親の存在を知った日に、父親がこの世から消えたのを知った。俺にはもう父親はいないんだ。俺にとってあの人は父親だった。



 翌日になって、ばあちゃんたちから改めてあの人話を聞いた。

 昨日朝ご飯を食べてから、二人でお母さんの墓参りに行った。いつも自分たちよりも先にきれいになってるはずの墓は手付かずだった。

 ばあちゃんたちは不思議に思いながらも掃除した。しばらく待ったが、あの人は来なかった。

 二人が立ち去ろうとした時に、一人の女性が話しかけた。その女性は、あの人の幼なじみで「颯都さんからこれを渡すよう頼まれました。もう一つ別に手紙を送ってるとも言ってました」と言った。理由を尋ねると、あの人が死んだことを知らされた。 


 ばあちゃんたちは、家に帰ってから届いてる手紙を読んだ。そして、音信不通の空白の時について知った。女性に渡された封筒の中に、最初で最期の家族三人の写真が入っていたらしい。おばあちゃんは彼の幼なじみがこう言ったのを思い出した。


「颯都さんは、最期まで離さなかったんです。でも、彼言ってたんです。『俺が死んだら、これをゆかこのお墓に来る老夫婦に渡して欲しい。これが無くても俺が死んだら、ゆかこに会えると思うから』って、私に託してくれたんです」


 もしかしたらその幼なじみの女性は、あの人を愛してたのかもしれない。なぜかそう思った。ダメなあの人が病気を患っても、生きてこれたのは理解のある人がそばにいたからだとも思った。


 俺は、それを聞いても父親がいないのは変わりがないと思った。

 でも、あの人からの俺への想いだけは受け止めておこうと思うんだ。

 この手紙は最初で最期のお父さんが俺を想ってくれた証だと思った。 

 だって、俺の誕生日を祝ってくれたから。

読んでいただきありがとうございます!


遼の父親のことをあなたはどう思いますか?




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