まだ、生きる
俺は、夢をみた。さなえちゃんは、泣いている。
さなえちゃんの手の中にひとつ小さなものが泣いていた。それは、赤ちゃんだ。
何で泣いているのかなと、思って声をかけようとしても、喉から声が出ない。
何でだろう?目の前にさなえちゃんがいるのに、俺はベッドの上で眠っていた。
怖くなった。俺は死んだのかと思った。
死にたくない。まだ、生きたい。これは、もしかして未来なのかと混乱した。
どこか遠くで彼女が、俺を呼ぶ声が聞こえたんだ。
「り・・・さ・・ん!りょうさ・・・ん!起・・・て! 」
あまりにも今、俺が見ている景色ではない。違和感を感じた。まだ声は聞こえている。
「りょう・・・さ・・・ん起き ・・!遼・・さん! 」
なぜか声が増えた。
「さな、どう……た?こ……な夜……遅……に」
「遼……さん……が起きな……の!死に……くないってうな……ているの!変な汗も出……の! 」
「遼!起……ろ!大丈夫だ!お前は、まだ、生きてる! 」
「生きてる? 」
見ていた、景色が変わった。目の前にさなえちゃんと隼咲が、ホッとしてため息をついていた。
「よかった。遼さんやっと、起きた」
「一先ずよかった」
「遼さん、大丈夫?すごくうなされてたよ」
「遼、どんな夢を見ていたんだ?ゆっくりでいいから話して」
「俺が、病院のベッドの上で死んでいて。さなえちゃんが赤ちゃんを抱いて、しかも二人とも泣いているだ。俺は、まだ生きるって思っているのに否定された感じがして……。俺は、まだ生きたいのに死にたくないって……怖くなった」
「そうか。だから死にたくないって、うなされていたんだな」
「うん。そうしたら二人の声が聞こえた。隼咲に『まだ、生きてる』って言葉が聞こえて、これは悪い夢だ。それで俺は、生きてるのか。目の前の俺は、死んでいるのに生きてる?疑問に思ったんだ。そうしたら、目が覚めたんだ」
「なるほどな。その疑問が、声に出て夢から覚めたんだな」
「さなえちゃん? 」
「……」
さなえちゃんは、下を向いて黙っていてた。
「さな、どうした? 」
さなえちゃんは、頭を整理するかのように話し出した。
「遼さんは死にたくないって、うなされてたの。声をかけても、起きなくてすごく心配した。それと、夢の中で私が赤ちゃんを抱いているって聞いて嬉しかった。でも、その夢の中の私は遼さんが亡くなって泣いているって聞いて辛かった。だから、これが、正夢にならないように生きて欲しいって思ったんだ。少し、複雑な気持ちにもなったの」
「ごめん。でも、二人の声が聞こえたおかげで悪夢から目が覚めたんだ。ありがとう」
「遼さん。なにか、悩んでいることがあったら教えてね。夢って、何かの原因で見てしまうこともあるみたいだから」
「うん、ありがとう。そうするよ。でも、何が原因でこの悪夢を見たのか分からないんだ」
「水を取っていくるな」
「うん、ありがとう」
「俺も喉が乾いていたし、お前らはそのついでだよ」
隼咲は、そう言って立ち上がると部屋を出ていった。
「遼さん、焦らなくてもいいからね」
「うん」
さなえちゃんに嘘をついた。悪夢の原因は、分かる。昨日の晩に、さなえちゃんがいないところで、話したことが原因だと思う。
隼咲は、喉が乾いて起きて台所に行く途中でだった。俺達が寝ている座敷の前を通っていたら、さなえちゃんが大きな声で、俺を呼ぶ声が聞こえて心配になってあわてて来たらしい。
「遼、落ち着いたか? 」
隼咲は、台所から戻ると、俺にコップを渡した。自分のぶんとさなえちゃんのぶんも持ってきたようだ。
「うん。落ち着いた。ありがとう」
隼咲の顔は、少し辛そうにしていた。それは、俺がなぜこの悪夢を見たのか原因が分かっていたからだ。
「お前ら、水を飲んでさっさと寝ろ。遼は悪夢をまた見るのが怖いのなら、俺が横で話すぞ。さなも心配するな。お前らが寝るまで、ここにいてやるから安心しろ。遼が、またうなされていたら、俺がすぐに叩き起こしてやるからな」
「それは、隼咲に悪いよ」
「気にするな。お前のおかげで、俺は目が覚めたんだ。しばらくは、寝れそうにないからな」
隼咲は、余計に気にすることを言う。
「ごめん」
「いいから。お前ら、水を飲んだな。それは、お前らが寝たのを確認したら片付けるから布団に入れ!豆電球にするぞ。今から、俺のすぐ眠れる話をしてやる」
隼咲の流れるような指示に、俺達は慌てながらも従う。
隼咲の話の内容は、覚えてないけど本当にすぐ熟睡することができた。
これは、あとから聞いた話だ。俺がうなされて、さなえちゃんの俺を呼ぶ声が部屋の外まで聞こえてたらしい。
次に隼咲の声がして、トイレをしに起きていたお義父さんが心配して、部屋の外で待ってたらしい。
俺達が眠ったあとに、コップを持って部屋の外から出てきた隼咲に、お義父さんは心配して声をかけた。
「隼咲。遼君は、大丈夫か? 」
「あぁ。今は寝てる。ここだったら起きるかもしれないから、リビングで話す」
「そうだね」
「遼は、たぶんだけど。さなが風呂に入ってるときに、俺達に話したことが原因で悪夢を見たんだ」
隼咲は、悪夢の話をした。
「それで、うなされてる遼の声に、目が覚めたさなが、起こしてたってわけだ。今は俺が昔さなに話したら、すぐに寝れる話をしてやって、二人とも寝たから安心しろ」
「あぁ、安心したよ。ありがとう。私達が、遼君の心を支えないといけない」
「俺は、はじめからそのつもりだ」
「お前は、無理をしないようにな」
隼咲は聞こえないふりをして、俺達が使ったコップを台所で洗い始めていたのだった。
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