おめでとう
ついにこの時が来たのだ。さなえちゃんが高校を卒業する。
さなえちゃんは大学に行かずに、就職をして俺と結婚するよていだ。ちなみに、隼咲は高校を卒業して二年たって、今は地元の大学に行っている。
店で、さなえちゃんの祝いをするパーティーが開かれた。
「さなえちゃん、高校卒業おめでとう!」
「ありがとう!遼さん!」
「さなえさん、卒業おめでとう!とびきりのオムライスを作ったから食べてくださいね」
「これは、就職祝いのエプロンだよ」
「おじいさん、おばあさん、ありがとうございます。とてもうれしいです」
そうなのだ。さなえちゃんは、この喫茶店に就職した。店の看板娘として活躍する予定だ。
今思えば、さなえちゃんと出会って二年がたっていた。あっという間だった。これからも、一緒に生きたい。
俺は、さなえちゃんと一緒に暮らすためにアパートの一部屋を借りた。
その場所は俺のこともあって、アパートの場所はさなえちゃんの家と俺の家が近いという中間ところにある。
それなら安心だということで、二人で住むことを許された。そのため、近々二人で住むために引っ越しをすることになった。
このパーティーは、さなえちゃんの卒業と就職と俺が一年も生きられないと言われだけど生きているという祝いパーティーでもあるのだ。今、思えば少し複雑な内容がからんでいた。
俺にとってこのパーティーは、たくさんの思いがこもった大切な宝物だと思う。そしてさなえちゃんに出会って良かったと、心のそこから思っている。
さなえちゃんは、オムライスを美味しそうに食べていた。俺は、オレンジジュースとバニラアイスをそっと彼女がいるテーブルに置いた。
「遼さんありがとう。この組み合わせは、なんだか懐かしいね」
「そうだね」
俺達が、楽しそうに話しているのを周りががニコニコと見つめていた。それに気づいて、二人で照れた。
パーティーは名残が惜しくも、空気が温かいまま終わりを迎えた。
俺はお義父さんと二つの約束をした。それは、さなえちゃんが高校を卒業しても生きることで、そうすれば結婚ができる。
もうひとつの約束がある。それは、その後も生きることだ。第一関門は、医者に一年も生きられないと言われたことを突破した。
第二関門は、二十歳まで生きるが残っている。それをクリアしなければ俺はさなえちゃんと結婚ができないと思う。
もっと大きな目標を持っていいと思うけど、何事も急がず焦らずが大事だ。それに医者に余命を宣告されているから、長く生きるのはすごいことでもあるから。
「これからも、一緒にどこまでも生きていこう」
俺の突然の言葉をさなえちゃんは、最初は驚いた顔をしたけど、次には笑顔になって大切な言葉を言ってくれた。
「はい、一緒にどこまでも生きましょう」
これは、さなえちゃんが俺に告白した言葉だ。俺の人生でもっとも大切な言葉でもある。
今までの俺は、いつまで生きるんだと朝起きる度に思った。二十歳まで生きられないと言われて、じいちゃん達は辛そうだというのは、なんとなく分かっていた。自分の娘が体が弱くて、俺のせいで亡くなったから余計にだと思う。
バカな俺は自分がいなければ、じいちゃん達の辛そうな姿を見なくてすむと思った。俺自身は、そんなじいちゃん達の姿を見たくなかった。
俺が、死ぬとじいちゃんとばあちゃんとさなえちゃんと隼咲達を悲しませるかもしれない。
でも、俺が生きて熱を出す度に心配をかけ続けるぐらいなら、死んだ方がマシだと思った。それは、俺が死ぬと当然心配をすることがなくなるから。
じいちゃん達は、俺に『生きていることの当たり前』を教えてくれた。
生きていなかったら、痛い、悔しくて、泣く、腹が立ったら怒る面白くて笑うなどはできない。それらは当たり前のことで、これが出来るのは生きている人間だけがすることだと教えてくれた。どの家庭でも、子供に教えることだ。
でも、俺はじいちゃん達の教えがなかったらダメ人間になっていたと思う。
そんな俺に、さなえちゃんが現れた。
『一緒にどこまでも生きましょう』と言ってくれた。
俺に、『生きたい』を教えてくれた。
俺は、今までは、『いつまで俺は生きている』から現在の俺は『今日も生きている、さなえちゃんに会える』と考え方が大きく変わった。
さなえちゃんに、俺の全てを受け止めることができないかもしれない。
それでも、いい。
生きたいと考えれるのがうれしい。
さなえちゃんには、出会ってくれてありがとう。
さなえちゃん、卒業おめでとう、就職おめでとうを送ろう。
読んでいただきありがとうございます!