9
ミラモは、一度も塑山の人間と言葉を交わすことなく、ただ翼竜を飛ばせ、再び竜廓島まで戻ってきた。
城門は開いていて、首相が警護の者たちと共に立っていた。
地上に降り立ってから、ミラモは考えた。この草履や服はどこに置いたらいいのだろう。このまま任務に就くのか。朝、部屋に置いてくれば良かった。
どうしよう。
考えている間にも、首相たちは一言、二言挨拶を交わし、門の方へと歩き始める。
城の敷地内にはいくつか建物がある。
吹き抜けで、天井が二階ぐらいの高さまである平屋に、首相たちは入った。
壁の一面は大きな窓で中がよく見える。
洋風で、真ん中に大きな食卓と椅子がいくつか置かれている。
人の数が減った。
塑山の人間もこちらの警護の者も、ほとんどが建物の外にいて、囲っている。
こちらの人間は首相を除くと、自分と護衛の者一人である。
それは塑山の方も同じで、三対三で向き合っている。
首相と塑山の男だけが椅子に座り、ミラモたちは立っていた。
ミラモは草履や服を丸めて足元に置いた。
もう一人の護衛の者は朝、ミラモのボタンのことを注意した男だった。
目が合い、向こうは自分の足元に一瞬目線を落とし、嫌そうな顔をした。むしろ、あきれてしまっているようで、ミラモは口元だけで笑みを作り、軽く頭を下げた。
三十分ほどで話は終わった。
同じように、三十頭の翼竜で北風島の北部まで、塑山の人間を送り届けた。
「お前、もう戻ってこなくていいぞ。何だ、あの態度は。根島国の恥だ」
城に戻ってから、ミラモは怒鳴られた。
また、あの男である。
男は首相付き護衛課の課長であった。
「いや、本当にすいません」
慣れない靴のせいで指が痒いし、もう腹も減っている。
ミラモは何度も頭を下げながら、足の指同士をなんとか動かし、掻こうとしていた。
昼前の中庭だった。
くそ。
いつまで怒鳴ってやがる、おっさん。続きは飯の後でいいだろう、おっさんよ。
首相が自分を呼んでいる、と人が言い、とりあえず男は口を閉じた。
ずっと外にいたため、頭が熱を持っている。
ミラモは、一人で執務室へ向かった。