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低い霧を裂いて、翼の生えた獅子が数十頭現れた。
それぞれに人が乗っている。
それが、こちらへ向かってくる。
ミラモたちは島を抜け、同じように海上へ出ている。
ゆっくりと進んでいく。
塑山の朗読者たち。真ん中の獅子には二人乗っている。
あいつか。
と言っても、あまり顔の違いがわからない。
北側に住んでいるだけあって、根島国の人間よりも肌が白い。
いや、たった数キロしか離れていない場所に住んでいる民もいて、それでも白いのだから、あまり関係はないか。
ついでに、塑山の連中の顔の線は彫ったように真っ直ぐで、表情に独特の影がある。
ミラモたちは完全に停止した。
翼竜は羽ばたき続ける。
顔がはっきりとわかる距離になった。
ミラモは相変わらず、陣形の最後尾にいた。
翼竜が、獅子を挟むように左右に分かれ始める。
一瞬、どちらへ行こうか迷ったが、前にいた男が手招きをしたのでそちらへ向かった。
国によって召喚するリムの形は異なる。
召喚と言っても、本当にそういう生物が新世界にいるわけではない。ただ、呼び出すという感覚で、リムを目の前に出現させているから、召喚と言っているだけだ。
ミラモもやろうと思えば獅子でも、犬でも猫でも呼び出せる。
ほとんど、形や大きさが違うだけに感じるのだった。
国にはそれぞれ神と崇めている動物がいて、リムはその神の化身であるという考えがある。
これは文化のようなものだが、どの国でも同じで、旗や紋章に近い意味合いを持っている。
実際、翼竜のリムは根島国の誇りである。
だが、塑山の人間が召喚した獅子に本来、翼はない。
新世界の日本で言えばライオンだ。そこで、練成という操作を加え、本来ないはずの翼を後から取りつけているのだ。
練成は、実際には呼び出す直前に完了しているため、出てくるのは翼の生えた獅子ということになる。
極端に練成が下手だと、ただ地を這うことしかできないリムになってしまう。
一度くらい、神の化身に手を加えるのは問題ないのかと聞いてみたいが、その場で死人が出るだろうから、止めておくことにしている。
ミラモは、前にそれをシイカに話したところ、他国の象徴を穢すのは恥ずべき行為だ、などと逆に説教をされたことがあった。
神、国の象徴として示される動物に翼があるのは根島国だけだった。