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私は一年ほど、竜廓島にある宿舎で生活をした。
他のただの軍人に混ざり、体力の向上を目的とした訓練や、武器の扱いについての講義を受けたりした。
その時、城下にある施設で働く者たちが使う日用品や、衣服を届けにいったことがあった。
二十人ほどの兵で、自分たちの宿舎で長く使われないままになっているものを台車にまとめて、その施設へ行った。トルストもその中にいた。
ツエノは、その施設にいた。
他の、ただの子供たちにまぎれていた。その時の自分には、そんなふうに見えた。
彼女が既に国に仕える立派な朗読者としてそこにいたことに、私は気付かなかった。
荷物を運ぶのを手伝ってくれたと記憶している。百を超える孤児の中で、ツエノは最年長の十五歳だと教えてくれた。
そして、彼女の口から初めて朗読者であると教えられ、自分はそれに気付くことができた。ツエノは、自分が朗読者であることを言う前から見抜いていた。
あの時のツエノは、大人のような子供ではなく、本当に子供のような大人であった。髪は細く、揺れていた。体の線、骨、全てが細かった。表情は固く、常に周りに目を配っていた。
荷を置いて、私たちは子供たちを眺めながら、休んでいた。
皆、ツエノを慕い、また頼っているように見えた。
他にも十四、十五の子供はいた。それでも彼女は一人だけ、違っていた。
何が違うのか。もうあの時は足や、肩に限界がきていて、そこまではわからなかった。朗読者だから。また、それとも違って思えた。
城下の北側の小さな公園に植えられた大木に腰を下ろし、もう、体重を全て預けるような姿勢で、目を閉じ、子供たちの声だけを聞いていた。
私はあの頃、まだ二十歳で、朗読者としては何の仕事もできてはいなかった。
人一人、殺していなかった。




