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 トルストは、二十八で結婚した。

 妻は二十三だった。

 妻の名はツエノ。姓は、シャンクといった。


 当時から、首相付き護衛課という名は使われ、自分もツエノもそこにいた。


 本当に、今もやっていることは変わらない。表と裏の軍の中間の軍といった感じだった。あの頃は常に百人以上がいた。いや、あの頃と言ってもたった十九年前だ。


 ほぼ全員が朗読者で、国の仕事に関わると決めた朗読者は、必ずあの課に配属された。そこから表の正規軍へ移ったり、裏の軍へ移ったりしていくのだった。


 トルストは、今でも裏の軍のことをよく知らない。正確な人数も、本当の呼び名も。


 これ以上裏があるのか、と思うほどの仕事もやってきた。最近では、あの裏切り者の始末だ。それでも、裏の軍はいるのだった。民に、まぎれている。おそらく、自分の近くにもいる。比酎の街の中にである。


 比酎には、二百の兵が根島国から入ってきた。仮の兵舎などを自分たちで作っているところである。それに混じって、護衛課の人間が指示を伝えに来た。対象があの政治家だった。昔、自分も似たようなことをしたのを覚えている。


 あれから今までの時の流れをたった十九年と言ってしまえるなら、九年という時間は一体、どれほどのものなのだろうか。


 ツエノが死んで、まだたった九年。ほんの九年だろうか。


 ツエノは三十三で死んだ。そして彼女もまた、朗読者だった。


 若かった。二十の時から、私はツエノを知っていた。つまり、ツエノはまだたった十五かそこらの少女だったのだ。彼女は孤児で、ずっと城下にある施設で生活していた。対して私は、北風島に両親と三人暮らしだった。


 私は二十歳でようやく朗読者として生きる決心がついた。


 両親は、このまま一生、普通の人間のふりをして生きていこう、と何度も何度も私に言った。


 悪いことをしているという気持ちが、消えなかった。


 当時、塑山が鉈欧の南部を獲って、二十数年が経っていて、グルー大陸の均衡が大きく動いていた。


 ここまで大きくなってしまったら、塑山も持たない。東西または南北に分かれるだろうと、誰もが考えていた。ところが、塑山はどんどん強大になっていくだけなのだった。


 根島国も塑山側にいた。だが、近い将来、塑山に全ての島を奪われて、国そのものがなくなってしまうのではないかという危機感が民を襲った。


 お前は、本当は朗読者のくせに、自分がやらなければならないことから逃げている。そう思った。いや、自分が朗読者だと知り、朗読者とは何なのかを知った時から、逃げ続けていた。両親はそれを許してくれた。お前はこのままでいいんだ。そう言ってくれた。周りや、自分に嘘をついたままで。


 私はまだ何も知らず、朗読者であることを両親に告げたら、二人は悲しむと思っていた。そして、実際二人は悲しんだ。


 私は親に恵まれていたのだった。


 確か十三か、十四の頃に南部の事情を知った。噂ぐらいにしか感じなかった。子を売る親を想像することが難しかったのだ。自分の家が割合金持ちであるということも、私は知らなかった。


 私は申告をした。


 商人見習いが、いきなり朗読者で、国の人間になった。

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