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 壬海へ来てから、二十四日が経っていた。


 体が比酎の風によく馴染んでいる。


 心なしか、来た時よりも、動きやすくなっている気がするのであった。


 二日前、比酎の東で、部下が政治家を一人殺した。


 十人いる部下のうち、動かしたのは二人だけだった。小物だった。


 何も失敗はないはずである。犯人は根島国から来た朗読者ではないか、という疑いが生じるのは、もはや初めからわかっていたことだ。


 死んだ政治家は、塑山派の人間で、表向きには反北南の開国主義派などと呼ばれている。これからの壬海にはいらない人間だった。当然一人ではないが、他は殺さない。見せしめである。


 これから壬海は、軍に金を使うことになる。税は増え、不満がたまる。


 反国家勢力がいくつも生まれ、塑山派と組み、王を倒そうとする。国を倒そうとする。治安が悪くなる。塑山の人間が国へ入ってくる。


 民の反乱が生じる。そして、国が滅ぶ。何か手を加えなければ、いくつかの違いはあれど、最後にはそうなるのである。


 西から、国が喰われていく。そして東から綻びていく。


 決して自分の目に映らない動きもあるはずである。


 首相の秘書が、塑山の人間だったように。だが、そこまでトルストは恐れてはいない。見えない部分の方が多いと思っているからである。


 心。人の考えていること。自分の考えていること。それが、いつも歯車を狂わせるのだ。


 恐れてはいないが、やっかいだった。

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