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竜廓島の北東にある首都が見えた。
首都の名も竜廓である。
翼竜は、さらに低く飛び始める。
木造の建物。
人。そして、城がよく見える。
ミラモは頭を掻くように水を飛ばした。
服も肌に張りつくほど水を吸っている。
城から少し離れたところにある門の前に、翼竜は降り立った。そして、消えた。
解放である。
もう、そこにはミラモしかいない。
ミラモは、履き物のポケットから身分を証明するための黒い金属の板を取り出し、門番に見せた。
「ミラモ・アキシアルです」
「あの馬鹿でかい翼竜を見れば、誰だってわかるよ」
門番はそう言った。
ミラモはその前を通り、門をちらりと見た。
門は、朗読者によって練成された金属だ。
ミラモが召喚した翼竜と同じ色をしている。白に近い灰色。銀や鉄などと同じように、鈍い輝きがある。
朗読者によって召喚される生物は、全てリムと呼ばれている。
動く金属である。そのため練成された金属は、
リムの金属、またはリム由来の金属と呼ばれている。
城へ来たのは久しぶりだった。
見上げるほど高い。
そして、横にも長い。
他の建物と同じように木造だが、土台の部分がかなり高くなっている。その部分は石でできている。
参考にしたのは、新世界にある日本という国の城だった。
ヨーロッパという地方の城は、建物のほとんどが石で作られるため、あまり参考にはならなかったらしい。
ミラモは日本をよく知っているが、古い情報は知らない。
ミラモが持っている新世界の記憶は、あくまで新世界新暦二千十四年を生きている、一広高志のものでしかない。
一広は六十八歳の老人だった。
それに対し、ミラモは二十四歳である。
新世界の知識としては、まあ悪くはない。
ミラモはそれなりに新世界のことを知っている朗読者である。
ついでに、一広の人生についてもよく知っている。
長く、暗い人生である。
一広は老人ホームという施設で暮らしている。その場所が、日本だった。
全てはミラモの頭の中である。
生まれながらにして、新世界の記憶を持ち、かつ金属の練成、リムの召喚を自在とする者。それが朗読者であった。