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新しい仕事、そして場所が与えられた。
いつ、再びここへ帰ってこれるのか。それはまったく目途が立たない。
壬竜課の課長になった。
その名前の通り、置かれるのは壬海の中である。
つまり、根島国を離れるということだ。
それら二つはたった今、与えられたものだった。
「五月からだ。もう少し、頑張ってもらいたいのだが、頼めるか、ロイ」
三つ年上の首相が、トルストに向かってそう言った。顔には太く、深いしわがある。
「もちろんです、首相」
トルストの返事は力がこもっていた。
まだ、託されるものがあるということが、嬉しく感じられた。そういう頭の固い人間なのだ。自分は、昔から変わらない。あまり多くのことを考えたりするのは、得意ではない。人を使っていても、自分もその動きの中にいたいし、動いていたいのである。
胸の奥に確かな高揚を感じながら、トルストは執務室を後にした。
エレベーターで下の階へ降り、一の丸を出る。音が鳴るほどの雨だった。だが、空はそこまで暗くない。灰色がかっているが、青色をしている。
シイカをどうするか。
そこで、初めてトルストは考えた。当然、連れていくことはできない。
芯の強い子供だ。生きようと思えば、きっとあの子はどこででも生きていけるだろう。ミラモが遺した金はかなりの額だ。もう、手続きは終わっている。シイカは自分の養子である。
できれば、自分の目の届くところにいて欲しい。
ミラモに感化されたのか、それとも、元々あの子が持っているものなのか。
内に秘めたあやういものがある。おそらく、あの子はそれに気付いてはいない。
両親のことも関係しているか。子を銭に替えようとするような輩である。まともな扱いを受けなかったに違いない。
トルストはシイカから昔の話は聞いていなかった。まだ、そこまで深い関係でもない。
自分にだって、誰にも話したくないことがある。
シイカが話すまでは聞くまい。
聞いたところで何かが変わることもない。




