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知らない痛みであった。
身に覚えがないのである。
それはただ、忘れていただけなのであった。
遠く離れているのだが、常に触れているような感じすら、今はある。
死別の痛みである。
あの子供のものは、まだ若い生傷だ。
トルストは完全に思い出した。
今は、わかる。
感じるまではいかないが、理解はできる。
せまく、一点を突く鋭い痛みである。
その自分が知らないと思った痛みは、かつて自分を打ちのめしたものと同じ類のものなのだ。
ひびが入ったのは鎖骨だと思う。
裏切り者を始末した際、負った怪我だ。




