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【長編ダークファンタジー・完結済み】朗読者の戦記  作者: 佐藤さくや
立ち上がる者
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 知らない痛みであった。


 身に覚えがないのである。

 それはただ、忘れていただけなのであった。


 遠く離れているのだが、常に触れているような感じすら、今はある。


 死別の痛みである。


 あの子供のものは、まだ若い生傷だ。


 トルストは完全に思い出した。


 今は、わかる。


 感じるまではいかないが、理解はできる。

 せまく、一点を突く鋭い痛みである。


 その自分が知らないと思った痛みは、かつて自分を打ちのめしたものと同じ類のものなのだ。




 ひびが入ったのは鎖骨だと思う。

 裏切り者を始末した際、負った怪我だ。


 

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