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宿をとって二日。こんなに広くても、同じ陸続きの国であれば情報はほぼ瞬時だ。
北で壬海が仕掛けてきた。街中で、広まっていた。
あいつの足なら、すぐにここまで来るだろう。それに、竜廓島へ行くことも言ってある。
翌日、塑山が壬海に応戦。西の国境のような山はなく、街、平原、街、という地続きの場所であった。
昼。街の南へ伸びていた軍が東へ寄った。
きた。そう、真結は思った。
それとほぼ同時に噂が流れた。
この街に鉈欧の王族がいるらしい、というものであった。
鉈欧国内をおそらく探し回ったのだろう。
その情報が海を渡り、ここまで来たのだ。
まあ、あの父のことだ。大騒ぎだっただろう。それを止めようとする周りの人間。そんな光景が、目に浮かぶ。正直、もっと早くに追われるかと思っていたので、大して驚きはない。
だが、もう見つかりはしないだろう、という想いもあった。後は海を渡るだけなのだ。
こんなに簡単にここまで来られるのであれば、塑山のど真ん中をただ突っ切っても良かったのではないか。
「じゃあ、また後で会おう」
真結は宿を出て、大きな通りを一人で歩いた。
ふくろうが明後日の方向へ窓から飛び立ち、犬は地へ降り立った。
そして、家と家の間を縫うように歩き始める。真結からそれは見えない。四本か五本、通りが違っている。
また、空が赤い。
大きなリムを召喚し、空高くを素早く飛べたら、ここまでこそこそと隠れる必要はないように思う。夜にそれをやれば、見つかることもないし、逃げ切ることも簡単だろう。
朗読者の視点から見れば、自分はひどく欠落しているように見えると思う。
西へ回りながら、真結は海を目指した。
「ああ、くそが」
舌打ちをしながら、真結は呟いた。
内部統治、国内警備の軍人が歩いている。
俺が根島国へ行こうとしているなどわかるはずがない。情報は内陸部から来たのか。それなら、早めに西へ移動して正解だった。
根島国にとって何も良い事はない。それなら、根島国の上層部の中に塑山と通じている者がいるのかもしれないな。向こうは王がいないため、それなりに情報を広く共有しているはずだ。
通りに検問ができている。軍人が数人立っていて、漁師らしい男たちが首を傾げたりしているのだ。どう見ても、俺を探してるだろうが。
しかし、真結は笑った。
この状況が、楽しいのだ。
一人で何でもできる。
王宮の人間はここにはいない。陰口を叩く、くそみたいなやつらもいない。
わずらわしさ。それがない。
王になれば、王宮にいるやつらすら消し去ることができる。
それで、塑山の連中を屈服させるとなると、鉈欧は最高の国になる。鉈欧の民も、さぞ喜ぶことだろう。ただ、この解放感にもいずれは飽き、虚無となってしまうのは目に見えている。
それならば自らの手で、この最高を超えるものを作り出してみたいと思うのは、自然なことだろう。




