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 一、二、そして三日経つ。


 だが、塑山の軍は守りを固めないし、壬海の方も動かない。


 東が動かない時は西も動きがないということである。

 そして北だけは、激しい。

 根島国の傭兵が、何かしくじったのだろう。

 星老に返り討ちにされた。いや、だがあの大翼竜仕と言われている男もいたはずだ。


 俺一人にそこまですることはない、と足元を見られてしまったのか。

 俺を人質に鉈欧との協力関係を築く、良い機会なのだが。

 それで、塑山は四方が全て敵になる。


 真結は手紙を書いた。


「こい」


 ふくろうが足元に寄ってきて、口を開ける。真結は、細長くした手紙をふくろうの口に入れた。奥まで入っていく。それから、練成で口を開かないように完全に閉じた。


 宿は大きな通りに面した二階建て。

 部屋は全て二階にあった。

 真結は一人分の金を支払い、部屋へ入った。


 窓はガラスがはめ込まれていた。煙草に火をつけてから窓を開ける。

 腰をかける部分がないため、壁に背をつけてしゃがんだ。


 練成で小さな灰皿を作る。

 窓から卵のような小さな金属の塊が転がり落ちる。


 一、二、三。


 床に落ちた卵は集まり、一つになる。


「ちょっと疲れた。元に戻ったら起こしてくれよ」


 部屋の隅に置いてあった寝具の上の枕を取り、真結は寝転がった。もう、日が暮れ始める頃であったが、空はまだ青い。

 

 目の横辺りに硬いものが小刻みに当たってくる。


 それで、真結は目を覚ました。すぐ目の前に銀色の犬がいた。その後ろの空が半分、赤くなっている。


 床を見ると、まだ卵が一つ転がっていた。それが犬に溶け込む。


 体を起こし、荷にくくりつけてあった皮を手にとり、犬の頭にかぶせる。犬は再び溶け始めようとする。


「冗談だよ」


 真結は言いながら、皮の顎から腹まである裂け目を閉じているひもを解き、広げた。犬は後ろ足から皮を着込む。それで、元の犬の姿に戻った。


 今日は三月の六日。王宮を出てから一ヶ月が経つ。


 踵や足の小指の皮が硬くなっている。もう、血は出ない。足の裏や筋の方が痛むだけだ。


 真結は犬の皮が少し色あせていることに気付いた。

 日に焼けたのだ。

 ほこりをかぶったように白っぽくなっている。


 この辺りの人間より大分、白い方だとは思うが、自分も肌が焼け、黒くなったと思う。着物も何度か自分で洗ったせいで、同じように色が抜けてしまっている。だが、街に溶け込むにはこれぐらいがちょうど良いはずだ。


 風が入ってきた。南へ来るほど、昼と夜の温度差が激しくなっている。


 一つ前の街から、風呂の内側が別の様式に変わっていた。


 湯をためる場所がとても小さく、風呂場自体が高温でとても蒸されていた。


 そこで汗をかき、最後に湯をかけて汗を流す、というやり方である。


 真結は風呂屋に行き、帰りに飯屋へ寄って、宿に戻ってきた。


 すると、一匹増えていた。


「降りろ。下から人が見るだろ」


 ふくろうは窓のところにいて、街の方を向いていた。


 翼をばたつかせて、床へ降り立つ。

 足首に傷のようなものが見えた。


「なんだお前、鳥にやられたのか」


 切れ目から、内側の銀色の部分が見えていた。翼だけは元々銀色の部分が出ていたので、表面は傷だらけである。


 真結は手を当ててその部分を治した。くちばしの練成が、解かれている。手紙はない。

 

 ここから東北が動いて、それに合わせて南の軍が上がるのを待つのか。

 

 急ぐのが少し馬鹿らしく思えてきた。いや、あせっているのだ。


 無理に動くことはない。どうせ、久光が動かなければ、自分も動けはしないのだ。


 ここまで来て、根島国へ行く前に捕まったり、死んだりするのは惜しすぎる。


 鉈欧の新しい歴史は、ここから始まるのだから。

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