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【長編ダークファンタジー・完結済み】朗読者の戦記  作者: 佐藤さくや
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 武器だけ渡され、それを自分たちで運ぶ。


 いつもそうだった。


 緑色をした絨毯のように、木々が山肌を覆っている。

 緑色は点々と穴を開け、そこは濃い茶色をしている。


 とある一つの山頂から、ミラモたちはそれらを見下ろしていた。


 戦い慣れた戦場であった。


 山脈は南北に長く伸び、塑山と星老を明確に隔てている。


 後方が東でミラモたちは西を向いている。

 どちらかと言えば、北寄り。

 南に海は見えない。


 塑山は大陸側から北の追月地区へ、三万ほどの兵を出している。


 東、壬海との国境には、四万。


 そして、この西の国境には三万の兵が臨時に送り込まれていた。


 自分たちを北と南から挟む形で、一万ずつ。


 さらに、後方の東に一万が構えている。つまり、ミラモたちは極めて少数の遊撃部隊であり、最前衛ということになる。


 できるだけ派手に動き、塑山の目を西へ向ける。ミラモだけでなく、他の九人の朗読者も、自分たちが本当にやるべきことは事前に聞いている。


 十人は、首から下のほとんどを自ら練成した鎧で覆っていた。

 胴の部分は厚く、肩及び腿より先は薄く、関節部の駆動を妨げないよう、わずかにすき間を空け、独立したものが連なっている。


 ただ立っている分には、さほど重くはない。

 リム由来の金属は、下にだけは軽いという極めて特殊な性質を持つ。


 そして、逆に下以外の方向へは極めて重くなる。


 運動により生じる重さが、通常の自重に比べ、とても大きくなると言える。


 そのため、慣れないうちは鎧の重さのせいで転んだりすることが多い。


 また、上に重くもあるため、空に体を引っ張られるというおかしな感覚も経験することとなる。


 北、そして南へ、果てもなく続いているように見えるこの緑も、いずれは終わる。山脈は東西に二国を隔てているが、海岸沿いまで行けば、所詮、地続きであるとわかる。


 あいにく、川はそれぞれの街の方へ流れていて、本当に何もない大地が続いていた。


 大きく分けて北、中央、南の三点が、塑山の防衛線となっている。だが、今回はただいるだけでは駄目なのだ。


 夕方。

 それでも、星老の軍に動きはない。

 もう、追月地区と鉈欧の国境辺りでは、戦いが始まっているはずである。


 十人は、練成により、防衛陣地を築いていた。

 半分にした球に穴を二つ開けたものであり、高さはないが、普通の家と同じぐらいの幅がある。


 日暮れまでに向こうが動かなければ、こちらから仕掛ける。そういう手筈であった。


 しかし、姿さえ見せないとは。


 上空高くから見下ろさなければ、星老の軍は見えない。向こうはまだ、最東の街のそばにいるのであった。


 白んだ青と、朱色が半々の空。


 四方にそれぞれ二頭ずつ、計八頭の翼竜が飛んだ。ミラモともう一人は、西へ。他三方は塑山の軍の元へ。


 谷。

 そして一つ、大きな山を超える。裾の長い山である。

 麓。敵はまったく動いていない。

 小さな防御陣地がたくさん集まり、街のような感じになっている。西日に目を細めながら、ミラモはその様子を見ている。


 星老は塑山よりも大きい。

 人口は、塑山より一千万ほど少ない、四千万人と言われている。崇める神は象の形をしている。


 この旧世界にもいる、象である。だが、象が住んでいるのは北極大陸と南極大陸であるので、ほとんどの者は生きている象を見たことがない。


 この星老の朗読者が用いる象のリムも、塑山の獅子と同じように練成で色々と手を加えるため、ミラモは不純なものとして見ている。


 そして、この象のリム、他のものとは少し勝手が違った。ゆえに、戦い方も異なるのである。


 陽を照り返す半円の間を、象が歩いている。かなり離れているが、人の姿はないように思える。象は、数十頭。


 全ての象が、こちらを見上げている。


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