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【長編ダークファンタジー・完結済み】朗読者の戦記  作者: 佐藤さくや
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 当時、ミラモは十九歳だった。


 南風島はえじまとそのさらに南東にある南風二島なんぷうじとうが荒れていた。


 どういうわけなのか今も知らないが、その二つの島に、いきなり数十の朗読者の子供が生じたのだった。


 一つの島でではなく、それぞれ一つの街にである。


 他人の子をさらう者、そして、自分の子を売り飛ばす者が大勢現れた。

 買い手は四方の国全てである。

 特に、南がひどかった。羅亜南である。


 フォート大陸、つまり羅亜南の最北部から南風二島までは、海を隔てて三百キロほどの距離があった。


 そこを途中までは船で、そして島から出た船と海上で落ち合うまでは、リムでやってくるのであった。


 根島国の民の方に、売買を斡旋している者がいて、かなり綿密に計画を立てて動いていた。


 朗読者でないにもかかわらず、朗読者だとして売られる子供もいた。

 



 あの時、ミラモは実際に見た。


 治安維持と子どもの売買を取り締まるため、ミラモは南風二島に呼ばれ、島の周りを飛び回ったり、街の中を翼竜の背に乗った状態でねり歩いたりしていた。




 夜だった。


 ミラモは空を飛んでいた。南の方向、海面ぎりぎりを何かが飛んでいるのを見てとった。高く飛んだまま様子を見ていると、近くに小型の船を見つけた。


 ああ、これか、とミラモは思った。初めて見る光景であった。


 飛んでいたのはリムで、しかも形は翼竜であった。だが、それに乗っているのは、根島国の者ではないのだ。事前に情報を得ていたので、何が起きているのかは理解できた。


 ほぼ船の真上の空。そこまで近づいた。いきなり、ミラモは翼竜を消した。単身、海へ落下する。


 本当に、手で漕いで来たのではないかと思うほどの大きさの船で、頭が三つ見えた。


 海が、一枚の壁のように視界にせまった。

 子供。

 

 瞬間、ミラモは翼竜を召喚し、海をかすめた。

 見逃さず、そしてしくじらなかった。

 

 悠然と夜に羽ばたく翼竜の足には、子供が一人ぶら下がっていた。

 

 髪が長く、その時ミラモは女だと思った。それは、当時九歳のシイカであった。


 ミラモはさらに二頭の翼竜を召喚した。自身が乗っているものとほぼ同じ大きさである。


 一頭は船に突っ込み沈め、もう一頭は逃げる小型の翼竜を追い、捕え、海へ叩き落とした。


 すぐに、異変に気付いた自国の人間が集まり、関わった者たち全てを捕まえることができた。子供を自分の翼竜に乗せ、島まで戻り、話を聞くと男だとわかった。


 ミラモは引き取ろうとした。だが、その任務の上官だったトルストがやめておけと言った。


 ミラモは、こいつを俺の弟にすると返した。


 これっきりにした方が良い。

 そう、トルストはつけ足した。

 別に、あのおっさんの忠告を聞いたわけではないが、今も弟はシイカ一人だけだ。


 ミラモはトルストの言いたいことがわかっていた。

 それに、その場の勢いもあったが、最初で最後だという気持ちもあったのだ。


 自分は間違いなく、シイカを救うことで、父や母に捨てられたという気持ちを塗りつぶしたかった。

 父は、自分が朗読者として国に保護されてすぐに、向こうの内乱に巻き込まれたらしい。多分、死んだだろうと思った。父も母も自分のことが好きではなかったのだ。


 もし、母が自分のそばにいてくれたら、自分はずっと朗読者であることを隠しただろう。


 二十歳かそこら。いや、十八で良い。


 金と安全を天秤にかけて、金を選択することができるだろう。

 十六か十五でもいい。

 国と母、父のため、朗読者として生きる。

 誇らしい人生だろうと思う。

 

 


 ミラモはトルストが持ってきた塑山の軍服を着た。


 もう、シイカは自分の部屋で寝息を立てている。


 夜、十一時。


 家を出て、練成で穴にぴったり合う鍵を作り出し、錠をかける。


 初めの頃はいつも上手くできず、扉の前で唸っていたが、今は一瞬で練り上げることができる。


 呼び出した翼竜の背に飛び乗る。ミラモは体一つだけで、荷物はない。


 大きく渦を巻くように飛び、上昇する。


 数頭の翼竜が小さく集まって、その場に留まっている。右上から月が照らしている。


 同じ高さまで達すると、乗っている朗読者の顔がよく見えた。顔を知っているというだけで、それ以上は知らない。皆、三十代前半ぐらいだと思う。


 一人がミラモの方へ寄り、今回の任務の詳細を話し始めた。


 やはり、今回も自分は前線らしい。しかも、一人だけ。


 まあ、今回は根島国にも考えがある。本当に大事なのは、自分たちがこれから向かう西の国境ではなく、逆の東側なのだ。


 真北へ飛んでいる。


 塑山だけではない。


 昔は星老や壬海についたこともあったのだ。それは自分が生まれるずっと前のことで、別に何の抵抗もない。自分はずっと塑山に力を貸す朗読者だ。


 自分の名が他国に轟くのは良いことだ。それだけ自分の単価が上がるし、敵の動きも読みやすくなる。それで他の連中も動きやすくなる。


 下は黒い海の拡がり。しばらく、これが続く。


 退屈だが、こいつらと話すことは何もない。


 あまり高く飛んでいないため、塑山南部の街の光は、ほぼ正面に見えている。


 その光が、本当に少しずつ淡く、大きくなっていく。

 だが、なぜか近づいている気がしない。


 夜の光は、大体そう見える。いつものことだとミラモは思った。

 

 

 

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