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【長編ダークファンタジー・完結済み】朗読者の戦記  作者: 佐藤さくや
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 城へ行ってから、本当に丸三週間経っていた。


 二年ほど前から、グルー大陸の三国はいつも騒々しかったが、それはもう慣れていた。ここ二ヶ月ほどは、またそれとは別の落ち着かなさがあった。


 それを肌に感じながらも、ミラモはこの三週間、相変わらず、だらだらと釣りなどをして平和にすごしていた。


「ねえ、ミラモ。本当に首相は三週間以内に連絡するって言ったの。今日で三週間じゃないか」


 壁にかかっているカレンダーを指差しながら、シイカが言った。

 カレンダーはシイカの手作りであった。


「ああ、言ったよ。多分」


 口から魚の骨を出しながら、ミラモは答えた。


 今日の晩飯は白菜と白身魚の煮つけである。


 砂糖を多めに使った甘い煮汁をたっぷりと吸い、やわらかくなった白菜と玄米を一緒にかき込む。


「うん、うまい」


 家のことは全てミラモがやっていた。

 炊事から料理まで全てである。


 十四歳のシイカは、他の子供たちと同じように、中学校へ通っている。


 他の、と言っても近所の子供であり、九割以上が小学校を卒業すると親の仕事の手伝いをしたりして、中学校へは行かないため、シイカは少数の部類である。


 浅漬けをかじる。

 これは余った白菜を細かく刻み、岩塩を加えて揉んで作ったものだった。

 二時間ほど前に作ったが、良い具合に漬かっている。


 二人で住むには広すぎるぐらいの木造二階建ての一軒家であった。近

 所には金持ちばかり住んでいた。


 根島国にある六つの島全てで米が作られている。


 ほとんどは各島で消費され、あまることも足りなくなることもない。


 西の星老、東の壬海、そして北の塑山には魚を売りつけている。


 全て国が管理し、船で運ぶ。

 かなりの規模で、軽く万を超える数の人が関わり、働いている。


 当然、それを束ねている者たちが金持ちで、この家の周りにはそういうやつらばかりが家を構えている。


 そして、朗読者の価値は、そんな人間たちを上回るほどである。


 本当は家のことを全て任せておける人間を与えられていたが、ミラモが断っていた。


 外はもう暗い。


 部屋の天井近くには小さな棚が取りつけられていて、そこにはいくつかの花形のリムが置かれ、部屋を照らしている。


 呼び鈴が鳴った。


「お、誰だ」


 ミラモは飯の入った椀と箸を手に持ったまま腰を上げ、玄関へ向かった。


「あ、課長じゃないですか。どうしたんです」


 扉を開けると、首相付き護衛課の課長、つまりはおっさんが不機嫌そうな顔で立っていた。


「今日。夜の十一時にこれをちゃんと着て、上空へ出ろ。そのまま北上し、塑山南部へ入る。お前の他、朗読者は九名」


「わざわざ口頭で伝えに来てくれたんですか。これ、塑山の軍服ですか」


「もっと、静かに話せ。外にはまだ人がいるんだ」


「そうなんですよ。あの人たち、夜は庭で肉とか焼くんですよね。凄い高そうな」

「詳しいことはお前の隊長に後で聞け」


 課長は薄い布の袋をミラモに押しつけ、その場で翼竜を出し、飛び去っていった。


「今日の夜だとさ」


 扉から顔を半分出しているシイカにそう言った。


「そっか」


 シイカはいつもそうだった。


 任務の内容がはっきりとわかっていても、直前まで口うるさくあれこれ文句を言うくせに、いざ出発するとなると途端に気を落とすのだ。


 今回のようなことは初めてだから、もしかしたら仕事がなくなったのか、と自分も思っていた。いつもは島の中の人間から電話が来て、城まで行け、と言われるのだった。


 こうやって生きてきたのだ。


 シイカに出会うまでは、自分が生きるためだけにその時を生きてきた。



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