表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【長編ダークファンタジー・完結済み】朗読者の戦記  作者: 佐藤さくや
利用された者
12/80

12


 寝室に置いてある水に毒を入れたのだ。

 窓から、真夜中に忍び込み、さらさらとやっただけだった。


 こんなに簡単で大丈夫なのかと不安になったが、朝には女の悲鳴が階下の窓から聞こえ、伯父はしっかり死んでいた。


 父の命令であった。


 そうして、父は三男にして、鉈欧の国王となったのである。


 腹違いの兄や姉の引きつった顔は最高だった。


 真結が朗読者であることが公になったのは、その直後であった。


 話したのは王になった父で、その時までずっと隠せと言っていたのも父であった。


 おかげでまったく警戒されなかったが、伯父を殺すぐらい自分でなくとも簡単にできた気がする。上の階から、ひもを使って窓から入ればいい。わざわざ飛ばなくても良かったのである。



 失敗が恐かったのだろう。


 残念ながら、伯父も王の器ではないが、父も王の器ではない。


 王者は、覇者に勝負を挑まれても、力で勝たなくてはならないのだ。歴史を見れば、例え朗読者でなくともわかる。王道と覇道は必ず交錯する。そして、またしばらくは離れ、再び、交錯。だから、勝たなくてはならない。


 まあ、塑山の連中から見れば、こっちは飼い犬ってところだろう。


 真結は立ち上がり、三分の一程度の長さになった煙草を指で天に向かって弾いた。


 一瞬だけ炎は強い赤になって光った。


 落ちてきた煙草に向かって、ふくろうが飛びつく。翼がぶつかり、灰が散った。煙草は高く舞い上がる。そのまま風が横に流れ、下へ落下していく。


 真結は端まで歩き、街を見下ろす。


 視界ははるか彼方まで開けていて、ちっぽけな吸い殻など、もうどこに映っているのかもわからない。


 四階建てや五階建ての建物の屋上と、地面が区別できないほどの高さに真結はいる。


 犬は前足をへりに引っ掛け、ふくろうは犬の頭にとまっている。真結と同じように遠くを見ている。


 練成だけでここまで完全なリムを生み出せる朗読者は、類を見ない。だが、その分召喚が下手でもあった。


 真結は、急に大きなリムを呼び出すことができないのだ。


 二年前まで、真結はそういうことをするな、と父に言われ、人前では決して朗読者としての力を使わなかった。だが、鍵をかけた自室では、いつも練成で様々なものを作っていた。


 王宮から見える風景や、時々歩いて覚えていた街の様子、そして新世界の記憶。それらを、粘土をこねる遊びのようにして、目の前に再現したりした。


 リムの金属でできた小さな街の中に捕まえた蟻を放ち、それを見ていた。そのうち、蟻や他の虫なども練成で簡単に作れるようになり、動かせるようになった。


 それが勝手に動くようになった。召喚と大差はなく、練成で小さな動物のリムを再現できるようになった。父はそれを褒めてくれた。


 あれは、何年前だったか。いや、もうどうでもいい。結局、父は自分を道具としてしか見ていないのだ。


 血のつながった弟や妹がいれば。兄や、姉がいれば。


 もう、いい。考えたところでどうなるものでもない。


 王になりたい。

 そして、どこまでいけるのか試してみたい。


 矛盾しているが、その一歩として俺は王宮を出る。そして、この国も出る。

 

 盾を構えた者、塑山の背中から突くのだ。


 真結は景色に背を向け、歩き出した。


 犬は頭にふくろうを乗せたまま、その後ろをついていく。


 早く、煙草の本当の味というやつを知りたい。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ