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2/2

とりあえず僕たちの行動範囲を広げよう。ワクチンと言ったら、保健室。

 次の日……。


 会議が始まる。

聖星川せいせいがわたちから聞いた話では……ゾンビがいたと」

 虎縞山とらじまやまは言った。

「どうせ嘘だろ」

 周りの人たちは言ったが、

「違う!! 本当にいたの」

 と、上故かみゆえは言った。

「まぁみんな、この世界はあくまで異世界だ。だから信じよう。こんな時に上故と聖星川は嘘をつくとも思えないし」


 聖星川は見た、

 魚の腐ったような目をして、全身が腐り果て、死臭を放つ生物を。

 そして、その怪物が聖星川に撃たれ、盛大に血を出し死に逝く様を。

 一方上故も――あんなに優しい上故も、二羽を殺したことで、心が汚れた。

 上故はブルブル震える右手を眺めていた。

 あの震えている右手の人差し指を少し曲げただけで、二羽は死んだ。


『教室』の扉が開いた。

 ガスマスクを着けた一人が入ってきた。

 床爪ゆかづめだ。

 床爪は殺菌スプレーを自身に掛けた。

「……枠井の両腕に堅い鱗が出来た。鱗は少しずつ増えている。体の痛みを訴えてもいる」

 床爪は言った。

「まじかよ……」

 教室はまた異様な空気になった。

「今は『治療セット』の中に入っていた抗生物質で体内での繁殖を出来る限り押さえている。

 あと、これを渡しに来た」

 床爪はそう言って宇宙食のような銀色のパックを渡してきた。

「無菌の食料らしい。暫くこれで耐えるしかない」

 床爪は三十パックほどの食料をゴソッと床に落とした。


「とりあえず、自分達の行動範囲を広げよう」

 虎縞山は言った。

「みんな少しでも体調が悪いようだったら、すぐに『三年三組おれのところ』に来て。それが一番の絶滅を防ぐ方法だから」

 床爪はそう言って、廊下へ出た。


 現在、床爪がガスマスクを装着しているため、

ここにあるのはガスマスク 2つ、銃 3丁、針ショットガン 1つ。

 つまり、廊下に出れる人数はガスマスクの数――二人だ。


「聖星川と上故は休んでていい。他に今から散策に行けるやつ」

 虎縞山は言ったが、しーんとした。

 だが、湯川ゆかわ比奈梨ひなりは立ち上がった。

「パパッと終わらしちゃお」

 湯川はそう言っていた。

 湯川に続いて不来流ふくる莉癒りゆも立ち上がり前に行った。

「私も比奈梨ちゃんとなら行ける」

 不来流はそう言った。

「女子二人で大丈夫か?」

 虎縞山は言ったが

「二刀流で行くから大丈夫」

 と、湯川は言い、机の上の銃を二本取った。

「私も逃げ足だけは得意だから、殺される事は無いっしょ」

 と不来流は言った。

「「行ってくる」」

 二人はそう言い『教室』から出た。


 2

 湯川と不来流は静かな『廊下』を歩いていた。

「ワクチンと言ったら『医療』」

「『医療』といったら保健室」

 ということで、二人は保健室へ向かう事にした。


 途中――――


「アァ……ァ……」

 ゾンビが『数学用具室』から現れた。


「キャァァッ!!!!!」

 不来流は目を酷くつむり、耳を押さえて屈んだ。

 湯川も恐怖で腕を震わせながら銃をゾンビに向けた。


――――バン!!!!


 鼓膜が破れそうな程の銃声が鳴り響くとともに、ゾンビは盛大に胸から血を出した。

 血はビシャッと床に垂れた。


 しかし、ゾンビは倒れる事なく、ゆっくりと前進してきた。

 湯川は思う通りに動いてくれない親指で再び安全装置セーフティをカチャっと外し、引き金に指をかけ、


――――バン!!!!


 と次は脳を撃った。

 ゾンビは仰向けに倒れた。


「莉癒!! 逃げよう」

 湯川は不来流を起こした。

 不来流は鼻水をすすった。


 しかしまた、ゾンビは立ち上がった。

 ゾンビは狂気の目で湯川を見た。

「に、」

「に、」

「逃げよう!」

 二人はゾンビから離れることにした。

 湯川は最後にゾンビの肩を撃ち逃げた。

 





 1分走っていると、『保健室』に到着した。

 もうゾンビは追ってこない。


「もう、大丈夫か……。ありがとう比奈梨ちゃん」

 不来流は言った。

「気にしないで。早く探そ」


 二人は分かれて、『保健室』内を探した。

 色々治療薬を見つけた。

 これは床爪に預ければ使ってくれるだろうから、ポケットに入れた。


「莉癒~」

 湯川は不来流を呼んだ。

 不来流が向かう先には、重い扉の金庫があった。

 人間が入れそうなサイズの金庫だった。――――少し大きなゾンビも入れそうな。

「私だけじゃ開かないから、一緒に開けよ」

 湯川は言った。

 二人は金庫のハンドルを回し、一斉に引いた。

 ギギギギ……と金属音が鳴り、扉は開いた。

 なんだか良いものが入ってそうなため、湯川は覗き込んだ。

 そこにあったのは――――というかそこに存在たのは。





「う゛ぅ…………」

 ゾンビじゃない。

 でも、明らかに湯川たちより一回り大きい男が屈んだ形で入っていた。

 大男は立ち上がった。

 男もガスマスクを着けているため、表情が読み取れない。

 男の右手には赤い液体の付いたナイフがあった。


 湯川たちは歯をガクガクさせ、男を見上げた。

 男からは唸り声がした。


 【《{〔戦闘開始}〉]】


 男はノソッとナイフを高く上げると、素早く湯川に向けて振り落とした。

「危ない!」

 私は後ろに跳びかわした。

 男のナイフは私の髪をかすった。

 私はそのまま後ろにあった机や椅子を押し退き倒れた。


 不来流は男の左肘を銃で撃った。

 男は肘から血を出した。

 男はゆっくり自分の肘を確認すると、傷口に右手の指を入れ、銃弾をグチョッと取り出した。


「あ゛ぁ…………」

 男は左手で不来流を凪ぎ払い飛ばした。

「キャッ!!」

 不来流は思いっきり飛ばされ、背後のベッドにノックダウンした。


「くたばれ!」

 湯川は倒れたまま、両手の銃で男の腹を三、四発撃ち込んだ。


「あ゛ぁーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 男は痛みで狂ったように喚いた。

『保健室』の扉や窓がガタガタ揺れた。

 男はそのままナイフをかざし、湯川の方へ走ってきた。

 湯川は焦って立ち上がろうとした。

「……やば」

 時既に遅し。

 ナイフは湯川の腹に迫ろうとしていた。


 だが、不来流が男のナイフを銃で撃ち、ナイフは右へ吹っ飛んだ。

 代わりに勢い余って男の拳が湯川の腹に直撃した。

 男はそのまま暴れ狂い、左拳でもう一度殴った。


「うっ――――」

 一瞬で意識が遠退きそうだった。

 しかし、歯を食い縛り、右手の銃で男の横っ腹を撃った。

「あ゛……」

 男は腹から血を吹き出し、後ろによろけた。

 留目とどめの一撃に、不来流は男の心臓を撃った。

「グハァ――――」

 男は横向きに大きな音を立てて倒れた。


 暫し沈黙……。

 十秒経っても起き上がる気配はない。


「……死んだ?」

 湯川は男のガスマスクを外した。

 堀り深い男の顔は青ざめていた。

 死んだのだろう。

 

 不来流は男のナイフを拾いに言った。

 一方、湯川はもう一度金庫を覗いた。

「あ、やっぱりここにあったんだ」


 湯川は男の入っていた金庫から、カランカランと液体のワクチンの入ったガラスの容器を五本全て取った。


「あ、比奈梨ちゃん、あったんだ!」

 不来流はこちらに近付いてきた。

「うん。じゃあ帰るか」

「うん。早く逃げよう」


 二人は『保健室』を出た。


 湯川と不来流はこの日、人殺しとして手を赤血に染めてしまった…………。 




 


 …………

『教室』にて


「トイレ行きたい」

 男子の黒名くろな夏彦なつひこは立ち上がり言った。

「行けばいいじゃんか」

 手桐てきり勇大ゆうだいは言った。

「……いや、他に行く人いない?」

 黒名はそんなこと言って、一向に行こうとしない。何故かは予想つくけど。

「俺、行かねぇわ」

 手桐はそう言うと、二つの机をベッドの用にして仰向けに寝た。

「手桐もチビっても知らねーぞー」

 女子の『亀空かめぞら藍音あいね』は小バカにするように言った。

「……分かった。俺がついていく。『教室』から一人で出たら危険だ」

 虎縞山は言った。

「……いいよ。はいはい。一人で行けば良いんだろ。息止めていけばほんの一分くらい感染しないしね」

 黒名はそう言い、虎縞山が立ち上がる前に『廊下』へ出た。



――途端。


「嫌だァーーーーーーーーー!」

 と、隣の部屋から聞こえた。

 そして床爪がおぼつかない足取りで『三年四組』に流れこんで来た。

 廊下に出たばかりの黒名は『三年三組』の方をボーッと見たままだった。


 そして、黒名の視線の先から二本の緑の蔓が伸びてきて、黒名の全身を巻き付けると引っ張った。


「や、やめろーーーーーーーーー!」

 黒名はようやく喚き出した。


「く、黒名!!」

 虎縞山は『廊下』へ出て、ギリギリのところで黒名の右腕を掴んだ。

 しかし、虎縞山の引っ張る力より、蔓の方が強かった。

 蔓は『三年三組』から来ているようで、黒名や虎縞山を『三年三組』に引っ張っているようだ。

「おい! なんだこりゃ!」

 手桐も二人を引っ張りに向かった。

 しかし、二人は隣の教室まで一気に引っ張られた。

「待て!」

 手桐も『三年三組』へ入った。


「な、何が……!?」

 上故は口を震わせ言った。

「……枠井の腕が植物になって、暴走した」

 床爪は言った。

「嘘でしょ……」

 上故は絶句した。


「ぼ、僕行ってくる!」

 曽田も向かった。


 3

……隣で激闘があったのだろう。

 ドタバタ音が激しくなっていた。

 やがて、戦ってる場所が廊下に移った。

 

「落ち着け枠井!! 俺だ!! グハッ――」

 コンクリートの壁が崩れる音がした。

 蔓のペチンッという音が無音の『廊下』に響いた。


 聖星川は打撃音がなる度に、肩をビクッとさせた。


 水道のステンレスの場所に誰かが乗ったのかバンッという鈍い音がなった。

 そして蛇口が一気にキュッと緩む音と、激しく放射される水の音がした。


 そんな激闘の音を、聞いてるだけしか出来ない聖星川がいた。


 激しい音は止んだ。

 恐る恐る『廊下』を覗くと、びしょ濡れになって倒れ失神している枠井がいた。


「床爪ー! もう大丈夫だ! 来てくれー!」

 手桐は廊下からそう叫んだ。

 床爪は恐る恐る『教室』を出て、枠井の元へ行った。

 床爪は枠井の首筋に触れると、

「……まだ脈はある」

 と言った。


「……なんか水がかかったら、こいつの腕の蔓が無くなって」

 黒名は言った。

「水? さっきの水道の?」

 床爪は聞いた。

「うん」

「水か……」


 まさか、ウロコウィルスにかかると、こういう症状も出てしまうのだろうか。

 そして、こういう症状は水で抑まるものなのだろうか。


 4

 その後、湯川と不来流が帰ってきた。

 湯川の手にはもう一つガスマスクがあった。

「……死にかけた」

 湯川の口は震えていた。

「でも、ワクチンは5本持ってきたよ」

 不来流はそう言い、液体薬品の入っているガラス瓶を出した。


 虎縞山は殺されかけたと言っていた湯川に何があったか聞こうとしない。

 これで、みんながこの異世界の恐怖を知った。


 床爪は枠井の抗生物質の投与の目的以外、『三年三組』に行かないことにした。

  また、湯川と不来流は男のつけていたガスマスクとナイフを回収したため、現在この部屋にはガスマスク 3つ、銃 3丁、針ショットガン 1つ、ナイフ 1つだ。


「じゃあ床爪、このワクチンを枠井に使ってきてくれないか」

 虎縞山は言ったが

「無理だ」

 と、床爪は言った。


「治療セットには注射器が無かった。つまり、枠井には飲用の抗生物質しか使えないんだ」

 と言った。

 つまり、この世界から出て医者に渡すしか無いと。

 いやそうでも無いかもしれない。

「えっと……」

 聖星川は発言した。

 あまり発言する性格じゃないから、『教室』は静かになった。

「保健室に注射器あるんじゃない?」

 聖星川はそう言った。

「一理あるね。僕が行こう」

 枠井は立ち上がった。そして、銃を1つ取った。

「俺も」

「俺も行く」

 と、手桐と黒名も立ち上がった。

「ごめん、私たちがよく探せば良かった」

 湯川は言った。


「いや、でもワクチン取ってきてくれてサンキューな。 ――じゃあ、注射器とその他色々取ってくる」

 黒名は言った。

 三人はガスマスクを被った。

「ありがとう。出来れば銃をここに置いてって、……手桐、代わりにナイフを持っていってくれ」

 虎縞山はそう言い、ナイフを差し出した。

「うっす。俺に銃なんて不要だわ」

 手桐は机に銃を投げおき、ナイフを受け取った。

 三人は『教室』から出た。


……

「何だか皆強いね」

 上故はボソッと独り言を言った。


 あの三人はあんなに恐怖の体験をしたのに、今も怖いはずなのに、未知の場所へ向かっていった。


「虎縞山~。この部屋の見張りは私がやるよ」

 亀空はそう言うと、机の上の銃を取った。

「いやいや、女子にそんな雑務は――」

「いいの。虎縞山は寝て。虎縞山には今後も学級委員として指揮を取ってもらうつもりだから、今の内に休んで」

「……」

 虎縞山は黙った。


「……僕も、見張るよ」

 聖星川は針ショットガンを取り、亀空の隣に行った。

 聖星川はもう休んだ。

 もう、ゾンビを殺したくらいで吐き気は催さない。


「……分かった。何かあったら起こしてくれ」

 虎縞山はそう言うと安心したように仰向けになって眠った。


「じゃあ聖星川が後ろの入り口見てるよ」

 聖星川は言うと、

「うん、私は前を見る」

 と、亀空は言い、前の入り口へ向かった。

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