三冬
立冬の声を聞くと
もう冬だなあと思うのは
それが生活の中に
長く生きてきた感情からだろう
十一月に入ると
急に日照時間が短くなったように感じられ
朝夕の冷えこみも厳しく
大陸から寒波が襲来し、
山々が、冠雪する日も近い
草木は枯れ
田や沼は凍り
風景は一段と厳しさを増すが
その厳しさの中に凛とした美しさがあり
心惹かれる景も多い
暦の上の冬は立冬から始まる
まださほど寒いわけではないが
立冬と聞くと、
来るべき北風や厳しい寒さに身構える。
※1) ひそみゐし耳に冬立つ音起きる
冬に入ったばかりの季節を
初冬という
田畑は冬菜を除くと枯色を深め
人の吐く息も白く
ひえびえと静かに
澄んだ寂しさを感じるが
”初”という言葉の響きだろうか…
蕭条とした虚しさの中にも
どこかみずみずしさを想わせる
※2) 風呂吹きやまだかまだかと機嫌とり
夜来吹きすさんでいた木枯しが
朝になるとやんでいたので
雨戸を開けて見ると
野も畑も隣の家の屋根も
いちめん白く霜が降りていた。
あゝ初霜ぞ…
指先に曇る窓ガラスの冷たさを
素足に寒気で凍ったサンダルの冷たさを
張りつめた冷気に心が締まる
落葉をもたげて立つ霜柱を
サクサク踏んで歩くのも快いが
霜の降った朝は無風で
よく晴れる日が多く
陽が昇るにつれて
霜は溶けて儚く溶けてしまう
※3)子のうたに笑みほころぶ霜柱
※1)聞こえなくなった耳にも
北風がちゃんと
冬が来たよと知らせてくれますね。
※2)風呂吹きとは、
ゆでた大根や蕪がまだ熱いうちに
温めた甘い味噌をつけて食べる物です。
煮えたかどうだか箸でツンツン
柔らかさを確めたくなる。
そんな様子を詠みました。
※3)家の前の公園で霜柱を
夢中で踏んでいる子供たち
楽しそうでつい笑顔になってしまいます。
だけど、
あの子たちが全部踏んでしまわないか
少し心配にもなります。(笑)