8話 私、辛いものが好きなんです
私と魔王が勝負をするという話は、瞬く間に場内を駆け巡り……
気がついたら、一大イベントとして取り扱われていました。
魔王城の中庭に、急遽設置された会場。
勝負が繰り広げられるステージは、一段、高い部分に設置されています。
その手前に、観客席。
さらに、観客席の脇には、魔界料理の屋台が並んでいました。
あれですね。
ちょっとした見世物気分です。
でも、いつも牢屋にいたので、見世物だろうと外に出られることは気分がいいです。
たまには外にでて体を動かないと、太ってしまいますからね。
運動、大事です。
「レディィィィィスエンドジェントルマンっ!!! ただいまより、魔王さまと姫さまの勝負を始めたいと思いますっ! 大人気もなく姫さまに勝負を挑んだ魔王さまの行方はいかに!? なお、司会&実況は、この私、四天王のシルフが担当しますっ!!!」
「「「おおおおおぉぉぉーーーっ!!!!!」」」
ものすごい盛り上がっていました。
今、敵に攻め込まれたらどうするんでしょうか?
「私が言うのもなんですけど、これでいいんですか?」
「……何も言うな」
隣に座る魔王は、苦い顔をしながらも、部下を止められない様子でした。
本来は、こんなお祭り騒ぎにするつもりはなかったんでしょうね。
でも、どこからか話が漏れて……たぶん、私が色々な方に話をしまくったせいですね……このような事態に発展してしまったのでしょう。
魔界は娯楽が少ないと聞きます。
このようなイベントがあると知り、みなさん、喜んで飛びついたんでしょう。
サタンはそれを止めることができず、苦々しい思いをしながらも、開催の許可をして……というところが、大体の流れでしょうか。
やれやれ。
部下のコントロールもできないなんて、情けない魔王ですね。
さすが、ヘタ王。
「ヘタ王言うなやっ!!!?」
「おおっと、早くも魔王さまが姫さまに口撃しています! 牽制でしょうか? やる気たっぷりですねっ」
「ヘタなことは言わないほうがいいですよ。今の私達、すっごい注目されてますから。サタンがヘタレなこと、バレてしまいますよ」
「むぐっ」
まあ、私は、この素晴らしい性格を隠す必要がないので、今までと変わらずフルオープンでいきますけどね!
「ホント、いい性格をしてるよ、てめぇは……」
「褒めていただき、ありがとうございます」
「嫌味だよっ、わかれ!」
「あらまあ」
「ぐぐぐっ……ホント、殴りたい……!」
「魔王さまと姫さま、睨み合っています! 二人の中では、早くも勝負が始まっているみたいですねー。これは、激戦になりそうですっ。期待大です!」
あの子も、なかなかおもしろいですね。
四天王のシルフさん、といったでしょうか?
友達になれないでしょうか?
それで、一緒にサタンをいじれないでしょうか?
あぁ、夢が広がりますね♪
「それでは、お二人の元に激辛料理をどうぞーっ!」
シルフさんの合図で、私たちのところに料理が運ばれてきました。
「うっ、これは……」
「赤い、ですね」
この料理を一言で表すのならば……『赤』。
とにかく、赤いです。
香辛料をふんだんに使っているんでしょう。
少し離れた距離でも、目がヒリヒリします。
さらに、鉄鍋を使っていて、未だにグツグツと煮えたぎっています。
いかにも、という感じの激辛スープですね。
「なんとなんとなぁあああんとっ、唐辛子1000本を使った激辛料理です!!! しかも、一滴で悶絶するという死のソースを丸まる瓶一本使っています! これはもはや料理ではないっ、新しい兵器だっ!!! 果たして、魔王さまと姫さまは完食することができるのか!? あ、オッズは今、こちらになっています。6:4で魔王さまの優勢ですね。まだ受け付けているので、どんどん参加してください! ぐふふ、胴元は丸儲けや!」
「私達、いつの間にか賭けの対象になっていますね」
「くそっ、シルフの野郎、好き勝手やりやがって……」
私は、ちょうちょいとユニちゃんを手招きで呼びます」
「どうしたの、お姉さま? おトイレ? 我慢できないの?」
「違いますよ。ちょっとしたお願いがあって……ユニちゃん。シルフさんのところに行って、私の勝利に賭けてきてくれませんか? お代は出世払いで」
「うん、わかったのー♪」
「てめぇも参加するのかよっ! 勝手に賭けの対象にされてるんだから怒れよっ!!!」
「儲けるチャンスじゃないですか」
「このアマ……食べる前から、俺に勝つつもりでいやがって。その余裕、ぶち壊してやるからな。この食事が、お前の魔界の最後の晩餐になるぜ!」
「今の台詞はちょっとかっこいいですね。褒めてあげます。でも、まだまだテンプレの域から脱却していません。今後の精進を期待します」
「だからなんで上から目線なんだよぉおおおおおっ!!!」
勝負開始までヒマだから、いじっているだけですよ。
そして……
会場のボルテージは最高潮に。
いよいよ、勝負開始の時間になりました。
「それでは、おふた方、準備はよろしいですか!? 泣いても笑っても、勝負は一度きり。では……レディ、ふぁいっっっ!!!!!」
カーン、とゴングが鳴り、勝負が始まりました。
先にスプーンを手にしたのはサタンでした。
未だに沸騰しているスープを、一気に口に運び……
「ぐげらぁっ!!!!!?」
一口飲んで、悶絶しました。
みるみるうちに顔が赤くなり、どっと、大量の汗が流れます。
「か、からっ……!?!?!? なんだ、ごれば……がらずぎるだろ……ごほっ、げほっ」
「えっと……んっ!? こほっ、これは確かに……」
私もスープを飲んでみますが……
瞬間、口の中が火事になります。
「辛いですね……」
「だろう……? くそっ、こんなものを完食しないといけないのかよ……」
「よくもまあ、こんなに辛い料理を考えつきましたね。魔界のシェフは、ある意味、有能ですね」
「あぁ、そいつは俺の指示によるものだな。お前に勝つために、とにかく辛いものをぶちこめ、って命令したんだよ」
「……サタンはバカなんですか?」
「なっ、なにぃ!?」
「その結果、自分も食べられなくなっているじゃないですか」
「あ……」
「見事な自爆ですね。いえ、この場合は何も考えていないから、ただの爆死? どちらにしても、かっこわるいですね。ぷーくすくす」
「その笑いやめろやっ!!!」
「あらまあ」
「くっそ! 絶対にこの勝負に勝って、お前を追放してやるからなっ」
魔王は汗だくになって、涙目になり、悶絶しながら激辛スープを一口ずつ飲んでいきます。
汗を流しすぎて、干からびてしまいそうな勢いです。
あ、今、ちょっと臭ってきました。
近づかないでくださいね?
私は距離を取りつつ、ゆっくりとスープを口に運びます。
一口、二口、三口……
「って、なんでお前は平然としてるんだよっ!!!?」
「私、辛いものは好きなので」
「辛いってレベルじゃねえだろ、これっ!」
「確かに辛いですが……なんとか我慢できます。それに、しっかりとスープの旨味があって、なんだかんだでおいしいですからね」
「マジかよ……こんなスープをちゃんと味わってる、っていうのか……?」
「言い忘れましたが……」
スプーンを魔王にビシッと突きつけました。
この動作に、特に意味はありません。
なんとなく、気分です。
「レベル……10万に達した時だったでしょうか? その時に、特殊技能『激辛耐性』を手に入れたので。だから、これくらいなら、私、いけますよ」
「なんじゃそれはぁあああああっ!!!? んな適当なスキルが10万で覚えるって、色々とおかしいだろ!!! おかしいだろぉおおおおおっ!!!!!?」
「ずず……ん、おいしいですね。辛いものは好きです♪ ほら、サタン。手が止まっていますよ? 勝負に勝って、私を追放するんじゃないんですか? あなたの決意は、辛味成分に負けてしまう程度のものだったんですか? もしもあなたが討伐されたら、お墓にこう刻んであげますね。魔王、辛味成分に負ける……と」
「ちくしょおおおおおっ、やってやらぁああああああああああぁぁぁっ!!!!!」
――――――――――
……5分後。
激辛スープを一気に飲み干そうとしたサタンは、奮闘するものの、途中で撃沈。
ドクターストップが入り、担架で運ばれていきました。
私はマイペースにスープを飲み続けて……
その間に完食。
見事に勝利を掴んだのでした。
「勝者は、姫さまだぁああああああああああぁぁぁっ!!!!!」
シルフさんの勝者宣言と共に、私は拳を突き上げて……
それに呼応するように、中庭に集まったみなさんが大きな声をあげました。
……魔界って、意外と平和ですね。




