2話 魔王を更生させることにしました
「王家の教育でレベルが1億になった!!!? そんなふざけた話があってたまるかっ。まだ、転生を繰り返したとか神から力を授かったとか、そういう方が信憑性があるわっ!!!」
「これは事実ですよ? 現に、姉さま方も……」
「……まさか、お前の姉連中もレベル1億とか抜かすんじゃないだろうな?」
「いえ、姉さま方は一桁ですね」
「意味深なことを言うんじゃねぇよっ!!! お前みたいなのがあと二人もいるんじゃないかって、ドキドキしただろうが!?」
「あらまあ」
「ここで驚く意味あるか!? ないよな!? なあ、ないよな!?」
「あらまあ」
「俺をおちょくってんのかてめえっ!!!?」
「バレてしまいましたか、てへ♪」
「ぶっころすっ!!!」
ヒュンッ!
すか。
ドゴォオオオオオオオオオオォォォッ!!!!!
「懲りない人ですね」
「ぐ、ぐがが……」
殴りかかってきたので、反射的に、もう一度吹き飛ばしてしまいました。
それにしても、頑丈な人ですね。
今のは、咄嗟の出来事だったので、わりと本気でやっちゃったんですが……
それでも、サタンはまだ動けるみたいでした。
インパクトの瞬間、硬いゴムを殴ったような感触がありました。
あれが、魔法障壁なんでしょうか?
咄嗟に張り巡らせたか、常時、展開しているのか。
どちらにしても、便利なものですね。
私はレベル1億ですが、特に鍛えていないので、魔法は習得していません。
なので、魔法障壁を解除する方法も知りません。
私がただ殴ることしかできず、よかったですね!
「……わかった。信じがたいことだが……王家の教育うんぬんは置いといて、お前がレベル1億ということは認めよう」
体のあちこちからピューと血を流しながら、サタンがそう言いました。
格好つけているつもりなのかもしれませんが、かなり間抜けな姿ですね。
「それで……お前は、こ、これからどうするつもりだ?」
「どうする、とは?」
「とぼけるな! それだけの力を持っているなら、簡単に逃げ出すことが……いや、それ以前に、この俺を倒すこともできるだろう」
サタンが身構えます。
私の襲撃を恐れているんでしょう。
ですが、侮ってもらっては困りますね。
第三王女とはいえ、私は王家に名を連ねる者。
いきなり襲いかかるような、はしたない真似はしません。
さっき殴ったのはどういうことだ、ですか?
あれは自衛なので仕方ないんです♪
「んー……そうですねえ」
しばし考えます。
考えて、考えて、考えて……
「……すやぁ」
「寝るんじゃねぇよっ!!!?」
「はっ。すいません、久しぶりに体を動かしたもので、疲れて……つい♪」
「ところどころの仕草がイラッとくるな、おい」
「まあまあ。それはともかく……これからのことですが、あなたを改心させることにしました!」
ビシッ、とポーズをつけて言い放ちました。
犬が言葉をしゃべっていましたよ、なんて言われたように、サタンが怪訝そうな顔をしました。
「俺を改心……どういうことだ?」
「言葉の通りですよ。あなたを改心させて、人と魔族の戦争を止めようと思います。そうすることが、王家の者の義務だと思いますから」
「時折、まともなことを言うんだよな……」
失礼な。
私は、いつもまともなことしか言っていませんよ?
「戦争を止めたい、か……いかにも王族の考えそうなことだな。しかし、それなら俺を倒した方が早いんじゃないか?」
「魔族は、あなたが頂点に君臨しているからこそ、魔族なりの秩序が保たれているのでしょう? それなのにあなたを倒したら、せっかく築かれた秩序が崩壊してしまい、今以上にひどい混乱が訪れるでしょう。それは望むところではありません」
「ふむ」
「それに、魔王を倒すのは勇者さまの役目と決まっていますから」
「そんな形式美にこだわるのか……?」
「……あと、返り血とか浴びたくないですし」
「それが本音だよな!? お前、自分が戦うのめんどくさいだけだろっ!!!?」
「あらまあ」
「なんでもかんでもそう言ってごまかせると思うなよっ!?」
「あらまあ」
「俺がごまかされると思ってるのかてめえっ!!!?」
「あらまあ」
「……もういい」
サタンは疲れたように言って、頭を抱えました。
頭痛でしょうか?
疲れているのかもしれませんね。
魔族のトップだからといって、働きすぎなんでしょう。
たまには休みをとった方がいいですよ?
「っていうか、お前なら俺だけじゃなくて、一人で魔界を壊滅させられるんじゃないか?」
「バカなことを言わないでください。私たちは、戦争をしているとはいえ、相手国を壊滅させるような野蛮な人種ではありません。殲滅戦をしているのではなくて、戦争をしているんですよ? 敵国を最後の一人になるまで殺し尽くす、なんてことはしませんよ。それは戦争ではなくて、ただの殺戮です。そこのところ、勘違いしないでください」
「まだ常識的なことを言うし……お前という人間がさっぱり理解できん」
「私は平和を愛する一人の人間ですよ。そして、どこにでもいる、普通の女の子でもあります」
「普通の小娘は、レベルは1億もないけどな」
殴り飛ばされたことを根に持っているんでしょうか?
ネチネチとそんなことを言われてしまいます。
もう一発、いっておきましょうか?
「こうして、魔界に連れてこられたのもなにかの運命でしょう。私があなたを改心させて、人と魔族の戦争を止めてみせます」
「いや、もうお前帰れ」
「え!?」
「なんでそこで驚くかな……俺は、お前に人質の価値があるからさらったんだ。それなのに、大して価値がないどころか、レベル1億の化物ときた」
「化物ってひどいですね。捻りちぎりますよ?」
「どこを!? 拳を振り上げながら物騒なことを言うなっ、いや、言わないでください!!!」
「謝ってください」
「……サーセン」
「謝罪、確かに受け取りました」
「今のでいいのか!? 俺が言うのもなんだけど、今のでいいのか!!!?」
どのような形であれ、謝罪をしたという事実が大事なんですよ?
魔王が王女に謝罪した……その事実は消えませんからね。
「とにかく、だ! 戦う気がないっていうなら、こちらも事を荒立てるつもりはない。というか、争いになったらまず間違いなく、俺たちの方が困ることになるからな……部下に送らせるから、人間界に帰れ」
「イヤです。あなたを改心させると、私は決めました」
「お前がどれだけ強くても、俺を改心なんてさせられない。不可能だ。だから、帰れ」
「お断りします」
「……」
「……」
バチバチッ、と視線が交差して火花が散りました。
「……お願いだから帰ってください」
ものすごい勢いで頭を下げられました。
むぅ……そんなに、私にいてほしくないんでしょうか?
なんだか、疫病神みたいな扱いで不満です。不満たっぷりです。
「そんな対応をされると、ますます帰りたくなくなりますね」
「俺にどうしろっていうんだよ!?」
「改心してください」
「無茶言うな! 魔王がほいほいと心を入れ替えられるかっ!!!」
「なら、私が入れ替えてみせます。そのために、このまま人質になりますね」
「人質って意味、わかってんのか!?」
「失礼ですね。それくらいの学はありますよ」
「なら、お前は人質にならないことくらい理解できるよな?」
「そんなことありません。こう見えても、私、父さま母さまから溺愛されているんです。父さま、あの大臣クビにして♪ って頼んだら、笑顔で即決してくれるくらいに、かわいがられているんですよ?」
「それでいいのか王様あああああぁっ!!!? っていうか、お前腹黒いな!?」
「なので、私は人質の価値アリです。父さまと母さまは、今頃慌てて、私を取り返すために国の全部隊を編成して、完全武装させていると思いますよ」
「全面戦争じゃねえかっ! お前ホントに和平を望んでるのかっ!?」
「私を人質にすることで、父さまと母さまを牽制することができますよ? これは、大きなメリットになるのでは?」
「むっ……そう言われると、確かに……」
「決まりですね。私は、このまま人質継続ですね♪」
「くぅ、仕方ねえな。このままお前を手元に置いておいた方が……なんて言うわけねえだろっ!!! お前を返せば一発で問題解決じゃねえか! さっさと帰れ!」
「これからよろしくお願いしますね」
「この女、人の話を聞かねぇえええええっ!!!」
「聞いてますよ? その上で、聞き流しているだけです」
「もっと質が悪かった!!!?」
私は、砕けた壁の破片を拾い、指先で砕いてみせる。
「どちらにしろ、私はあなたよりも強いわけで……逆らえませんよね? なら、どうするべきかわかりますよね?」
「王女が魔王を脅すなよっ!?」
「人質として、よろしくお願いします」
「頼むから帰ってくれぇええええええええええぇぇぇっ!!!!!」
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やる気がみなぎります。