12話 みんなで一緒に暮らすことにしました
……数日後。
「完成です」
なんということでしょう。
無骨な牢屋が一転して、おしゃれなログハウス風に。
隣の倉庫と繋げたことで、部屋数は倍以上。
さらに、キッチンを増設。
さらにさらに、みんなでゆったりと入れる大きなお風呂も!
「完璧ですね。こんな仕事ができるなんて、自分の才能が恐ろしいです」
「さすがお姉さま! 家も作れるなんて、尊敬するの! それに比べて、魔王軍の大工、本当にダメダメだね……ゴミって呼ぼうかな?」
「っていうか、ありえないような……王宮で建築術を学んだとか言われても、これはその範疇を越えますよね? ここだけ、『魔王城』じゃなくて『貴族の別荘』になってますよ」
「実は……レベル1010万の時に特殊技能『家屋建築』を得ていまして。それで、こんなことも可能に……というわけですね」
「わー、お姉さま、色々なスキルを持っているんだね。ユニ、憧れちゃうなあ」
「1010万で『家屋建築』!? 姫さまのスキルスロット、バグってませんか!? なんか色々とおかしいですよね!? 1010万なら、もっとすごいものを覚えますよね!?」
「家を個人で建てられるなんて、すごいことじゃないですか」
「それはそうですけど……あれ? あたしがおかしいんですかね……あれ? あれ?」
シルフさん、ちょろいですね。
でも、ちょっとちょろすぎというか、騙されやすすぎな気がします。
師匠として、弟子の未来が心配になりました。
悪徳商法に引っかからないように、注意して見ておくことにしましょう。
「ユニちゃん、シルフさん。引っ越しの準備をしてください」
「ふぇ?」
「どうしてですか?」
「一緒に暮らすからに決まっているじゃないですか」
「「えぇ!?」」
二人の驚きの声が重なりました。
「なんのために、複数の部屋を設けたと思っているんですか? 二人のためですよ」
「ふぇ……ユニ、お姉さまと一緒に……」
「私はユニちゃんと同じ部屋で寝泊まりしたいな、と思ったんですが……ダメですか?」
「ううん、ダメじゃないよ。ユニもうれしいな♪ でも……」
「でも?」
「ユニは、魔王城の兵士だから……勝手に持ち場を離れたらいけないの。上司が石みたいに頭の固い人だから、小言がすごくやかましいの……」
「そういうことなら、私が担当者と話をつけておきますね。すぐに終わります。一、二発なぐ……誠心誠意話をすれば、わかってくれるでしょう。任せてください」
「うわ……」
シルフさんが、なにかえげつないものを見る視線を向けてきますが……
師匠に対して失礼ですよ?
失礼な弟子は、おしおきをしなくてはいけませんね。
具体的にどんなことをするかというと、まずは○○○を大量に用意して、それから××を煮込んで、△△△△を押し込んで……
「すいませんっ!!! あたしが悪かったので、恐ろしい独り言はやめてくださいですっ!!!」
「あらまあ」
「うー……リーゼさまは、冗談がきついです……」
「私、冗談なんて一言も言ってませんよ?」
「……すいませんでしたっ!!!!!」
本気の中の本気の謝罪をされてしまいました。
冗談なんですけどね。
……本当ですよ?
「シルフさんは、何か問題ありますか?」
「いや、あたしは何もないですよ。これでも四天王なんで、個室をもらえてたんで。荷物もそんなにないから、すぐに引っ越しできますよ」
「女の子なのに荷物が少ないとか、ダメダメじゃありません……?」
「ほっといてください!」
ユニちゃんとシルフさんは、自分の荷物を取りに行きました。
さてさて。
その間に、私はユニちゃんの上司と話をつけておきましょうか。
――――――――――
「お姉さま、ただいまなのっ」
「ただいまです」
ユニちゃんとシルフさんが戻ってきました。
ユニちゃんは両手だけじゃなくて、背中にまで大量の荷物を背負っています。
対するシルフさんは、片手に少し大きめのバッグを一つだけ。
どういう生活をしてきたんでしょうか……?
もしかして、四天王なのにとんでもなく薄給とか?
それで、質素な生活を強制されてきたとか?
きっと、替えのパンツもないくらいの生活をしていて、時に、違法で大人なアルバイトに手を染めて……
「……シルフさん、大変だったんですね」
「なんかよくわかりませんが、失礼な勘違いをされていることはわかりましたよ?」
「まさか、シルフさんがそんなことを察することができるなんて……さては、ニセモノですね?」
「本物ですよ! あたしだって、年に一度くらい、そういう事情を察することができますからねっ!?」
それでも、年に一度だけなんですか……
「本当に荷物はそれだけなんですか?」
「着替えなんかはもうちょっとありますよ。ユニちゃんほど多くはないですけどね」
「それはどこに? 持ちきれないなら、手伝いますよ?」
「いえいえ、ちゃんと持ってきてますよ」
なぜか、シルフさんがドヤ顔をします。
「あたしのとっておき、見せますよ……せいっ、次元収納魔法!」
シルフさんがなにもないところに手を伸ばして……
蜃気楼のように空間が歪み、何もないところから衣服を取り出しました!
「え? え? なんですか、それ?」
「おー、お姉さま、驚いてる。ユニもびっくりしてるよー。道端の虫けらが話しかけてきたくらいにびっくりしてるよー」
「リーゼさまの驚き顔、初めて見たような気がします。これは、次元収納魔法といって、亜空間にアイテムを保存できる魔法なんですよ。誰でも使えるわけではなくて、特定の才能を持つ人にしか許されない、超レアスキルですね!」
シルフさんが、またドヤ顔をしました。
ちょっとイラっとしますが……
でも、そうしたくなるのもわかるくらい、すごい魔法ですね。
それにしても、便利そうな魔法ですね……私も使ってみたいです。
見た感じ……
こう、手に力をこめて、えいっ、と一気に解放するように……
「えいっ!」
「えええええぇっ!!!?」
うまい具合に次元収納魔法が発動したらしく、私の手は亜空間にすっぽりとハマりました。
あ、中はほんのりと冷えていますね。
気持ちいいです。
「な、ななな……なんでリーゼさまが次元収納魔法を使えるんですか!?」
「シルフさんが魔法を使うところを見て、私にもできないかなー、と思い真似してみたらできました♪」
「そんなアホなぁあああああっ!!!?」
「わー、お姉さま、すごいすごいっ♪」
「あ、あたしだけが使えるはずなのに……なんで、リーゼさままで……しかも、簡単に……あたしのアイデンティティが……」
「どんまい♪」
「慰め方が適当すぎますぅっ!!! そもそも、あたしが落ち込むことになった原因はリーゼさまですからね!!!? チートすぎませんかっ!!!?」
「そんなことを言われても……でも、そんなに気にしてはいけませんよ。数少ない見せ場をとられてしまった、残念シルフさん♪」
「変なあだ名をつけないでくださいっ!!!」
「あらまあ」
「むきぃーーーっ!!!」
「わわわっ、大変。シルフお姉ちゃんが壊れちゃった」
「大丈夫ですよ。放っておけば、そのうち元に戻りますから」
「扱いひどくありませんっ!!!?」
「さあさあ、引っ越しを終わらせてしまいましょう。今日から、みんなで一緒に暮らすんですよ」
「雑な締め方っ!!!」
こうして、私達は仲良く一緒に暮らすことになりました。
……シルフさんの言う通り、ちょっと締め方が雑だったかもしれませんね。
てへ♪




