10話 弟子ができました
「たのもーっ!」
後日。
牢屋でのんびり読書をしていると……読んでいるのは魔界の本です。人間界と似通っているところがあり、意外とおもしろいです……元気が声が響きました。
「あら、シルフさん」
「こんにちは、姫さま!」
「この前の怪我はいいんですか?」
「はいっ、もうバッチリですよー!」
「頑丈なんですね」
「それだけが取り柄ですから!」
私の攻撃に巻き込まれて、おもいきり伸びていたと記憶していますが……
ついでに、勝手に私と決闘したことがバレて、サタンにおしおきされていたはずですが……
ついでのついでに、魔王城を損壊させそうになった罰も受けていたはずですが……
とことん頑丈な人ですね。
ちょっと実験してみたくなりますね。
「あのー、どうして、手をわきわきさせているんですか?」
「……いえ、なんでもありませんよ? なんでもありません、ふふふ」
「うっ……今、よくわかりませんが猛烈な悪寒が」
勘の鋭い人ですね。
残念。
今日はやめておきましょう。
……今日は。
「それで、どうしたんですか? また決闘というのなら、お断りですよ」
「いえいえ、決闘じゃないですよー。というか、散々な目に遭ったので、決闘はしばらく自重しようかと。さすがに、色々な人に迷惑をかけてまですることじゃないですからね。
なんだかんだで、あたしの自己満足ですし」
「良い心構えですね。周囲に対する配慮を忘れないようにしないといけませんよ」
「はいっ」
「では、また」
「またです……って、なんで話が終わり、って感じになってるんですかー!?」
「あれ? ただ単に報告に来たんじゃないんですか?」
「違いますって! 本題が別にあるんですって!」
「……ちっ」
「なぜ舌打ち!?」
「いえいえー。めんどくさいなー、ややこしいことに巻き込まれたくないなー、とか、そういうことは考えてませんよ?」
「考えてるんですね!? ひどいですっ、姫さま、意外と意地悪です!」
うーん。
シルフさんも、なかなか良いリアクションをしてくれますね。
サタンに次ぐ、いじり候補として脳内に登録しておきましょう。
「それで、本当にどうしたんですか? もしかして、サタンに、私の見張りをするように言われましたか?」
「いえいえ、そんなんじゃないですよ。というか、あたしに姫さまの見張りなんて務まらないですよ。姫さまが本気になったら、あたしじゃあ……というか、魔王城の誰も止められないんじゃないですかね? さすが、レベル1億。あたしなんかじゃ姫さまの相手にならないこと、身に染みて痛感しましたよ」
「あれ? 私のレベルのこと、話しましたっけ?」
「いえ。魔王さまから聞きました」
あの人は……
人のプライバシーを勝手に話すなんて、礼儀がなっていませんね。
今度、教育しないといけませんね。
ふっ、ふふふ……♪
「な、なんですかね。また強烈な悪寒が……って、話が逸れましたね。私が来た理由なんですが……弟子にしてくれませんか!!!?」
「出汁?」
「はい! 私を煮込むと、澄んだおいしい出汁が出る……って、違いますよ! 弟子ですよっ!!!」
「寿司?」
「そうそう、私、こう見えても寿司職人の資格を持っていて、お前なんて握ってやるぅと……って、違いますよ! 弟子ですよっ!!!」
「武器屋の親父?」
「ええ、私は武器屋を営んでいて、みんなからはオヤジの愛称で……って、違いますよっ!!! こじつけにもほどがありません!? 字面も似てないし、文字数もぜんぜん違うじゃないですか!!!」
「いやー、どこまでできるのかなあ、と思いまして。シルフさん、ボケのリアクションがなかなか素晴らしいですね」
「えへへ、ありがとうございます……って、あれ? 褒められてないような?」
「気が付きましたか。それはともかく」
「自分からボケておいてあっさりと流した!!!?」
話を切り替えることにします。
身勝手?
仕方ないじゃないですか。
同じ話題を続けたので、飽きてしまったんですもの。
「弟子と言われても……あの弟子、ですよね?」
「はいっ。あたし、最年少で魔族の四天王になったんですけど……天才だ、将来が楽しみだ、なんて周りに言われてました」
「シルフさんを天才……その人、見る目ないですね」
「戦いの天才って意味ですからね!? 頭は関係ありません! だから、私も天才と呼ばれたんですよ」
それ、自分で言っちゃいますか。
「私は周囲の言葉を否定することなく、むしろ、当然のことだって、そういう風に受け止めていました! でも、それはうぬぼれでした。あたしはまだまだ未熟です……姫さまと戦い、そのことを痛感しました! 改めて、鍛え直したいと思ったんですっ」
「それで、私のところに弟子入りですか」
「そのとおりです!」
正直なところ、困ります。
遊び相手は欲しいですが、弟子なんていりません。
そもそも、誰かに何かを教えられるほど、私は戦いを極めたわけじゃないですからね。
ただ単に、レベルが高いというだけです。
「私に弟子入りしても無駄だと思いますよ? レベルが高いだけで、戦いの知識なんてないですからね。教えられることなんてありませんよ」
「それは、見て盗んでみろ、ということですか!?」
「どうしてそうなるんですか!? 今、話が三段階くらい飛びましたよ!?」
「姫さまの秘伝を簡単に教えることはできない……つまり、盗んでみせろということですよね!?」
「すごい捏造ですね!? どういう耳をしているんですか!?」
私にツッコミをさせるなんて……
この子、なかなかやりますね。
「私に弟子入りなんてしても、時間の無駄だと思うんですけどね。盗むものなんて、何もないですし」
「そんなことありませんよ。姫さまは、力の『使い方』をちゃんと理解してますからね」
「どういう意味ですか?」
「姫さまはレベル1億で、とんでもないステータスを持っているじゃないですか? 普通、それだけの力を持っていたら、まともに扱うことなんてできませんよ。力に振り回されるというか……武器を持ったことのない素人が、いきなり伝説の魔剣を手にするようなものです。まともに剣を振ることができず、自滅するのがオチです」
ここが魔界だからなのか、例えが聖剣じゃなくて魔剣でした。
ちょっとした文化の違いを発見です。
「でも、姫さまは違います。とんでもない力をきちんとコントロールしています。意識しているのか無意識によるものなのか、それはわかりませんが……誰にでもできることじゃありません。むしろ、それができる人はごくごく少数です。私は姫さまに弟子入りすることで、その極意を学びたいと思うのです」
「理論っぽいことも言えるんだね」
「魔王さまが言ってたことを丸パクリしました!」
「パクリかいっ! っていうか、一緒にいることで学べるんですか?」
「はいっ!」
うーん……これは、断りづらい雰囲気ですね。
それに、個人的にシルフさんは嫌いじゃありません。
知り合って間もないですが、私の『好き』なタイプです。
できることなら力になってあげたいですが、ちょっと面倒だなあ、という気持ちもあります。
どうしましょうか?
あと一つ、背中を押すような、『何か』があればいいんですけど……
「姫さまと一緒に過ごして、同じ生活をすることで色々と学びたいんです! お願いしますっ」
「……あら? ということは、私と一緒にこの牢屋で生活するということです?」
「はいっ。姫さまさえよろしければ!」
「……掃除とか洗濯とかしてくれますか? 料理とかは?」
「もちろん、構いませんよ。あたし、家事は得意なんです。あれ? でも、そういうのは姫さまの世話係の人がやっているのでは?」
「いるにはいるんですけど、男の人なんですよねー。だから、色々と気遣いが足りないというか、やってほしいことが伝わないというか……」
「あー……なるほど。心中、察します」
「わかってくれますか!」
人質という立場のため、魔王軍のみなさんは、それなりに親切にしてくれます。
でも、女の子に対する扱いがなっていないんですよね。
私の下着を勝手に洗おうとしたり。
着替えの最中に勝手に入ってきたり。
料理はカロリーの高いものばかりで……うぅ、思い返したら泣けてきました。
「おまかせください! そういうことは、あたしが全部解決してみせます! それくらいで姫さまと一緒に過ごして、学ぶことができれば安いものです。それに、弟子が師匠の面倒を見るのは当然のことですからねっ」
「わかりました。あなたを弟子と認めます」
「ありがとうございますっ」
こうして、弟子ができたのでした。
さっそく今日から、料理とか洗濯とか掃除とか、家事をがんばってもらいましょう。
時間の空いた時はお話をしたりして、相互理解に努めましょう。
そう、これは人間界と魔界の和平に繋がる、大事な一歩なんです!
……さすがに、言い訳が厳しいですかね?




