第1話 プロローグ
プロローグ
爽やかな日差しが俺に陽気を送り出す5月……
「えっ!? もうこんな時間かよ!」
着慣れた制服を秒速で着て、簡易で作った卵かけご飯をかき込む。
「また遅刻するじゃねーかぁぁぁ!」
俺は立花高校二年C組、九条和葵。
立花高一の遅刻魔だという自覚が芽生え始めている。
学校に遅刻することは日常茶飯事、大して珍しいことでもないからクラスメイトも驚かない。
というより俺に話しかけようとか、俺に興味があるとかそんな奴はいない、こいつ以外は。
「和葵、また遅刻かよ」
一際背が高く、爽やかで活発な男子が自席に座る俺を見下ろして言う。
立花高校二年C組、神岡颯馬。
唯一の友達にして、親友。
颯馬は中学からの友達で今年度で5年連続クラスが同じという運命を感じてしまう人物だ。
「いや、昨日……ていうか今日の4時まで全力で最新のラノベを読んでたんだ! 仕方ないことだろ?」
お気づきだろうか?
そう、俺は正真正銘、オタクである。
オタク歴は八年強、最新のラノベの情報を集め、必ず発売日には買うスタンスを外したことがない。
俺が知らないアニメの情報はないと言っても過言ではなく、今までアニメのために数十万円を奉仕してきた。
ただ、そんな「オタク」の言い訳は普通の人に通じない。
「仕方ないわけないだろ! お前、今日、暗記テストあるんだぞ!」
「は? 本当かよ!? それに関してはもう既に手遅れだよ……」
颯馬がため息をつき、どうしようもないと言わんばかりの目で俺を見つめる。
「手遅れってお前……ラノベもそこそこにした方がいいんじゃないのか?」
「いいか? 颯馬、ラノベってのはな素晴らしいものでな、主人公とその周りの人物が……」
「あーその話もう三十回目くらいだ! いい加減、テスト勉強に時間を裂け!」
颯馬は世間で一般的に「イケメン」という部類に入る。
この高校に入って二年少し、もう十回以上は告白されているだろう。
そんな「イケメン」が耳を塞ぎたくなるような大声を俺の机の前で出している。
もはや、俺には首を縦にふる選択肢しか残されていない。
「分かったよ、今度から、今度からな……」