第8話
家庭の事情により更新が遅れてしまいました、申し訳ありません。これから改めて書いていこうと思っております。
ナナシ
食事しながら近況報告をする。クロウは暴食の名に恥じないほどのグルメであり、暴食領に人族や天使族をよんで、様々な大陸の料理が食べられるレストランをつくってる最中らしい。出来上がり次第招待してくれるそうだ。
カナンは大陸を旅し、珍しいものを持ち帰っては博物館に展示しているらしい。大人しそうに見えて好奇心旺盛だからな。今度案内してくれるらしい。
ベルは傲慢領でのんべんだらりと過ごしていたらしい。余りに何もしないから領主に仕事してこいと言われて今回来たらしい。聞いている限り、もうこの人が怠惰代表でいいんじゃないか?年配ということもあり、昔から何かとフォローしてくれて頼りになるのだが、基本的に放任主義なところがあるからな。まぁ今回来てくれたのは素直にありがたいな。
リリアは冒険者ギルドに所属し、人族とも交流しているらしい。ときにはジルさんから頼みを受けて各領を飛び回っているらしい。今回もその一環だったのだろう。時折無茶振りをされると愚痴っている。
ジルさん達は相変わらずだそうだ。他の領主も健在で、民のためにできることをそれぞれ模索しながら行動しているらしい。頑張ってもらいたいものだ。あの世代の方達は活気があるし、結束も強い。ある程度安寧だろう。
「そういえば聞こうと思っていたんですが、何で戦争の時にわざわざ城を作ったんですか?」
それぞれの近況を話終わり、領主が頑張っていると言う話が一段落した頃にリリアが思い出したように言い出した。しかし、来る途中で戦争の時ことは知っていると言っていなかったか?
「天使族が人族をそそのかして勇者召喚したことは知っていますし、勇者が魔王討伐のために魔族領を目指したことは知っています。私の父が魔王役を引き受けたのも知っています。でもどうやって切り抜けたのか教えられてないんです。城もそのときに建てられたと聞いていますが、一大事の時にどうして城をたてたのかは知らないんです。」
「ああ、それなら簡単じゃな。ナナシのやつが急に城を作ろうと言い出したからじゃ」
「そうなんだな、あの時は慌てていたから、いきなり何を言い出すんだと思ったんだな」
「そうなんですか?そもそもよく魔族でないナナシさんの意見を周りが了承したのも謎なのですけど」
「彼には魔族領で相談窓口をしてもらっていてね。相談事はもちろん苦情やら愚痴を聞いてもらっていたよ。」
「ナナシさんがですか?面倒くさがりそうですけど...」
リリアが不思議そうにこちらを見てくるが、そんなに意外だろうか?
「まあ相談窓口はのんびりやらせてもらってたよ。勇者召喚もそのときに聞いてね。あの時はおどろいた」
「そうだったかい?相談にいったときはさほど驚いていなかったとおもうんだがね」
「勇者が召喚された、そうすればいいと思う。って聞いてきたときはなんの冗談だと思いましたよ」
「そういえばその時一緒にいましたね。急にジルさんがドアを開けて叫ぶものだから驚いたのを覚えていますよ」
カナンも当時を思い出して話しているが、この時は本当に大変だった。あまりの剣幕で来たものだから、心配した住民が集まりだして収拾つけるのに苦労したんだった。
「それからは楽しかったんだな。俺とカナンとベルがナナシの指示されながら動きまわって情報集めて、悪巧みしたんだな」
「ええ、あれは今思い出しても心が踊りますね。学園よりも遥かに楽しかったですよ」
「へえ、そうなんですか。カナンがそこまで活発に動いている印象がないので意外です」
「ああ、それはずっと図書室に籠っていたからでしょうね」
そうだった。俺と会った時はカナンとクロウは魔族領の学園に通っていたんだったな。学園では浮いていたためサボってはよく話に来ていた。それからベルさんも加わって色々賑やかになっていった。
しかし今の言い方ではリリアが誤解するだろうに。
「悪巧みとは人聞きわるいな。勇者に襲われた魔族から話を聞くと、元の世界に帰るために魔王を倒すって言ってたらしいから、お膳立てするために魔王と城を用意しただけだぞ」
「簡単に言っておるがの、なかなか大変だったのだぞ」
「それはそうだと思います。城なんて1日2日でできるものではないですから。なんでナナシさんはわざわざお膳立てしようとしたんですか?」
「勇者の目的が魔王討伐立ったからな。元の世界に帰るために血眼で魔王探してるのに、魔王なんていませんっていってみ?目的を魔族殲滅にしかねないだろ。勇者の実力も未知数だ。被害を最小限にするためにどうするかを考えたときに、この策を思い付いたんだよ」
「大変じゃったぞ。主にわし等がやったのは勇者を城に誘導するのと、事態を起こした黒幕を暴き出すことじゃったな」
「え、無茶苦茶じゃないですか!」
「そうじゃ、こいつの命令が無茶苦茶でな。かなりの無理難題を言われたものだ。それにだな…」
なにやらベルさんが語りだした。確かに大変だったが、そもそも「勇者を何とかしてくれ」なんて依頼がなければそんなことにならなかったでしょうに。意見を求めてきたジルさんの横で楽しそうに聞いていた誰でしたっけね、まったく。
「勇者の誘導は殆ど俺がやったんだからいいじゃないですか」
「まあ情報を流すだけでよかったからな、楽な仕事じゃった」
「情報を流す?」
「勇者の耳に〈魔族と取引している行商人がいる〉っていう情報が流れるようにしたんだ。勇者は情報を得ようと接触してくることは予想できてたからな。実にペラペラ喋ってくれた。」
「え、ナナシさんが勇者と話したんですか?」
「そりゃそうだろう。唯一の人族なんだ。大して疑われることもなく情報交換ができた。それに勇者には奴隷の腕輪がついていて、勇者はそれに気づいていなかったからな。親切に教えたら快く喋ってくれた」
「へぇ、すごく意外です。ナナシさんが率先して動くなんて」
リリアが目を丸くしているがそんなに意外かねぇ。
「まあ、俺のやったことなんて勇者と喋って魔王城の場所を教えたり、黒幕の情報をもらったりした程度ですよ。それより3人に動いてもらった黒幕探しの方が大変だったでしょう」
「それもカナンのやつが動いて何とかしおったからの。わしとクロウは主に邪魔者に寝てもらっていたくらいかの」
「そうなんだな、ベルに連れまわされて散々だったんだな。カナンは全く助けてくれなかったんだな」
「失礼な、役割分担です。ちゃんと黒幕見つけたんだからいいじゃないですか」
クロウが愚痴るもカナンは素知らぬ顔で受け流している。それを見てベルさんも笑っている。ああ、こんな時間をもう一度得るために自分たちは動いたんだった。もう一度笑いあうために、勝つために頑張ったんだった。
色々あったが、また友人たちとこうして笑顔を浮かべて話すことができるのだ。俺は守りたいものを守れたんだと、改めて実感した。