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怠惰な日常  作者: 帽子
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第4話

ナナシ



「はぁ、はぁ」


 開けた場所に出たので、立ち止まって後ろを振り向くとリリアが肩で息をしている。額からも汗が流れている。あれから2時間森の中を歩いている。怠惰の結界の影響で体にかかる負荷もある。自分と違って慣れない森の移動だ。疲労も溜まっているのだろう。


「大分歩いたな。開けた場所にも出たし、少し休憩しないか?」

「あ、いえ、私は大丈夫です。日が昇っているうちに森を抜けないと、迷うかもしれませんし。魔獣に襲われるのも心配です。」

「魔獣?ああ、確か噂で危険な猛獣が住んでいるって言われてたな。大丈夫だ、ここの連中は大人しいから滅多に襲われることはない。この森は俺の庭のようなものだから、迷う心配もなしだ。あと1時間歩けば森を抜けるだろう。悪いが俺の休憩に付き合ってくれないか?」

「ええと、分かりました。」


多少迷うそぶりを見せたが、了承してくれた。丁度切り株があったのでそこに二人で腰かけた。


「すまないな、飛んでいけたら良かったんだが、結界の影響でね。森の一部だけ結界を弱めるなんて器用な真似できないんだわ。時間かければ何とかできるんだが…」

「いえ、こちらも急な話だったので気にしないでください。それより聞きたいことがあるのですが」

「ん?」

「ナナシさんはどうしてこの森で暮らしていたんですか?」

「あれ、ジルさん達から聞いていない?」

「はい、ナナシさんに相談に乗ってもらっていたと聞いていたんですが、あまり詳しい話までは」

「まあ、そうだろうね。ジルさんもアリスさんも意外と口硬かったしな」

「父や母とはどのような関係だったのですか?」

「ん、いや、なんていえばいいのやら…」

「そもそも人族であるナナシさんがどういった経緯で父達と知り合ったのですか?それにどうして怠惰の魔力を所有しているのですか?それから…」


質問が矢継ぎ早に出てくる。


「まてまてまて、そう一気に聞かれても答えきれん。とりあえず落ち着け。」

「あ、すいません。」

「まあなんだ、これから色欲領まで時間はたっぷりある。急がなくても逃げないさ」


落ち着いてもらうために、時間たっぷりあることを伝えると、キョトンと首を傾げている。


「え、色欲領まで行きませんよ?」

「ちょっとまて。お前さんは確か色欲領から来たんだろう?ジルさんが呼んでるから一緒に来てほしいってことじゃないのか?」

「いえ、確かに私は色欲領出身ですけど、今回来てもらうのは魔王城ですよ」

「なんだ、魔王城かぁ。それなら今日中に着きそうだな。てっきり色欲領だとばかり思っていた」


魔王城ならば、この森を抜けて飛行すれば夕方には着くだろう。適当な街で宿を探して1泊する必要があると思っていたが、その考えは杞憂だったようだ。変に気を使わないといけないかと思っていたが、今日中に着くんであればその必要もないだろう。


「ならまあ質問に答えるのは、魔王城に着いてからでもいいかもな。どうせアリスさんあたりが思い出話を語ってくれるだろ」

「はぁ」

「正直色々あってな。何から話せばいいのやら。出会ったのは5年前だったか。毎回訪ねてきては無理難題な相談事を持って来たり、面倒事に巻き込まれたりなぁ。」

「あはは」

「しかし、まあ楽しかったよ。仲良くしてくれることは正直有り難かった。」

「ナナシさん…」


昔を思い題して、しんみりしてしまった。色々あって、変わってしまたものもあるが、変わらず続いていくものもある。


「しかしまた急な話だったが、何かあったのか?」


ふと気になっていたことを思い出して、尋ねてみる。


「何かとは?」

「いやなに、ジルさん達とはたまに文通してるからな。普通なら手紙を送ってきそうなものだが、お前さんを来させるくらいだからな。何か事件でも起こったのかなって思ってな。」

「ああ、それなら多分、人族の大陸で異世界人を召喚する時期が来たからだと思います」

「…は?」


聞いた時、頭がついていかなかった。冷静に考えても意味が分からない。


「ちょっとまて、異世界人召喚ってあれか?勇者召喚の事か?」

「はい、そうですよ」


呑気に答えている場合か!こいつは事の重大さを理解してないのか?


「また天使族がそそのかしたか?それとも人族の暴走か?」

「え?」

「え、じゃないだろう!5年前に起こった戦争を知らないわけはないだろう。こうしてはいられない、急いでジルさん達と会って、対策練らないといけないな」

「えっと、あの…」


こちらが今後の対策を考えようとしていると、リリアがおずおずと話しかけてきた。


「あの、多分誤解しています」

「誤解?」

「はい。5年前の戦争は知ってます。けど、今回の話はそれとは全然違います。人族のお祭りですよ」

「なに、祭り?」

「はい、異世界から勇者役を呼んで、もてなすそうですよ」

「なんでそんなことをする?」


正直言って人族が異世界から人間を呼んでもてなしつつ、祭りを催すなんてメリットがないと思うんだが。異世界の文明を取り入れるつもりなのか?それにしてはデメリットが多すぎる。しかも勇者役ってことは、力を持っていないのか?ますます分からない。


「主に謝罪の意味があるのではないですか?」

「謝罪?」

「ええ、前の戦争を起こしたのは人族です。その責任をもって人族が祭りを主催して天使族と魔族を巻き込んで祭りを行おうとしているようです。」

「へぇ、そんなことを。異世界人の召喚や送還はどうするんだ?」

「天使族が協力しているそうです。送り返す際はちゃんと時間を調整するみたいですよ」

「なるほど。魔族や天使族、さらに異世界に対しての謝罪か」

「そうですね。あの戦争は天使族もそそのかした側ですので、祭りの運営に支援する形をとるでしょうね。」

「なんだ、危険性がないただの祭りか。油断は禁物だが、血生臭くないことはいいことだ」

「はい」


先走って戦争の可能性を危惧していたが、行われるのがただの祭りとなれば構える必要もなくなる。安心したところでふと気づく。


「あれ、ってことは今回俺が呼ばれたのは…」

「ええ、多分その祭りのことで相談があるのではないかと」

「うへぇ、準備でも手伝わされるかぁ。悪い、帰っていいか?」

「ダメです!ここまで歩かされたんです。絶対連れていきますからね!」


だめだ、逃げられそうにない。諦めて労働するしかないのか。働きたくないでござる。


「それでは行きますか」


どうやら会話をしていると多少休めたようだ。息も切れていないし、汗も引いているように見える。これならあと1時間で森を抜けることも可能だろう。


「はぁ、しょうがない。行きますかね。」


重い腰を上げ、移動を再開した。


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