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怠惰な日常  作者: 帽子
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第19話

ナナシ


「申し遅れました。私は怠惰領代表という事になっています。ナナシといいます。お見知りおきを。」


警戒されていると思ったのでなるべく刺激しないように丁寧に笑顔で自己紹介をした。人付き合いは最初が肝心だからな。なるべく悪印象は持たれないようにしておきたい。そう思っているんだが……


「そう、あなたが次の怠惰なのね……」


何で目の前の獣人女性はこんなに敵意をむき出しにしているのかね。横に立っている執事風の鬼人もこちらを見る目が険しくなってきてるし。カナンと話していたレデリックとかいう貴族もこちらを見ている。ただ、その目には険悪感よりも好奇心が宿っていた。


「あの、どうかしました?」


流石に居心地が悪くなって質問するも答える者はいない。助けを求めるようにカナンの方を見るが腕を組んでこちらを見ているばかりで、気の利いたことを言ってくれるわけでもない。途方に暮れていると、


「ルブラン、ニッケ、行くよ。」


『はっ』


(おいおい、何で臨戦態勢とってるんだよ。何かしたかな?)


ルブランと呼ばれた執事風の鬼人は槍を構え、ニッケと呼ばれた獣人はガントレットに魔力を込めだした。後ろにいるレデリックも杖を持って詠唱準備に入る。


「ちょっと待ってください。いきなりなんですか?」


「なに、噂の怠惰がどの程度戦えるものか確かめるだけだ。」


ルブランの返事に違和感を感じる。


「何を言って……」


言葉はそこで止まってしまう。視線の端でこちらへ向かってくるニッケを捉えたからだ。


「よそ見してる暇はない!」


「いっ」


慌てて机から離れるとニッケの拳が俺の使っていた机に振り下ろされる。魔力が込められているからか茶色のガントレットが赤く光っている。机に当たった瞬間に爆発が起こる。


「おいおい」


あれでは机も無事ではないだろう。請求書をレデリック宛に出すことにしよう。周囲を見回すとオロオロとした様子のメルシィさんと腕を組んだまま目を険しくしているカナンが目に入ってくる。


(……なるほどね)


「ウォォォォォ!」


「げっ」


煙の中からルブランが叫びながら槍を突き出してくる。


(早いな)


何度も突き出される槍を紙一重で避けつつルブランの動きを観察する。


(完全に武闘派だ。動きに隙が無い。魔力を身体強化にしか使っていない。エンチャントはなし。身体強化に使われているスキルは恐らくウォークライ。突っ込んでくるときに使ったな。)


身体強化のスキルの一種だ。叫ぶことで自信を鼓舞する。持続時間が長く、身体能力上昇の効果がある。ただ、発動の際に叫ぶ必要がある。冒険の最中に不必要に魔物を呼び寄せてしまうことから使用のタイミングを選ぶ必要がある。


「もらった!」


(リフレクト!)


不意に背後からニッケの声がする。反射で防御の魔法を使用し光の魔法陣がニッケの拳を何発も防いでくれる。


(獣人特有の素早さか、厄介だな。おまけにこちらも強化されている。しかも爆発系のエンチャントも付与されてるもんだから攻撃力がシャレにならない)


爆炎をまき散らしながら繰り出される拳を何度も魔法陣で防ぐが、次第に魔法陣にひびが入っていく。


(そろそろ限界か……)


防御能力が高い魔法だが持続時間が短く再使用に時間が掛かる魔法だ。ゲームのシステムが導入されたこの世界では魔法を再使用するのに時間が掛かるようになった。知り合いはリキャストタイムとか言っていたが。


(不便になったもんだ)


「ニッケ、離れろ!」


ルブランが叫び、ニッケが後方に飛ぶ。


(何が……)


周囲を見回すと、レデリックの姿がないことに気づく。


(上か!)


いつの間にか上空に浮かんでいるレデリックの周囲に5本の氷結の槍が構築されていく。


(アイスランスか。構築にかかる時間は10秒だったはずだ。妨害は…無理か。仕方ない……)


考えているうちに槍の構築が終わってしまう。急いで影に魔力を込める。


「アイスランス!」


(シャドウプリズン)


周囲を影の檻が包み飛んでくる槍を防いでくれる。


(ふぅ、しかし連携が上手いもんだ。)


彼らの連携に舌を巻く。ニッケの爆発のエンチャントによる煙や、ルブランのウォークライによる陽動が、レデリックの詠唱中に敵の動きを封じるように上手くいかされている。


「へぇ、これも防ぐんだ……」


レデリックがこちらを見降ろしながら呟く。アイスランスもシャドウプリズンも解除されていく。幸いこれだけ戦ったのに被害が机だけしかない。


「一つ聞いていいかな」


好奇心が抑えられないように目を輝かせながら質問してくる。こちらがどうぞというと笑みを深くして


「なんで怠惰の魔力を使わないのかな?」


と聞いてくる。


「正直怠惰の魔力を使えばもっと楽に私たちを無力化できたんじゃないかな」


「……」


「それとも私たちに対して使うまでもなかったかい?」


ある程度考えての事だったんだが失礼だったか?


「失礼しました。確かに怠惰の魔力を使えばある程度は楽ができたことは事実です。ただ、そちら側の意に添うようにしたつもりだったのですが。」


「……何のことだい」


「今回の戦い、恐らく俺の力量を試すことが目的だったのではないかと思ったんですが。特に怠惰を使わない上での。」


「……」


「違ったかな、カナン」


急に話を振られえたカナンは目を丸くしていたが、次第に笑みが浮かんでくる。


「えぇ、その通りです。レデリック卿、協力ありがとうございました。ルブランさんもニッケさんも、慣れない演技お疲れ様でした。」


そういった瞬間、周囲の緊張が一気に解けた。

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