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怠惰な日常  作者: 帽子
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第18話

ナナシ


カナンはメルシィさんと話しており、再びすることが無くなった俺はこうして煙管を楽しんでるわけだが……。


「御機嫌よう、メルシィ嬢。」


貴族の坊ちゃんが爽やかに入ってくる。後ろの二人は護衛か?


「レ、レデリック様。本日はお日柄もよく……」


おお、メルシィさんも慌てて対応してるぞ。貴族相手というのは人種が違えど緊張するもんなのかねぇ。


「こんにちは、レデリック卿。」


「これはこれは、カナン嬢も一緒でしたか。」


カナンもどうやら知り合いだったらしい。こちらを放っておいて三人で話だした。こちらには護衛の二人がくる。鬼人の男性は所謂執事という奴だ。静かな印象を受けるが、かなりの手練れだろう。立ち振る舞いが洗練されていて全く隙が見られない。左の獣人女性は憲兵だろうか。メイドという雰囲気ではない。腕に付けてあるガントレットが恐らく武器なのだろう。勝気な瞳が赤髪と相まってより攻撃的な印象を受ける。


「今日の報告をしたいのだが、報告書はこちらでよろしいか?」


「はい、確認させていただきます。」


鬼人の執事さんの威圧感が半端ではなく、若干テンパってしまったが、とりあえず書類の確認だけでもしなくてはいけない。


(……ふむ、さっきカナンが話してた魔物が増大した地域か。割とシャーロットから近いんだよな。魔物の討伐ねぇ。ん?妖狐と青い化け物?)


書類を読みながら記入ミスなどを探していると、それまで黙っていた女性が睨みつけながら話しかけてくる。


「なに、あたし達の書類に何か問題があるわけ?」


「いえ、一応確認しているだけですので。」


「ならいいじゃない。さっさと報酬をよこして。」


「その前に少しだけ聞いてもよろしいですか?」


こちらの質問に女性はムスッとしたままで、男性の方が頷いてくれた。俺もさっさと済ませてしまいたいんだが、聞いておかなくては後が面倒になる。


「ここに書いてある妖狐と青い化け物について詳しく聞きたいんですが。」


「分かった。まず青い化け物について話そう。巨大な体躯で木を引き抜いて、それを振り回して攻撃してきた。体は全身青く、巨体に似合わず動きが早かった。他の魔物と共存している様子はなく、他の魔物の寝床を奪っている用だった。」


(……明らかに今まで生息していた魔物と別物だよなぁ。ゴブリンなわけないし。)


「分かりました。他に何か気づいた事ってあります?」


「目が一つしかなかった」


女性の方が割り込んでくる。貴重な情報だから有り難いんだがこちらを睨みつけるのは何とかならないものか。


「目が一つですか……。」


「なによ、疑っているの?」


だから噛みつくのはやめてくれ。疑ってないから。


「いえ、疑っていません。恐らく新種でしょうね。今までの魔物と行動が逸脱してますから」


明らかにおかしい。本来魔物は縄張りを持っており、魔物同士が侵略することは殆どなかったはずだ。大きい魔物なら『トロール』や『ゴブリンキング』も存在しているが、『トロール』は動きが遅いし木を引き抜いて武器にするなんて方法は取らない。基本的に叩き潰すか踏みつぶすことしかしない。ゴブリンキングは動きは多少早いが、単騎で他の魔物の住処を荒らすような真似はしないはずだ。


「さて、次に妖狐だが」


そう言って口を閉ざす。今まで冷静そうな顔をしていたが、妖狐の話題になった途端動揺しているように見える。


「どうかしましたか?」


「いや、すまない。気にしないでくれ。妖狐だが、私たち青い化け物と交戦中に現れた。そのまま青い化け物に噛みついて行った。大きさはその化け物と同じぐらいだった。色は金だ。」


「尻尾の数はどうでした?」


妖狐は内蔵している魔力によって尻尾の数が変わる。妖狐の中で階級があるらしく、数が多いほど妖狐の中では上位になるるらしい。それほどの大きさなら五本ぐらいありそうだ。


「一本だった。」


「……え?」


「一本しか見られなかった。明らかに幻獣クラスの強さだったというのに、尻尾は一本しかなかった。あのような個体は聞いたことがない。」


(一本しかなかったねぇ。心当たりがあるとすれば……)


怠惰の森に一体だけ該当する存在がいる。まさかとは思うが……。


「青い化け物はまだどうにかなった。我々でも対処できた。だがあの妖狐は違う正直勝てる気がしなかった。圧倒的だった。あんな魔物がこの町の近くに住んでいるなんて笑えないぞ。」


そこまで恐怖を感じたか。新種の可能性もあるが、俺の知っている存在だとしたらまだ何とかなる。その場所に住み着くことはないだろう。問題は何故そこにいたのかだが……。


「どうした、心当たりがあるのか」


考え込んでるこちらを見て疑問を感じたんだろう。


(心当たりがないわけではないんだが、確証もないんだよなぁ。)


「一つだけ心当たりがあります。確証はありませんが。」


「なにっ!ならあれは何なの!」


またも女の方が噛みついてくる。そんなに怒鳴らなくても答えますって。


「俺が知っている存在ならば恐らく住み着かないはずです。何故そこにいたのかは分かりませんが、基本的に温厚で争うことはしないはずです。」


「だが青い化け物に飛びかかっていったぞ?」


「だから確証はありません。ただ、俺の知っている存在ならば元の住処に戻っているはずです。」


「ならばその存在の事を教えてくれ。」


冷静に執事が言ってくる。だが、出来ればこの情報は言いたくはない。万が一討伐隊が組まれて出向いた日には血を流すことになってしまう。もちろん討伐側がだが。あれはそれくらい規格外だからだ。だがこちらを見る二人の目は真剣だ。それほど脅威に感じ、この町を案じてくれているのだろう。


(仕方ないな……)


「その前に約束してもらいたいのですが、その存在の事は」


「黙っておけというの?万が一町に害をなす存在だった場合どうするつもり?」


何でこのお嬢さんはこんなに噛みついてくるのかねぇ。まぁ、人族に対して偏見を持っているのならば納得の反応だけども。


「俺の知っている存在だった場合、その心配はないと思います。青い化け物と戦う際も手加減してたみたいですし」


「手加減?いや、物凄い勢いで襲い掛かっていってたぞ。」


「化け物に対してではないですよ。あれが本気で戦っていたら、皆さんは確実に巻き込まれて無事ではないです。なにしろ神獣です。災害に巻き込まれるようなものですよ。」


「なっ」


「尻尾が一本なのも手加減の証拠ですね。一本しかなかったのではなく、一本に見せていたのではないかと。その大きさで一本にしているのは普通の妖狐ができる芸当ではないです。」


本来妖狐にとって尻尾の数は己の強さの象徴だ。その象徴でもある尻尾を減らすなど普通の妖狐ならしないはずだ。ならば、その妖狐は強さへのこだわりがないのだろう。なにしろ既に敵などいないのだから。敵に襲い掛かった時も、化け物の方に意識が向いていなかったはずだ。敵ですらなかったのだろう。如何に周囲を巻き込まず、手っ取り早く片付けるかを考えてたはずだ。


「これが最も重要だと思うのだがその妖狐の住処は何処だ?」


「怠惰の森です。」


「!!」


驚いてるなぁ。執事の方は目を見開いているし、お嬢さんの方は息をのんでるなぁ。正直そこまで驚くようなことなのか、いまいち実感がない。


「一つ聞きたい。お前は誰だ。」


聞かれるとは思っていたが、そこまで警戒されるとはね。


「申し遅れました。私は怠惰領代表という事になっています。ナナシといいます。お見知りおきを。」


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