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怠惰な日常  作者: 帽子
14/35

第14話

ナナシ


「……」


夢見は最悪だった。長らく見てなかったあの夢をみた。目の前で友人が血をまき散らしながら倒れていくのを、何もできずにただ突っ立って見ているだけの夢。久しぶりに話したからだろうか。

あの後、べルさんは自分の部屋に帰っていき、俺もそのまま寝たんだった。長く話していた気がした。


(あれから5年か。まだ夢に見るとわね。どんだけ弱いんだか)


汗でぬれた肌着がまとわりつく。生活魔法である『クリーン』を服に使う。とりあえず肌着のまとわりつく気持ち悪さをなくすことができた。寝ぼけた頭を無理やり動かしながら、体を起こす。妖精は帰ってきていないようだ。恐らくカナンの所だろう。


トントン


「ナナシ様、おはようございます。朝食の準備が整いました。」


「はいはい、今出ますよ。」


ドアを開けるとエリカさんが立っていた。


「おはようございますナナシ様。朝食の時間になりましたので案内に参りました。」


「おはようエリカさん。今起きたばかりだから着替えてくるよ。少し待ってもらっていい」


「分かりました、手伝います。」


「うん、ごめんね。……なんて?」


このメイドさん、今さらりととんでもないことを言ってのけやしませんでしたか?危うく流すところだったぞ。


「いえ、ですから手伝いますと言ったのですが」


そんな、「何を当たり前のことを聞いているんだ」みたいな顔をされても……


「いや、大丈夫だよ。すぐ着替えていくから、そこで待っててくれれば。」


「いえ、ですから手伝いますと言ったのですが」


リピートしやがったよこのメイドさん。仕事に忠実なのは構わないんだが、融通が利かないところがあるなぁ。いやまて、もしかして他の連中はメイドに着替えさせてもらってるのか?


「えーと、エリカさん。他のメイドさんも同じようにそれぞれの主人の衣服を着替えさせてたりする?」


「いえ、他の方がどうしているのかは存じ上げません。以前の雇い主がそういう方だったので、そのようなものだと認識しているのですが」


あー、噂の貴族さんね。ジルさんの話してた人か。確か襲ったところ返り討ちにあったんだっけか。とりあえず誤解をといておくか。


「あの、エリカさん。俺はその雇い主ではないんで、着替えとか手伝うのはしなくていいですよ」


「わかりまた。それではお待ちしております。」


「ごめん、すこしまってて。」


急いで部屋に戻って着替える。寝間着からパーカーとジーンズに着替えて外に出る。エリカさんは待ってくれていた。


「申し訳ない。それじゃ行きましょうか。」


「はい。」


そう言ってエリカさんは前を歩いていく。ついて行けばいいんだろう。しかし何というか、2日目だというのに親しくなっている感じがしない。相変わらず表情が変わらないんだよな。とりあえずこのまま黙って歩き続けるというのは息が詰まってしまう。とりあえず朝食でも聞くか。


「そういえば今日の朝食は何なんですか?」


「マンドラゴラの炒め物と、サハギンの刺身です。」


「……」


忘れていた。魔族の食事を。何を食べているのかを。人族の大陸では珍しいマンドラゴラが魔族の大陸では普通に取れるのだ。取れるものが変われば当然食べるものもそれに合わされる。普通の料理も出てく来ないわけではないが、そういった人間には馴染みがない料理も出てくる。昨日は普通の料理が出てきたので油断していた。最初にドラゴンの肉が出てきて、ショックで食欲がなくなったんだよな。


「ひょっとして苦手な食べ物がありましたか?」


「あ、うん、大丈夫。好き嫌いはないから。」


ただマンドラゴラとサハギンを食べ物として認めづらいだけだ。不思議なことに味は良いんだよな。ま、慣れってやつか。たくましく生きていかないとな。


「こちらになります。」


扉を開けて中に入っていく。部屋の中央に大きなテーブルがある。既に何人か来ていた。ジルさんとアリスさんは対面に座っている。その横にはカナンとクロウが座っており、4人で話している。エリカさんはクロウの横まで歩いていき、横の席を引いてこちらを見ている。そこに座れという事なんだろうな。俺が席に着くと、エリカさんは一礼して部屋から出ていく。


「どうなんだな、ナナシ。少しは打ち解けられたんだな?」


「いや、全然だな。かなりの強敵だわ。まぁすぐに何とかできると思ってないし、ゆっくり打ち解けていければいいさ」


「ナナシなら大丈夫でしょう。妖精とも仲良くなれているんです。」


カナンがそう言って励ましてくれる。しかし流石カナンだな。エルフは妖精と会話ができる。早速昨日色々話したのだろう。そういえばあの妖精は見当たらないな。


「妖精はまだ寝てるのか?」


「えぇ、起こすのも可哀想ですしね。寝かせておきました。」


「そうか。そういえば今日はこれだけか?」


まだリリアとベルさんが来ていない。


「いや、ベルもリリアもメイドが起こしに行ったのだが、何分二人とも朝が弱くてな。全く起きる気配がないらしい。」


「そうですか。」


苦笑して話すジルさんを見て思い出したが、そういやベルさんは朝弱かったなぁ。俺も起こそうとしたことがあったが、寝相がひどいのでうかつに近づけなかった。何しろ一発でももらったら即入院レベルの大怪我につながるのだ。傍から見れば可愛らしいお嬢さんなんだが、中身は鬼だからな。おまけに寝ぼけていると一切手加減をしてくれないのだ。


「しかし、リリアもですか?意外ですね。」


「基本的にサキュバスは朝弱いからねぇ」


そう言いながら苦笑するアリスさんもサキュバスであるはずなんだが、個人差があるんだろうか。そう言って話していると食事が運ばれてくる。


「……」


来ちゃったよ。あまり考えないようにしていたんだが、魔界で出される料理って人間には余り馴染みのない食材が使われている事がある。ステーキの肉は基本ワイバーン等の肉が使われることがあるし、サラダも普通の野菜ではないことがある。味は悪くはなく、食べれないわけではないんだが、この複雑な気持ちは何なのだろうな。


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