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怠惰な日常  作者: 帽子
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第12話

ナナシ


クロウが上がった後、しばらく湯につかってから風呂を上がる。身支度を済ませ廊下へ出ると、エリカさんが立っていた。まさかずっと立っていたのだろうか。結構長風呂だったのでもしも待っていたのだとしたら申し訳ない事をしたと思うのだが。


「えーと、エリカさん。もしかしてずっと待ってました?」


「はい。湯加減はいかがでしたか?」


「あー、それはよかったよ。だけどすいません、待たせましたね。」


「いえ、ナナシ様が気にする必要はありません。私はナナシ様のメイドです。」


「あぁ、うん、そうですね…」


はぁ、慣れないとな。それに表情と声が硬いだけだ。こちらの事を気を使ってくれているのだ。後の問題はこちらの心境だ。ま、なんとかなるだろう。


「……」


自然と無言になる。案内してくれているエリカさんについていきながら城の中を改めて観察していく。柱や壁には装飾品が飾られている。窓からは綺麗な庭園が見える。通り過ぎるメイドからは頭を下げられる。何と言えばいいのか。人が住むと変わるものだと思う。以前は勇者を招くための城としての機能しか考えていなかったこともあり、人族がイメージする魔族の城を完全に再現した無駄のない、華やかさのかけらもない城でしかなかった。それがこうも変わるとは。建築の手伝いをさせられたからか、感慨深いものがある。そうこうしているうちに部屋の前まで着いた。


「今日はありがとう、エリカさん。また明日もよろしく。」


「…はい、明日もよろしくお願いします。」


あれ、少し戸惑っているように見えたんだがどうかしたのだろうか。


「ん、どうかした?」


「いえ、何でもありません。それではナナシ様、明日は8時ごろに朝食を予定されていますので呼びにまいります。ゆっくりお休みください。」


「うん、ありがとう。エリカさんもね。んじゃ、お休み。」


そう言ってドアを閉める。通路を通り、部屋に入ると


「お、上がってきおったか。待ってたぞ。」


ベランダに笑顔の鬼がいた。しかも人の煙管をふかしながら。


「人の部屋で勝手に何しているんです、ベルさん。」


「ああ、ちゃんとカギを貰ってきたからな。許可もジルのやつからもらっておるぞ。」


「はぁ、何をやっているんだ、あの人。」


「くふふ、まあそう言うな。」


「後、その煙管は俺のですよ。勝手に使わないでください。」


「何を言うておる。元々私が譲ったものだったろうに。」


確かにそうなんですけどね。


「しかしまだこれを使っておるとはの。譲ったかいがあった。」


「相棒から譲ってもらった大事な品なんですから。それは使い続けますよ」


「そうか、それは良かった。あれはできるようになったか?」


あれとは恐らく魔力遊びの事だろう。魔力をさも煙のように煙管からだし、その魔力を変化させて様々な模様を作るといった遊びだ。面白いのはイメージしたものを再現できることだ。口では説明しづらい事が実際の形として再現できるようになるのだから。まぁ、それにはとてつもなく魔力の量や技術が求められるのだが。


「ええ、できるようになりましたよ。」


実際それぐらいしか娯楽がなかったのだ。そりゃ上手くなる。今では色まで変えれるようになったほどだ。それにこれをやると妖精が喜ぶのだ。果物をイメージして作ってやると喜んで突っ込んだり、生き物をイメージするとその周りを飛び回ったりする。


「…そうか出来るようになったか。」


ベルさんは複雑そうにこちらを見ている。それはそうか。出来るようになったという事は、俺には魔力があるという事になるのだから。


「せっかくだから、あの時のように一緒にやりません」


「そうだな」


空気を明るくしようと提案する。昔よくしていた遊びだ。俺が即興で物語を語り、それに合わせてベルさんが魔力を操作してその通りの舞台を作り上げる。これが子供たちにとにかくうけたので、ときおり子供たち相手にやってあげていた。今回は、一緒にできるのだ。さて、どんな物語にするか…。


「そういえば妖精がいたと思うんですけど。」


「それならカナンと一緒に温泉に行っとるぞ。」


ベルさんが自分の煙管を取り出しながら答える。しかし流石エルフ。妖精との付き合いはお手の物か。


「で、今回は結局何の用だったんです?」


「言うたろう、話したいことが山ほどあると。」


確かに言ってましたけどね。


「今からですか?」


「無論だ。そんな面倒そうな顔をするな。散々心配させたのだ。少しは相棒に話てくれてももいいではないか」


「……」


そこを突かれると何も言えなくなる。心配させたし迷惑をかけたことも事実なのだから。仕方ない。諦めて話すことにするか。


「あ、そうそう。分かっておると思うが一切の誤魔化しは意味をなさんからな。」


ったく。考える前から釘を刺された。流石相棒さん、理解が深くて涙が出る。


「…分かってますよ。」


「間があったような気がするが、気にしないでおこうか」


そうしてください。お願いします。はぁ、相変わらずニコニコ笑顔なんだよな。こちらも付き合いが長いのでわかる。この笑顔の時は怒っている時の顔だ。もっと言えば爆発寸前の顔だ。怒りを押し殺している顔だ。やれやれ、これは一服しないと安らげないな。


「それで、どんな物語にするのだ」


お互いにベランダで対面に座り、煙管をふかしながら月夜を眺める。


「そうですね、題名は「あの日あの時何が起こったか」ですかね」


「む、それはあまり面白くはなさそうだの。聞きたかったことではあるが。」


「先に即興物語でもやってからにしますか?」


「いや、先に面倒事は済ませてしまおう。」


「そうですね。それじゃぁ、面倒事はさっさと終わらせましょうか」







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