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ページ8

ギルドで働き始めて一か月が経過した。俺は充実した生活をおくっている。些か劇的さに欠けるが、仕方ないだろう。ギルドでの仕事は基本的に掃除が多かった、読み書き計算が出来るので経理の手伝いをしたりと意外と忙しい。


すぐにでも冒険者になりたかったのだが、如何せん年齢制限のお蔭でなれなかったんだ。15歳以上のしかも学校の卒業資格を持つ者で、レベル5以上の魔法属性を2つを所持し、レベル5以上の戦闘系スキルを2つ以上所持していなければ冒険者登録ができないのだ。要は馬鹿の運動音痴は冒険者になれない。テリアは何故冒険者になれたのか疑問だが、そういった決りがある。


「レッド君、そこの掃除が終わったら上がっていいわよ~」


「はいっ」


忙しいながらもギルドで働くメリットはたくさんあった。掃除しながら冒険者たちの話を盗み聞きできて情報は集められる。街で腕のいい鍛冶師はどこどこの店だとか、魔法道具はあのばあさん製がいいんだとか、あの冒険者と組んだらいい感じに連携がとれただとか、モンスターの倒し方とかなど、実際に戦っている冒険者の話はためになるものばかりだ。


俺は仕事上がると、ギルドの地下へとダッシュする。


地下にある訓練闘技場に顔を出せば、冒険者たちの訓練を観察できる。俺にとってはこれが一番僥倖だった。なにより魔法の練習も見せて貰えたんだ。中には世話焼きな冒険者もいて、俺に直接稽古をつけてくれたり、魔法の説明をしてくれたりする。おかげで魔法属性やスキルを一か月でたくさん習得できた。


魔水晶でスキル確認をするには、ギルド所属の冒険者ならば無償で行われている。俺もギルドの職員ということで無償でやらせてもらった。


【魔法属性】火詠唱2、水詠唱1、土詠唱1、風詠唱1、光詠唱、火魔方陣2、光魔方陣1

【スキル】思考10、記憶10、学習10、探究10、算術10、短剣4、長剣2、槍1、盾1、拳術1、蹴術1、望遠3、跳躍3、歩術3、騎乗1

【称号】-

【加護】—


【魔法属性】に偏りがあるのは、冒険者で覚えている魔法属性に偏りがあったからだ。魔法を主体とする冒険者の多くは火力に注視しているのか、【火詠唱】や【火魔方陣】を治めている場合がほとんどだった。長期の仕事をこなすのにの飲み水があると便利だから、【水詠唱】を覚えておいたりと、他の【魔法属性】に関しては詳しく教われなかったのが残念だ。


詠唱と魔方陣の違いについて、教わることができたと思えば僥倖だろう。どちらも魔力を魔法に変える手段でしかない。詠唱は、自分の保有する魔力を言葉にのせて魔法に変換する。魔方陣は、魔力を保有するモノから魔力を文字や陣によって魔法に変換する。どちらもメリットデメリットがあり、どっちがいいかどうかは使い方次第なのだ。


そして、【スキル】は、めきめきと吸収していると自負できる。冒険者たちには全く歯が立たないが、技は粗方覚えた。もしかしたら【学習10】のお蔭かもしれない。もともと格闘技が大好きだった俺は、魔法よりもこちらの方が伸びた。


「お、今日も来たか小僧! どれ、木剣もってこいっ」


「うす!」


てな感じで、冒険者たちは夢見る小僧に意外と優しい。稽古をつけてくれる。一か月も訓練闘技場に顔を出し続ければ、顔を覚えてもらえた。意欲があるところを見せると、皆喜んで訓練に参加させてくれたんだ。流派とかそんなものよりも、実戦で培った冒険者たちのモンスターを倒すのに合理的な剣術武術は、俺にとって新鮮だった。


「軽すぎる! もっと全体重を剣の切っ先に集めるように全力で振り払え!」


「はい!」


前世の剣術武術がいかに対人のものであったかを思い知らされた。モンスターを倒すのに必要なのは一撃の重さであって、技ではない。身体が8歳にしては小さい俺は、気が付くとどっしり足を地に下して戦うスタイルは消え去り、曲芸のように飛び回って剣を振るうようになっている。ジャンプして空中で前転し、その勢いを使って、剣に重みを付けたりといろいろ工夫している。しかしそんな一撃も、冒険者にとっては軽いのか片手で簡単に弾かれてしまった。しかも弾かれた衝撃で、俺は体ごと訓練所の端まで吹き飛ばされた。空中で体勢を立て直したので、ダメージは無い。


「一撃離脱にはいいかもしれんが、軽すぎるって言ってんだろ! もっと加速しろ! 質量がなくても速度が早ければ、剣の威力は上がる!」


「はい!」


意外と合理的なところに最初は驚いたりしていた。簡単に説明すると、高校でも習う物理で理解できるだろう。実際はもっといろいろな要素があるが・・・ F=ma 力=質量×加速度 運動方程式だ。質量mは剣の重さと俺の体重だ。加速度aは加速後の速度—加速前の速度を時間で割ったもので、かなり省いて説明すると、動き出しよりも動き終わりの速度が早ければ早いほど加速度上がる。要はスピードが上がれば上がるほど、質量が一定(剣の重さ+体重)の重さでも威力は上がるってことになる。冒険者たちはそれを感覚で分かっているんだ。


訓練が終われば俺は疲れ果ててボロボロになる。冒険者たちは稽古をつけてくれる分、容赦がない。小僧だろうが関係なしだ。優しさゆえの厳しさというやつだろう。全身が筋肉痛みたいにビキビキする。


そんな体を引きずって、ギルド職員が住まう寮へと帰る。まあアレだ。部屋は一人部屋じゃないんだ。ロルル姉様と同居であります。始めはタイプでドストライクの美女と一緒に住めることに喜んでいたが、外面と内面は比例しないことを思い知った。掃除洗濯炊事といった家事は全て俺の仕事となっている。


確かにギルドで働かせてもらった恩はあるかもしれないが、これはないだろう。部屋のドアを開けて俺は今朝掃除したばかりの部屋に脱ぎ散らかされた服や読み散らかされた如何わしいエロ本に卒倒する。女性が小僧とはいえ男性に隠れもせずにエロ本を読みっぱなしで放置していく神経が理解できない。


天は二物を与えずとはこのことかもしれないな。ロルル姉様はもう結婚適齢であるというのに、いままで彼氏はいても長続きしなかったようで。禁句なのでこのへんにしておこう。


姉様と呼んでいるのは、俺がギルド職員になる際にロルル姉様の従弟ということになったからだ。でなければ職員になる許可が下りないらしい。


「あら? 帰ってきたらならただいまぐらい言いなさいよー」


火魔方陣の描かれた絨毯の上でロルル姉様がゴロゴロしていた。ホットカーペットみたいにあたたかくていつまでも転がっていたくなる気持ちは分からんでもない。


「ただいま。姉様、夕飯は?」


「あ、そのことなんだけど。 テリアからレッド君も一緒にって誘われたんだけど、行く? いかなきゃ後でテリアが五月蠅いわよ?」


「・・・行きます。 でもその前にシャワーを浴びさてもいい?」


「一緒にはいろっか~?」


そう言うとロルル姉様の猫尾が嬉しそうにゆらゆらと揺れる。ラフな部屋着で、すらりと伸びた生脚が美しい。小僧の純情をもてあそび、微笑む黒髪長髪の美女に俺はドキリとした。ほんとにズボラじゃなければ、外見はドストライクなのに。



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