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「こ これは拾ったんだ! かっこいいだろっ!」
武器に興味がある小僧役を演じきった俺に拍手。手に持っていたナイフをどうだ凄いだろう!と笑顔で掲げた。そして小僧ならではの自分のもの宣言だ。俺の宝物なんだ自慢で、何とかやり過ごすことに成功。テリアは訝しんだ目をしていたが、納得してくれたようだ。ナイフが原生林に落ちているとは思えないがな。
「でも危ないから没収ね」
ニッコリと笑ったテリアは美しかった。その美しさに見とれている間に、ナイフを奪われてしまった。緑の先住民の動きはスローモーションに見えたはずなのに、テリアの手の動きは捕捉できなかったのだ。見とれていた所為もあるが、ありえない速度で動いたようにも感じたのだ。
「返せよー!」
だが、小僧の演技は忘れない。反吐が出そうだが、本性を出すわけにはいかないのだ。あー。一服したい。ストレスが尋常じゃないぞ。
「此処も安全じゃないし、ノートにもどろっか?」
テリアもテリアで人の話を聞かないタイプなのか否か。ナイフをはち切れそうな胸の間にしまうと俺に手を差し出してきた。馬のような生物に跨るのだろう。俺は素直にその手を握った。
シュナイダーというらしい。騎乗は最高だ。草原を颯爽と駆けるシュナイダー、風が草原の心の安らぐ匂いと、テリアの女性ならではの男を興奮させる良い匂いがする。俺はテリアの後ろにしがみ付くようにシュナイダーに跨っているのだ。小僧の役得だろう。テリアのくびれの細さと半獣半人であるテリアの茶色のフサフサの尻尾を堪能した。雑談という事情聴取を受けながらだが…
その事情聴取も俺にとってはこの世界の情報を集めるいい機会だった。原生林に囲まれたノートの街は、開拓地のようなものらしい。人口があまり多くない、テリアは俺が見知った顔では無くて心配してくれたようだ。原生林には魔物と呼ばれる化け物がうようよしているんだとか。ノートの街はそんな魔物から人々を守るために石壁で囲われている。テリアのような冒険者は、街の周囲の魔物を退治撃退しているんだとか。特に最近できたばかりのノートは周りにも魔物が多く、それを倒すことを生業にした冒険者が多く集まっているようだ。テリアもその一人らしい。魔物を倒す勇ましい姿に憧れる小僧が多いようで、テリアから見た俺はそう見えているのだろう。
やはり魔法がこの世界でキーになるようだ。シュナイダーも魔物の一種だが、とある魔法を使うことでパートナーに出来るんだとか。きっとあの巨体で重たそうなドラゴンが空を飛ぶのに魔法を使っているのだろう。ためしに、テリアに魔法を見せてほしいと小僧の演技をしながら駄々をこねると、風を起こす魔法を実演してくれた。テリアが呪文を唱えると、シュナイダーの移動速度は上がっていないのに、身体に当たる風が強くなった。
だいたい聞きだした情報で今後の目標が立てられる。ノートには子供を預かる孤児院のような施設は無いだろう。こんな小僧一人では生きていけないのは目に見えている。パトロンという言い方は少しおかしいが、成人手前まで養ってもらう人を見つけるべきだろう。嬉しいことに頭脳レベルは俺であって、その辺の小僧じゃない。計算が出来る分、雇用は何処にでもあるだろう。
生活が安定してきたら、魔法を何としても覚えよう。テリアが見せてくれた風を起こす魔法ですら使い勝手がいい。第二目標は魔法だ。
最後に職業だが、冒険者がいいだろう。強く名の知れた冒険者はヒーローなのだから! たとえ死がリスクとなる危険な職種だが、俺が望んだ劇的な人生そのものだろう。これ以外に道はない。
「さあ、着いたよ。 街の中ではシュナイダーに騎乗できないから、降りようね?」
「はーい」
考え込んでいたらいつの間にかノートの街中にいた。その町並みは江戸時代の日本のようなところだった。街自体は石壁で覆われていて、外から見るとコロッセオのようにも見えたのだが・・・ 街中の家々には瓦がきれいに並べられ平屋が多い。出店屋台が街の中心にまで続き、その中心にはタージマハルのような建物が良くめだっていた。 道は平らにされた岩で舗装され、道端には水路があった。そして何より、武器や防具で武装した人々が行き交っている。
過去の地球では交錯することのない技術が混ざり合っている。非常に興味深い。石や岩を加工する技術もあれば、瓦を焼くような登り窯等の技術もあり、彫刻造形の繊細さもタージマハルのような塔を見せば分かる。どこまで魔法がこの世界の進歩に影響を与えているのか、暇があれば是非調査してみたいものだ。
先に降りたテリアが差し出してくれた手を握ってシュナイダーから飛び降りる。ここまで情報をくれてありがとうと内心で思いつつ、テリアにペコリとお辞儀した。
「ギルドに行くけど、一緒に行こっか? レッドくん・・・ 此処の街の子じゃないでしょ?」
「うっ!?」
完全に見抜かれていました。おかしいな、演技にミスは無かったはずだが・・・ テリアも馬鹿じゃないんだろう、事情聴衆しているのに俺ばっか質問していたらバレるか。
「最初から分かってたけどね。 ふふ」
テリアさん笑顔とお胸が美しすぎです。優しく後ろから抱きしめられた俺は何の抵抗もできなかった。いや、する気もない。こんな幸せ固めを抜け出す男は三千世界のどこにもいないと断言できる。半ば連行されるように俺はテリアと共に冒険者ギルドへと向かうこととなった。場所はあのタージマハル的な塔が冒険者ギルドらしい。それまでこの幸せ固めを堪能するとしよう。