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木の上で周りの状況を確認していると、辺りに影が差した。分厚い雲が光を遮ったのかと思い上を見上げる。つい思ったことをそのまま口に出してしまった。
「おぉ! かっこいいじゃん」
前世では絶対に存在しない生物が大空を我が物顔で飛んでいたのだ。そいつの大きさは俺がちっぽけに見えるほど大きい。ジャンボジェット機並みの巨体で、腹以外の全身が鱗で覆われていた。デフォルトは蛇だと思うがより洗練され知性も感じさせる顔に、曇りのない鋭い牙、角、爪の光沢。鱗の一枚一枚が日光を反射してその存在を隠そうともしない。この原生林の生態系の頂点に存在するのだろう。
獰猛は瞳が一瞬だけ俺に向いたような気がした。緑の先住民と睨み合っても全く感じなかった恐怖が俺の全身を駆け巡る。俺は逃げるように、ドラゴンに姿が見えない木の下へと非難した。
「あれはヤバい」
動物園でライオンや虎と目が合ってもなんとも思わない、むしろ目が合ったりすると嬉しくなった。しかし、ドラゴンは別格だった。たとえ檻の中に入っていたとしても恐怖に襲われるだろう。あの漆黒の瞳からの眼差しは並大抵の猛者であれ耐えれるものじゃないだろう。
それにしても、あの巨体がエンジンも無しに飛んでいるのに疑問に思った。ジャンボジェット機よりも大きい巨体で、飛ぶための身体をしているようにも見えなかった。鳥や昆虫は飛ぶために体が軽くなっている。鳥は骨がスカスカだし、羽をむしりとると対して大きくない。昆虫に関しては体内が空洞だったりする。セミなんて空っぽだ。
ジャンボジェット機であれ、意外と軽い。ジャンボジェット機を全長1mくらいに縮小してみたら518gになる。さらに全長10cmまで縮小すれば、重さは0.518gとな。これは同じサイズの折り紙の紙飛行機よりも軽いのだ。そう思うとあのドラゴンが流線型でもなければ、全身を赤い鱗が覆っている。上昇気流に乗っているとしてもあの巨体をどう浮かしているのか全く推測が付かない。どうやって飛んでいるのか是非とも知りたくなった。機会があればドラゴンを分析したいものだ。
「兎にも角にも、一番近くの街らしきところへ行くのが目的だな」
木の上から一番近場に見えた街へと向かって歩き出した。シダ系の植物が生え茂る原生林をナイフを振り回しながら進み、30分おきぐらいに木に登って進む方角が間違っていないかを確認する。その際にドラゴンに見つからない様に注意しながらだ。ドラゴンはどこかに降り立ったのか、その姿は見つからなかった。
「街まであと少しか・・・ それにしても石壁なんて初めて見たな」
前世では海外旅行をほとんどしたことが無く、西洋の古代建造物のような石壁を見たのだ。重機も無さそうなこの世界でどうやって、遠くから見ても10mの高さはある石を積み上げたのか謎だった。古代エジプトのピラミッドと同じだ。人力でやるにしてもどれほどの労力が必要となるのか。そんなことを考えながら原生林の草木をナイフで切り落として進んで行った。
しばらくすると原生林を抜けて平野のようなところに出られた。原生林を抜けた訳では無く、原生林の中にぽっかり平野がある様な感じだ。芝生に酷似した草が街まで続いている。どうやら街の人々が整備したのだろう。
ここで俺は初めての人間と言える存在をこの世界で発見することができた。街から伸びる整備された街道を馬のような四足歩行の生き物に跨った戦士の格好をした女性だった。嬉しくなった俺はつい声を出して手を振ってしまった。
「おーい! はじめましてだー!」
戦士の格好をした女性は俺に気が付いたのか、乗っている馬のような生き物の進行方向をこちらへと変えて近づいてくる。遠めだったので良く見えなかったが、近づくたびに女性の容姿が分かる。どうも此処は完全に地球ではないようだ。なんと近づいてくる女性の頭に犬らしきものの耳とお尻のあたりにシッポを生やしていたのだ。
「マジか。。。 半獣半人?」
ただその女性は途轍もなく美人だった。犬らしき耳や尻尾が生えていようが、美人には変わりない。茶色い長めの髪をポニーテールで襟足あたりで結っていて揺れている。顔も小柄で少し釣り目だがブラウンの瞳に吸い込まれそうだった。加えて戦士のような装備で押さえられているにもかかわらずはち切れてしまいそうな胸に、スキニーのようなピッタリとしたパンツが女性の美脚を際立てていた。是非とも一夜を共にしたいものだ。
「ん? 見ない顔ね。君は何処から来たのかな?」
ボーっと彼女に見とれていた俺は声をかけられて我に戻った。そして彼女の優しいというか小さい子供に対応するような物腰に狼狽えてしまった。
「え? あ! えーと 森の奥?」
そう返すと彼女は馬のような生き物から降りて、クスリと笑った。
そして俺はこの時気付いてしまった。馬?から降りた彼女の年齢は顔や乳で判断すると10代後半から二十代前半だ。そして身長なのだが普通か逸れよ高いくらいだろう。
そう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺は予想以上に縮んでいたようだ。近よってきた彼女の半分ほどしか身長が無かったのだ。彼女を見上げると双子山の絶景がありガッツポーズ仕掛けた所で彼女から声がかかる。俺に目線を合わせるようにしゃがむと、ブラウンの瞳に俺が映っていた。良くは見えなかったが推定5歳児程度の小僧だった。
「危ないから街から出てはいけないよ? 名前はなんて言うのかな?」
ニコニコと優しく言われた俺は負けた。子供のふりをしよう。ここで元おっさんなんだと明かすわけにもいかないしな。
「——っ!?」
前世の名前を応えようとしたが、それが全く思い出せなかった。嘘だ。思い出せない。顔も記憶もあるのに名前だけが出てこなかった。