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【風魔方陣2】の魔方陣を展開し終わり、平原の視界では捕えられない範囲まで魔方陣が広がっていったのが感覚的に分かる。発動する魔法名は、【狂気のそよ風】という。地面に突き刺した短剣を通して必要分の魔力をながすと、魔物が興奮する血の臭いに模した香りが辺り一面に広がっていった。
「うっ ・・・くさい」
魔方陣の中心にいれば魔法の効果は無いはずだが、風を全て制御できてなかったのかもしれない。鬼族の血が混じったアルナが俺の横で体育座りしながら鼻にハンカチを当てていた。確かにあまりい匂いではないと思う。全力疾走した後に口に広がる嫌な臭いと似ていた。
「ごめんアルナ。 すぐ終わるから」
「分かってる。でも早くしてくれないと、なんか変な気持になってくる」
「・・・」
やはり少なからずアルナには、【狂気のそよ風】が効いているのかもしれない。魔物が寄ってきて狂うのはウェルカムだが、アルナに暴れられては困る。はやく集まってこい魔物ども!
しばらくすると、俺とアルナを囲む景色が一変した。緑色ののどかな草原の風景がもはやどこにもない。見渡す限り魔物、魔物、魔物。緑の先住民が6割、顔面豚人間が2割、赤色の鬼が1割、その他1割といった感じでうじゃうじゃと奇声をあげてこちらに向かってきている。
「おおー こりゃ大量だな!」
「ざっと見で、1000は軽く超えてるけど・・・ レッド、大丈夫なの?」
俺としてはもっと増えてくれても全くかまわないんだが、流石にこの大群にアルナが少し心配そうな顔をしてした。俺の服の袖を掴んでくる。
「ビビってんのかアルナ?」
「ビビってない!」
「まあ見とけって! ヴォル直伝の炎魔法で灰も残さないで蹴散らしてやるからさ。 ふふふ、昼夜問わず襲い掛かってきたことを地獄で後悔させてやる!」
バーニングGホイホイverモンスターズ。とか勝手に名づけて見てからタイミングを窺う。ヴォルに教わった【炎魔方陣1】の効果範囲は半径一キロ。その効果範囲にどれだけの魔物を集められるかが問題だ。ギリギリまで魔物を引き寄せてから発動しなければならない。そのためにはタイミングが重要だ。発動が早すぎたら影響下に無かった魔物が、炎に怯えて逃げてしまうかもしれないからだ。
「ねぇ! もういいんじゃない?」
「あと少しだ」
周囲を見渡すと、魔物共はかなり近くまで接近していた。10メートルぐらい先で緑の先住民共が興奮して駈け出してきた。手に持ったお粗末な剣のような棒のような武器を振り回して俺たちへと迫りくる。それを見た他の魔物もまた同じように目を血走らせて駈け出した。
「今だ! 苦しんで死ね!」
最大量の魔力を短剣を通して展開していた魔方陣へと流す。炎魔法【燃え盛る有刺鉄線】を発動した。途端に半径一キロ内にいた大量の魔物たちが呻き声をあげた。魔力が流されて煌めいた魔方陣から、熱せられ赤くなった有刺鉄線が一斉に魔物たちに絡みついたのだ。まるで蛇が獲物に巻きつくようにうねうねと蠢き、魔物たちを縛る。有刺鉄線は魔物の皮膚を焼き焦がしならが、その肉へと棘をくい込ませる。じわりじわりと締め付けられながら皮膚を焼き焦がされていく魔物は堪らず暴れるが、暴れれば暴れるほど【燃え盛る有刺鉄線】は絡みつき更なる苦痛を与えるのだった。
「・・・」
アルナが隣で絶句していたのに気が付かず、俺はどんどん短剣を通じて魔方陣へと魔力を流していた。最初に発動していた【狂気のそよ風】への魔力を送るのをやめて、さらにその分の魔力を【燃え盛る有刺鉄線】に使い、連日の溜まったフラストレーションを解消していった。
一時間ほどすると魔物たちの叫喚が聞こえなくなり、ブスブスと肉を焦がし過ぎた時の音と、バーベキューした時の美味しそうな匂いが辺りに充満していた。【燃え盛る有刺鉄線】への魔力を流すのをやめると、ワイヤーで縛り焦がされていた大量の魔物の焼け炭がボロボロと崩れ去った。灰も残さず焼き殺したかったのだが、緑色の草原が、黒色の灰土へと景色が変貌していることについては聞かないでくれ。
真っ黒になった平原のなかにポツリポツリと淡く輝く石が落ちていた。すぐ近くにも落ちていたので拾って見ると、濃い紫色に淡く光るツヤツヤの石だった。
「なにこれ? 宝石か?」
「うぇ!!!!!!!? 魔石! それ魔石だよっ」
戦闘が物足りなかったのと、魔物がじわじわと焼き漕げる恐怖映像を見てテンションが下がり気味だったアルナが飛びついてきた。
「そんなに良いモノなのか?」
「うん! とっても高く売れるし、魔方陣の魔力の代用できるんだよ!」
どうも魔石というのはかなり希少で有用なものらしい。入手するのも困難で魔境のにある鉱山から採掘してくるか、ダン?なんだっけ? 迷路みたいなとこの宝箱にごくたまに入ってるか、今回俺がやったみたいに魔物を倒したらかなり低い確率で手に入れられるかもしれないか、兎にも角にも高級品らしい。有用である理由は、魔石自体がかなりの魔力を保有しているようで、魔力を代償できる。自分自身の魔力を温存できる。また魔力を待たなくて魔法を使えない人でも魔石を使えば、魔法が使えるようになるんだとか。
そんな高価な魔石が、魔物を倒した量が多かったせいもあるが、そこいらに転がっているのだ。アルナがピョンピョンと嬉しそうにスキップしながら回収していた。ニコニコと笑顔のアルナはとても可愛い。返り血さえ浴びてなければな・・・
ガアアアアアアアアア!
落雷のような怒号が俺たちの頭上で響き渡ったのは、魔石を回収し終えた時だった。見上げるとそこには、全長3メートルくらいの四足のまるで獅子のような胴体をもった鷹が背中の大きな翼を広げ、怒り狂っていたのだった。
「アルナ! あいつ乗れるかな! 飼えるかな!」
あまりのかっこよさに俺は四足の鷹を欲しいと思ったんだ。アルナから返事が無いのでそっちをみると、イヴ・ジャバボックが現れた時のように腰が砕けて座り込んでしまっていた。どうも四足の鷹は申し分ないほどの魔物だと理解できた。それに俺の見立てでは、アイツには騎乗できる。・・・俺の相方にするには最適じゃないか!




