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創造神の嫁探し  作者: 下手の横好き


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アリア編、その2

カーテンを通してぼんやりと漏れる朝日と、立ち込める絵の具の匂いに包まれた、8畳くらいの小さな部屋。

1つしかないベットの反対側には、描きかけの絵が架けられたイーゼル、その傍にはテーブルとイスが1つずつ。

入り口とは別の扉を開けると、地球の西洋式に似たバスタブとトイレ。

魔法が発達した世界だけあって、上水道はともかく、下水道だけはきちんと整備されているようだ。

換気扇の代わりにある小窓は開け放たれ、昨夜の湯で湿った部屋を、カビから防いでいる。


 あれから、ギルドで薬草を換金したアリアは、和也を部屋に招き入れ、頂き物の上質なパンと、何かの玉子、燻製肉、野菜を用いた簡単な食事を出してくれた。

電気やガスといった、近代的な生活には欠かせない便利なものが未だ使われていないこの世界では、特に都市部において個人の家で頻繁に料理をする習慣はなく、大抵は、店で何かを買って帰ったり、外食で済ませたりする。

朝早い家庭では、夕食を食べない家も多かった。

1つしかない椅子の代わりに、ベットに座ることを許された和也が、有難く食事を頂く様子を見ながら、『美味しい?』と微笑む彼女は、何だかとても嬉しそうだった。

お風呂も、大変だから毎日は湯を張らないそうだが、和也のために、わざわざ魔法で水を張り、炎の魔法で沸かしてくれようとした。

だが、流石にそこは和也が手を貸す。

ただでさえ、昼間の戦闘で彼女の魔力は減少している。

無理をさせれば、数日は影響が出かねない。

風呂場に僅かに残っていた汚れとカビを浄化し、ピカピカにした浴槽に、たっぷりの湯を張って、先にアリアを入れる。

遠慮する彼女を、『湯など何度でも入れ替えられるから』と言い含め、見当たらなかったシャンプーを渡して背中を押す。

覗かれる心配などまるでしていない彼女が、湯上り後にまた汗をかかないように部屋の温度を調整した後、和也は描きかけの絵に目を向ける。

昼間訪れた店を描いた物だろう。

夜の店内に、大勢の客と、それを相手に働く女性達が描かれている。

ルノアールなどの印象派のタッチに似たその絵は、和也が見ても、なかなかのものだと思う。

有紗が管理する、地球のマンションの一室にでも飾りたいくらいだ。

部屋の隅に散見する埃や、壁や床の汚れなんかを浄化しながら待っていると、程無く上機嫌のアリアがバスローブ姿で浴室から出てきて、目を丸くする。

その素材本来の美しさを取り戻した室内は、ランプの明かりの中で、輝いて見えたから。

入れ替わりに風呂に入った和也が満足して出てくると、絵を描いていたアリアは絵筆を置き、『そろそろ寝る?』、と尋ねてくる。

頷くと、ローブを脱ぎ捨て、下着だけの姿で、先にベットに潜り込む彼女。

自分は床で寝るぞと告げた和也に、『襲わないなら入ってよ』と強く主張してきたので、狭いベットの半分を借りることにする。

背を向けて寝ようとした和也の肩を引き倒し、仰向けにしてから、その胸を枕に、眠りに就くアリア。

自分に負けた後、何らかの心境の変化があったのか、初めの頃とは随分印象が違って見える。

力に固執するようには思えないから、多分、他に理由があるのだろう。

森からの帰り道、聴かれるままに、妻達のことや、どういう育ち方をしてきたかなど、当たり障りの無い部分だけ、話して聞かせた。

長く孤独に苦しんできたと言った時、そっと目を伏せたから、恐らく、そんなところに同情してくれたのかもしれない。


 「おはよう」


和也が目を覚ました途端、耳元で待ちかねたような声がする。

視線だけをそちらに向けると、振り向けば唇が触れ合いそうな位置で、大き目の瞳がこちらを見ている。


「あら残念」


まるで周到に計画した悪戯が失敗した時のような言葉を漏らし、アリアがベットから上半身を起こす。

大分明るくなった室内で、う~んと伸びをする彼女。

まだ横になっていた和也の視界に、下着に包まれた、豊満な胸が揺れ動く様が映る。

視線を感じてそちらに目をやると、彼女がニヤニヤしながらこちらを見ていた。


「気になる?」


「べつに」


正直、プロテクトが最大でなかったら、危うく凝視していたかもしれない。


「本当に襲ってこなかったね。

ちょっとだけ、自信を失っちゃった。

あなたの奥さん達、よっぽど綺麗なんだね」


「女性の美しさは、外見だけではないぞ。

仕草、振舞い、考え方、話し方。

いろいろな要素が絡み合って、その人特有の美を形作る。

1人として全く同じ存在がいないから、そこに固有の美が生まれるのだ」


「うわ、何か優等生的な発言ですな。

そんなこと言ってても、実際、大きな胸が好きなんでしょ?

奥さん達、皆大きいって、昨日聴いたもんね」


「女性の美しさと、自分の好みは、時に異なることもある。

君だって、惚れた男ができれば、痘痕も(えくぼ)かもしれないぞ」


「それは心配ないかな」


和也(ひと)の顔を見て、そんなことを言ってくる。


「さて、もう起きようよ。

朝ご飯食べて、早めに動かないと」


ベットから出て、洗面所に行くアリア。

そういえば、今日はこちらの予定に付き合ってくれると言ってたな。

昨日のことを思い出す。

ギルドで薬草を換金する際、摘んだ薬草を全てアリアの物として換金したら、それは駄目だと少し彼女と揉めた。

大人2人が2時間摘んでも、銀貨2枚にすらならない。

これでは彼女も生活が大変だろう、そう考えて自分は辞退したのだが、彼女に言わせると、薬草はついでで、顔料探しがメインだったという。

その顔料が、あなたのお陰で沢山取れたのだから(彼女には内緒で、近隣の川からも、似たような物を転移させた)、むしろ薬草はあなたが全部受け取るべきだと。

少し面倒に感じたので、それなら明日、自分の仕事を手伝って欲しい、そう告げたら、渋々お金を受け取ってくれた。

『無一文のくせに、欲がないのね。まあ、あれだけの腕があれば、すぐに稼げるか』

ちょっとだけ、失礼なことを言われた気がする。

その帰り際、生活費は大丈夫なのかと尋ねたら、『私の主な収入源は、労働系の依頼。何処かの店で、半日くらい店員をすれば、銀貨3枚くらいにはなるから。それに、お土産までくれるしね』と微笑まれた。

家賃はどうしてると重ねて聴くと、『ご贔屓さんに、週に1度のお茶会への参加を条件に、只で貸してもらってるの』と、これまた苦笑された。

美しいということは、それだけで才能なのだな。

和也はこの時、呑気にそう考えていた。



 「君にお願いがある」


「幾ら貸せばいいの?」


「・・違う」


「冗談よ。

で、何?」


朝食の後、今後のことについて話をしようとした和也に、アリアが真面目な表情を作りながら、そう口にする。


「・・君は口が堅い方か?」


「喧嘩売ってるの?

私がそんなお喋りに見える?」


「そう怒るな。

念のため確認しただけだ。

もう1つ尋ねるが、君が今やっている仕事は、今後も君にとって不可欠なものなのだろうか?」


「どういう意味?」


「その仕事でないと駄目なのかと聴いている」


「私は非力だから、討伐系の依頼は受けられないし、好きな人以外と群れるのは嫌だから、チームにも入らない。

店員など労働系の仕事をしてるのはその結果であって、他にもっといい仕事があれば、そちらを選ぶわよ?」


「因みに生活費は、家賃を除いて月にどのくらい欲しい?」


「・・そうねえ、少なくとも銀貨40枚くらいは必要かな」


「身の安全が保障されて、美味しい食事と広くて清潔な個室が与えられれば、共同生活をするのに躊躇いはないだろうか?」


「一体何の質問?

一緒に住む相手と家賃次第だけど、そんな所があれば、是非お願いしたいわね」


「・・実は、先着1名様に限り、今の条件で助手を募集している」


「誰が?」


「自分が」


「奥さん達におねだりでもするつもり?

本当によくできた奥さん達よね。

・・そんなに夜が上手なの?」


「君の履歴書に、性に興味津津と付け加えておこう」


「本気で殴るわよ?」


「・・それで、どうだろうか?」


「住む所と食事があれば、給料は暫く待ってあげるから、奥さん達に頼るのは止めて、あなたがきちんと稼いだお金を頂戴。

同居する相手は、あなただけ。

もし増える場合は、ちゃんと私の許可を取って。

それでいいなら、お願いするわ」


「勿論自分で稼ぐつもりだが、それだけでいいのか?」


「何で?」


「君は結構人気者みたいだから、もっと要求が高いのかと」


「あのねえ、私、自分の部屋に誰かを泊めたの初めてなの。

なのに、あんなくだらない賭けに負けたくらいで、あなたを迎え入れた理由をもっと考えてよね?

でも、今何となく分かっちゃった。

あなたに奥さんが多い理由。

できる女性程、あなたのような男性に、何かしてあげたくなるのかも。

自分がいなくちゃこの人は駄目、みたいな・・きっとそんな理由なのね」


「・・・」


「これからよろしくね」


アリアが微笑みながら差し出してきた右手を、和也はしっかりと握りしめた。




 「確かこの辺りだな」


ごつごつした岩がむき出しになって散在する山脈地帯。

キンダルのあるビストー王国の国境付近に、一際険しい山が聳える。

火山でもないのに硫黄の臭いが周囲に立ち込めるのは、この山に棲みついた巨竜のせいだ。

『魔竜ガルベイル』

太古に栄えた魔術師の時代から生存していると言われ、大陸最強の一角とも言われている。

その被害に苦しむ周辺の国々は、挙って討伐隊を差し向けたが、ただでさえ並みの魔法や剣では傷も付かない鱗に覆われている上、空を飛んで山すら崩すブレスを吐かれては、手の打ちようがなかった。

なので、和也が見た際も、ギルドの掲示板の1番上で、その依頼書は、時の経過による黄ばみを帯びていた。


「ねえ、一応聴くけど、ここに何しに来たの?」


私は敢えてそう尋ねる。

あの後彼は、『では出発しよう』と一言だけ呟いて、私の腰に腕を回すと、いきなり転移した。

魔術が発達したこの世界でも、転移を使える者は極限られるし、自分以外の存在を同時に転移できる人間は、ほんの一握りしか存在しない。

しかもその距離。

私の家からここまで、馬を走らせても、優に20日以上かかる。

こんな距離を飛べるなんて、聞いたことがないし、有り得ない。

人にはそれぞれ魔力量というものがあり、太古の大魔術師達でさえ、せいぜい馬で5日分程度の距離しか飛べなかったと言われている。

なのに、彼は私を抱えてここまで飛んできた。

おまけに、恐らく初めての場所に。

転移する際、普通はその目的となる場所に、自分の魔力を用いて予め何かを残しておく。

最も一般的なのは魔法陣だが、そこから移動しないものなら、べつに小石でも何でもいい。

そうしないと、転移先を正確にイメージできずに、最悪海に落ちたり、何処かの森で迷ったりする。

空間の無い場所や、自分より魔力が強い所には転移できないから、岩の中とかに入り込む恐れはないが、誰かの家にいきなり現れて、トラブルにもなりかねない。

転移による不法侵入は、死罪を含む厳罰の対象になるので、まともな人なら先ず誰もやらない。

私がここが何処だか辛うじて分かるのは、討伐隊に参加した、国お抱えの絵師が描いた1枚の絵を、以前見たことがあるからだ。

命からがら逃げて来た絵師が描いたその絵は、恐らく後に上塗りしたのであろう、この山を包む空気を、かなり重苦しい色で表現してはいたが。


 朝起きてから、私はかなり失礼な言葉を、意図的に彼に用いた。

可能性は低かったけど、もしかしたら抱いてくれるんじゃないかと考えてもいたし、案の定何もされなかったと知った後は、彼に可愛がられているであろう奥さん達に嫉妬して、随分な物言いをしてしまった。

私は今まで、恋をしたことがない。

それ以前に、人に対してそこまで深い想いを抱いたこともない。

親や叔母さんにさえ、感謝と親愛に近い感情は持てても、愛情と呼べるより踏み込んだ気持ちまであるか(あったか)と言われれば、自信がない。

だから、言い寄る人は多くても、煩わしさと嫌悪が先立ち、どうしても一線を画してしまう。

『あなた達は、私の求める人じゃない』、と。

なのに、彼に会った瞬間、興味が湧いてきたのだ。

それはどんどん大きくなって、その日の内に、今まで知らなかった感情を私にもたらす。

一昨日までの私には、理由はどうあれ、その日会った男と同じベットで寝るなんて、理解すらできなかっただろう。

初めての感情に戸惑う私を、手慣れた彼が導いてくれてもよさそうなものなのに、出会った頃と同じく、相も変わらず飄々としているから余計に腹が立つ。

先程の言葉にも、どこか冷たい響きが混ざったのは、きっとそのせいだ。


「勿論、お金を稼ぎにだ」


「かなりの魔力があるようだけど、勝てる見込みはあるの?

国の軍隊ですら、相手にならないのよ?」


「とりあえず、魔竜とやらに会ってみよう。

君はここで留守番してるか?」


「こんな所で1人になるなんて嫌よ。

一緒に行くわ」


さっさと先へ行く彼の後を追い、私は辺りに漂う嫌な気配に身震いした。



 『人の臭いがする。

やれやれ、またか』


我は眠りから覚め、ゆっくりと身を起こす。

太古の昔、魔術師共のおもちゃとして、いろいろ身体をいじくられ、人の反乱に乗じて逃げ出して以来、各地を転々として過ごしてきた。

まだ体が小さかった時はそうでもなかったが、一人前に成長すると、獲物を獲るため空を飛ぶだけで、人々から恐れられた。

我とて生き物である以上、腹は減るし、何も食わなければいつかは死ぬ。

必要以上に狩ることはしなかったが、それでも奴らはわざわざ巣まで来て、いきなり攻撃を仕掛けてきた。

自殺願望のない我は、当然の権利として応戦しただけであるが、その結果、更なる攻撃の手が増えるという悪循環に陥り、一時期は本当に煩わしかった。

ここ数十年、やっと落ち着いてきたが、それでも年に何組かの人間が襲ってくる。

己の巣の周りには、そんな奴らが遺していった、数々の武器が転がっている。

正直、邪魔でしょうがない。

今回もまた、狩りをする手間が省けたと前向きに考えることにして、侵入者を待ち構える。

そして、その男はやって来た。


「邪魔するぞ」


相手から、攻撃以外の言葉をかけられたのは、逃げ出してから初めてだ。

不思議なことに、声をかけてきた男からは、人の臭いがしない。

自分が先程感じた臭いは、その後ろで震えている女のものだ。


「おお、沢山あるじゃないか」


その男は、正面で攻撃を仕掛けようとした我を無視して、周囲に転がる人の武器に目を遣った。


「ジャッジメント」


魔法を唱えたと勘違いした我が、2人に向けてブレスを放つ。

だが、信じられないことに、それはいとも簡単に、見えない何かに弾かれてしまった。


「こちらには攻撃する意思はないが、どうしてもと言うなら、相手にはなるぞ」


その瞳が蒼穹のごとく輝いた男が、穏やかにそう告げてくる。

我は迷った。

先程のブレスは、本気ではないにしても、その3割くらいの威力がある。

最初は従順な振りをして、隙を見て襲ってきた奴もいたから、ここで一気に殺してしまった方が安全だが、そうすると、折角の巣が壊れる。


「人が信用できないか?

それなら、1回だけは大目に見てやろう。

全力で攻撃してくるがいい。

巣の心配ならいらん」


瞳を蒼く輝かせたまま、男がそう言ってくる。

得体が知れない恐怖を感じた我は、咄嗟に、最大級のブレスを吐いた。

だが、その結果は先程よりも酷かった。

2人の前で、弾かれることもなく消滅してしまう。


「気は済んだか?」


全力で攻撃されてなお、穏やかに語り掛けてくる男に、我は静かに膝をつき、頭を地につける。

どうやっても勝てない。

ならば、その慈悲に縋るのみ。


「なあ、食うに困らなくて、敵もいない世界で、穏やかに暮らすつもりはないか?

時々人の怨嗟が鬱陶しいかもしれないが、所詮は精神体ゆえ、何もできはしない。

逆にストレス発散や、遊び相手に使うといい。

今はまだ、他の住人は少ないが、その内仲間が増えるかもしれない。

異種族だろうがな。

・・どうだ?」


この男は、何を言っているのだろう?

まるで、別の世界にでも連れて行ってくれるみたいではないか。


「その通りだ」


『!!』


先程から、何か変だと感じていたが、もしかしてこの男は、我の考えが理解できるのだろうか?


「ああ」


『!!!』


「行く気があるなら頭を上げろ。

おまえはべつに、悪いことはしてはいない」


その言葉に、我はゆっくりと頭を上げる。


「ああそうそう、ここに転がっている、武器の類を貰ってもいいか?

それと、巣の中に落ちている、おまえの鱗」


我は頷く。


「すまんな。

・・では、送り届けるぞ」


男が右手を胸元まで上げ、その掌を上へと広げる。

そこに生まれた黒い球体に、我の身体が吸い込まれていく。

気が付くと、今まで居た巣ではなく、陽の入らない暗闇の世界にいた。

だけど、何だかとても暖かく、居心地がいい。

周りを見渡すと、豊富な植物に、様々な実が付いて、良い香りを放っている。

水辺も多く、ほんのり潮の香りがするから、海もあるのだろう。

いつの間にか近くに来ていた狐の魔物が、2匹で我を興味深そうに眺めている。

まだ子供だが、随分人懐っこい気がするな。

新しい暮らしが始まったばかりだが、多分、これだけは言えるのだろう。

あの男は、いや、あのお方は、きっと創造主に違いないと。


「正解」


何処かから、妖艶な女性の声がした。




 「・・ねえ、今の何?

何なの!?」


私は、目の前で起きた出来事が信じられなかった。

魔竜を軽くあしらったこともそうだが、問題なのはその後。

まるで彼を、何処かの世界に送り込んだように見えた。

実際、魔竜と、そのような内容の、会話みたいなことをしていたし。


「先ずは仕事を済ませてしまおう。

話はそれからだ」


そう言った彼は、そこら中に転がる武器や防具を拾っては、浄化し、修復してから何処かに放り込んでいく。

アイテムボックスが使えることは、私と模擬戦をした時に、いきなりハリセンを出したことから何となく分かってはいたが、私が知る魔法と違い、大分物が入りそうだ。

この世界の魔法は基本的に無詠唱。

攻撃の度に火球、水球などと口に出していては、その分攻撃が遅れて、それが致命的になりかねない。

魔法というのは、その者の精神作用に魔素と魔力が反応するものだから、敢えて口に出さずとも、ちゃんと発動する。

まあ、意識的に威力を強めたい場合などに、口にする人は多いが。

武器類が済むと、今度は魔竜の鱗を集め始めた。

生半な武器や防具なら、こちらの方が圧倒的に高値が付く。

それなりの枚数があったらしく、彼も満足げだ。


「では、撤収しよう」


未だ呆然と成り行きを眺めていただけの私に近づいて、来た時と同じように、腰に腕を回してくる。

瞬時に転移した先は、私の家ではなく、何処かの森の中。


「・・ここ何処?」


少し投げやりにそう口にした私に、彼は言う。


「自分達の家の、建設予定地だ」


「はあ?」


不覚にも、最早そんな声しか出てこなかった。


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