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創造神の嫁探し  作者: 下手の横好き


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番外編、六精合体その2

 「お父様、少しよろしいでしょうか?」


エリカの手による夕食を堪能した和也は、『眠るまでの間、読みかけの本を読んできてもよろしいでしょうか?』と遠慮がちに尋ねてきた彼女に頷き、自分は1人で自室のベットに横になりながら、エリカと紫桜の2人に与える星を物色していた。

後で彼女達と見るにしても、ある程度は選別しておかねば、如何せん、数が多すぎる。

先ず生命体が存在する星をピックアップし、それから人かそれと同等な存在の住む星を選り分けていく過程で、ベットサイドの僅かな明かりを通して、ファリーフラの声が響いた。


「どうした?

何か問題でも起きたのか?」


その響きに、やや憂慮すべき側面があるのを感じ取った和也が、意外そうに彼女に問いかける。

彼女達は、創造主である自分を除けば、現時点で最も神に近い存在だ。

4人の妻達も、今後徐々に力を付けていくであろうが、ほぼ宇宙の始まりから存在する彼女達に追い付くには、それこそ億単位の年月が要る。

その1人でもあるファリーフラを悩ませるなど、同種の存在以外には有り得ない。

仲の良い彼女達(和也はそう思っている)にしては珍しく、喧嘩でもしたか。

そう考えた和也の言葉は、傍目には少し呑気に聞こえたかもしれない。


「それが、エメワールとディムニーサの2人が、仕事をそっちのけにして引籠ってしまいまして・・」


「何!?

一体何故?」


これまで1度もそんなことはなかっただけに、和也は少し面食らう。


「お父様、先日6精を使役なさって、1人の人間を蘇生なされたでしょう?

その際に、彼女達にお声をかけなかったことを、どうやら納得できないでいるみたいで・・。

エメワールは魔獣界に、ディムニーサは土の精霊界の奥深くに閉じ籠っていると聞きました」


「いやあれは決しておまえ達を蔑ろにしたわけではなく、そのくらいのことに忙しいおまえ達をわざわざ呼ぶのはどうかと考えただけなのだが」


「勿論それはわたくし達にも分かっております。

おりますが、・・あの2人は特にお父様に固執していますから、頭では理解しても、感情が納得しないのでしょう。

お忙しいところ大変申し訳ございませんが、お父様の方で、何か手を打っていただけないでしょうか?」


「分かった。

あちこちの星に影響が出ない内に、自分の方で対処しよう。

問題はそれだけか?」


「・・いえ、もう1つございます。

その、メルメールからの嘆願なのですが、もう少しお父様に閲覧の自由を頂きたいそうです。

具体的には、お風呂と・・・」


真面目な彼女は、そんなことまで律儀に伝えようとする。


「・・それは娘であるおまえ達の教育上よろしくないから駄目だと伝えてくれ。

その代わり、今回迷惑をかけたおまえを含め、皆に何か考えておくから」


「はい。

有難うございます、お父様。

それでは失礼致します」


さて、どうしたものか。

念話を終え、選別作業に戻りながらそう考えた和也の視界に、ある光景が映し出される。


「・・これまでは、人の世界に大規模な介入はしないようにしていたが、丁度良い機会でもあるし、今回は利用させてもらおう」


そう呟くと、和也は早速準備に取り掛かった。




 地球から遥か数億光年、別の太陽系を形成する惑星の1つが、今、滅びに瀕していた。

星を覆う分厚い有毒ガスの層が太陽の光を妨げ、強い放射能で汚染された大地と、ゴミや工業排水で濁りきった海からは、年を追うごとに、獲れる作物や水揚げされる海産物の量が大幅に減少している。

全宇宙の中においても、極めて高い技術を伴った文明が発達していたこの星は、人が己の欲と利便性のみを追求し、実質を伴わない形だけの権利を振りかざしてきた結果、貧富の差が増大し、それが固定化されて特権階級を生み、貧しき者達は家族という概念からも見放され、孤立化して、無駄に虚しく生きるだけの存在になった。

最早国民からは搾取できなくなった国々は、自国に蔓延する不満の矛先を他国へと向けるべく民を煽り、自国第一主義を唱えて好き勝手に行動し始める。

星の主要な酸素を生み出す広大な森林を、一時的な畑の拡大のために焼き払い、他国に援助をせびり、威嚇するために軍備を増強し、増え続ける人口を支えるために、先を争って領土を取り合った。

その結果、ほんの些細な出来事から、何度目かの世界戦争へと突入したこの星は、敗戦濃厚な国が用いた核兵器が仇となり、実に世界の半分を失う。

数百億いた人類は、僅かに10億人が生き残るだけとなり、ここに至って初めて、人は己の過ちに気付く。

国の垣根を全て取り払い、この大陸は自然保護区、この島は農業地帯と役割を分担しながら生き残りを図ったが、年々腐敗していく海と、放射能に汚染された大地が人々の死期を早め、とうとう星を捨て、別の惑星に移住する計画を打ち出す。

残る全ての技術と労力、資源をつぎ込み、数十年かけて100隻にも及ぶ巨大戦艦を建造した彼らは、そこに世界中から集めた志願兵を乗せ、移住可能な星を求めて宇宙へと飛び立った。

彼らに残された時間は15年。

それが、人類が滅亡するだろうと言われる期限であった。



 「艦長、この周辺の解析が終わりました。

残念ながら、我々が居住可能な星は見当たりません」


「・・そうか。

もう1年になるが、そう簡単には見つからないな」


艦長と呼ばれた男は、世界中の人々が、自分達を送り出してくれた時のことを考える。

残り15年で滅亡すると言われる中、できる限りの食料と燃料を差し出して、自分達の帰りを待つと言ってくれた人々。

この船団の中にも、幼い弟や妹を残して志願してきた者が大勢いる。

大切な食料と燃料を、できる限り節約しながら、探査のためのワープを繰り返してきたが、調査の度に出る不運な結果に、指令室に集う者達が醸し出す雰囲気も、暗くなりがちだ。

だがこの数日後、とうとう1つの惑星を見つける。

まだ若いその星は、未だ文明の発達が未熟であり、たいした都市もないが、自分達の生態に適合する、緑多き星であった。

故郷の星では既に失われた、海の青さと雲の白さが、乗組員達を歓喜させる。

歓声に沸き立つ乗組員達ではあったが、問題も1つあった。

この星の元の住人達をどうするか、である。

探査機から送られる映像からは、どうやら人間の中に数種の獣人が混じっているようだ。

純粋な人間しか存在しなかった自分達の星では、人間のような顔つきをしてはいても、頭に獣の耳が生え、尾てい骨に尻尾の生えた存在は、動物としか見做されない。

共に暮らすようになれば、恐らく彼らはペットとしての存在にしかならないだろう。

ならばいっそのこと、彼らを統治下に置いて管理した方が上手くいく。

何度かに亘る艦長同士の話し合いの後、そう決断した彼らは、最初の会合での己の立場を優位にすべく、当たり障りのない都市を選んで先制攻撃を仕掛けることにする。

あまり多過ぎると星自体を傷つけるため、2隻の戦艦が主砲を向けたところで、その異変は起きた。




 「エメワールよ、聞こえるか?」


魔獣界で、憂さ晴らしに、人の怨嗟の声を手当たり次第に潰していた彼女の下に、その声は届いた。


「え、お父様!?」


「そんな所で何をしている?

ファリーフラが困っていたぞ」


決して叱るふうではなく、寧ろ心配しているような声音で、そう語りかける。


「大体のことは彼女から聴いたが、あれはべつにおまえ達を蔑ろにしたわけではない。

寧ろ気を遣ってのことなのだ。

許してはくれまいか?」


「・・お父様が、わたくし達のことを無下に扱われることなどないと、そう信じてはおりますが、感情が納得してはくれないのです。

自我を頂いてより此の方、途方もない時の中を、わたくし達はほぼ1人で過ごして参りました。

他の5人と話をするようになったのも、そう遠いことではございません。

まだ城にお籠りになられていた頃のお父様は、いつも寂しそうで、悲しそうで、でも、わたくしにはおかけする言葉も見当たらなくて、ずっと辛かった。

何時かわたくし達のことを思い出していただけると信じて、闇の帳の陰で、ずっと我慢して参ったのです。

だから、初めてお声をかけていただいたあの時は、喜びで身が震える程に嬉しかった。

恥ずかしいから精一杯の虚勢を張ってはおりましたが、本当に、嬉しかったのです。

そのお心に触れる機会を頂いた際は、それまで耐えていたものが一気に爆発して、随分と恥ずかしいことも口にしてしまいました。

ねえお父様、わたくしは、我が儘でしょうか?

お父様と過ごせる機会を、1度たりとも逃したくはないと考えることは、贅沢なのでしょうか?」


名を得て、人と同じ様な外見を伴った彼女が見せる表情は、より明確に、その気持ちを和也へと届ける。


「・・すまなかった。

我をそこまで慕ってくれていたのだな。

今後必要があれば、全ておまえ達に頼むと約束しよう。

だから、今回はそれで機嫌を直して欲しい」


「・・・今回だけですわよ?

次はそう簡単には許しませんわ」


彼女の機嫌が直って、平穏を取り戻した魔獣界を、それまで巣穴に隠れていた3匹の火狐が走り回る。


『元気でやっているようだな。

でも、そろそろ他にも仲間が欲しいか』


「ふむ、では今回用意した贈り物は、次におまえがゴネた時まで取っておこう」


「え!?

酷いですわ!

わたくし、本当に泣いてしまいましてよ?」


「・・冗談だ。

闇の精霊界、おまえしか辿り着けない深淵なる闇に包まれ、それはある。

どうだ、我と一緒に気晴らししないか?

他の者達にも声をかける故、皆で楽しく”遊ぼう”」


「はい、お父様」


彼女の喜びの感情が魔獣界を吹き荒れ、そこに漂う怨嗟の声を一瞬で消滅させてしまう。

遊び相手を失った火狐の子供達が、今度は互いを相手としてじゃれ合い始める。

その母親は、そんな子供達を、穏やかな目で見つめていた。

ここでは食べるために苦労することはない。

病の心配もなく、生存を脅かす天敵も存在しない。

ある意味暇ではあるが、そのゆっくりと流れる平穏な時間が、彼女らに、深い思慮を与え始める。

和也により、この世界では、種族の垣根を越えて、意思疎通ができるようになっている。

彼女達に友達ができるのも、もうすぐのことであろう。




 「う~む、折角ディムニーサに会いに来たのに、もしかしていないのかな?

仕方がない、帰る・・・」


「いる!!

お父様、帰らないで」


和也のわざとらしい言葉を遮り、ディムニーサが姿を現す。

その無表情な顔からは想像がつかないが、綺麗にカールさせていた髪が若干乱れているあたり、どうやら少し慌てていたようである。


「ファリーフラから聴いたぞ。

駄目じゃないか、仕事をサボって籠っていては」


「・・あいつ、余計なことを」


告げ口されたと勘違いしたディムニーサの瞳が、僅かに険しくなる。


「こらっ、勘違いしては駄目だぞ。

彼女は仕事に影響が出ることを心配したのであって、おまえ個人を告発したのではない。

それに、おまえがここに籠っていたのは事実だろう?」


土の精霊界、その最も密度の濃い場所に、溶け込むように彼女は潜んでいた。


「お父様が悪い。

私は傷ついた」


「・・エメワールにも言ったが、我はおまえ達を蔑ろにしたわけではないのだ。

それにそこまで寂しかったのであれば、何故我に会いに来ない?

扉は何時でも開かれていると、以前に伝えたであろう?」


和也のその言葉に、彼女は悔しそうに下を向いて答えた。


「だって、お父様、他の女と仲良くしてたから。

前に1度、会いに行こうと覗いたら、この間の女といちゃいちゃしてた」


「何?」


恐らく紫桜のことを言っているのであろうが、一体どの場面であろうか。

妻達を抱く際と入浴時はプロテクトをかけているから、その他の場面なのは間違いないはずだが、全く見当もつかない。


「2人で手を繋いで歩いてた」


ああ、そういえば、そんなこともあったな。

地球の桜があまりに見事なので、紫桜が花見に行きたいと言ったことがある。

ただ、彼女をそのまま連れて歩くと騒ぎになるから、深夜にこっそり京都の嵐山まで転移して行ったのだ。

月の光を仄かに纏い、淡いピンク色の花を満開にさせた木々の間を、黒い振袖姿の彼女と手を繋いで歩いた。

お互い無言で、衣服の色が闇に溶け、足音さえしない中、小枝(さえだ)を揺らす風が、ついでのように紫桜の長い髪を(そよ)がせていく。

その髪から香る、馨しい香りが、ひっそりと咲く桜に、ある種の艶を持たせる。

朧月夜に、夜風に舞うように散るその花びらの1枚1枚に、一体彼女は何を見ているのか。

その晩は、家に戻ってからも、お互い会話を必要とすることなく、静かな眠りに就いた。


「・・私は、お父様と手を繋げないのに・・」


和也が回想していた()をどう取ったのか、そう付け足してくる。


「そうだったのか。

それはすまないことをしたな。

今後は、精霊を使役する際は必ずおまえ達に頼む。

だから、今回は許してくれないか?」


「・・・」


「許してくれたら、後で一緒に遊んでやるし、贈り物もしよう」


「本当?

何して遊ぶの?」


「フフ、ロボットごっこだ」


「ロボット?

何それ?」


「いろいろあるが、今回のは、簡単に言えば人型の戦闘マシンだな。

おまえ達1人1人に専用のロボットを用意した。

それに乗って、ある星を侵略しようとしている宇宙船団と戦うのだ。

どうだ、燃えるだろう?」


「・・・普通に破壊するだけじゃ駄目なの?」


「初めておまえ達を呼んだ時にも感じたが、かなり手加減しても、その力ではすぐに終わってしまうだろう?

この機体を使えば少しは長く楽しめるし、以前ある星のアニメを見て、我も1度合体というものをやってみたかったのだ。

だから、一緒に遊んで、『くれるかな?』」


「分かった。

お父様と遊びたい」


「少し返事が想定と異なるが、我の願いを叶えてくれる良い子の君には、これを進呈しよう」


和也が視線を向けた先には、いつの間にか、重厚な機体が鎮座していた。

薄いこげ茶色の、洗練されたシルエット。

過度な装飾は一切ないが、その大きさもあって、存在感が半端ではない。


「さあ、中に入ってみるがいい」


促された彼女が、その機体に近づいていくと、ロボットの胸の辺りが光を帯びて、彼女を吸い込んでいく。

かなり広く感じるコクピットらしい場所で、中央に置かれた操縦席のような椅子に、形式的に腰かけようとしたディムニーサは、強い違和感を覚える。

お尻に何か触ってる。

視線を向ければ、そこには椅子があるだけ。

そこでふと気づく。

先程、自分はここまで歩いて来た。

硬質な床の上を歩く、コツコツコツという単調な音がしたのだ。


「・・お父様?」


ある確信を持って、彼女は声を震わせながら和也に問い質す。

同様に機体の中に入ってきた和也が、ゆっくりと彼女に近づいて来て、その掌で、優しくディムニーサの頭を撫でた。


「お父様」


涙をぼろぼろ溢し、泣きじゃくる彼女。

何億年、何十億年と夢見てきた、自分を生んでくれた親の手。

数多の生命の誕生に手を貸し、その成長を見てはきても、触れることは決してできなかった、精霊という存在。

自分は今、その理を超え、お父様の温かい掌に撫でてもらっている。

優しい。

柔らかい。

温かい。

それまで想像でしか理解できなかった言葉の数々を、自分は今、確かに実感している。


「この空間にはな、精霊であるおまえ達にも実体を与える力が働いている。

物に触れ、物を食べ、物を仕舞える。

今後はおまえ達が寂しい想いをしないよう、定期的に何かを贈ろう。

今回は、これだ」


そう言って和也が差し出したのは、格調高い装飾の施された1冊のアルバム。


「メルメールに貰った写真を整理するといい」


その後暫く、これまで無表情でしかなかった彼女の顔は、涙ともう1つ、ある鮮明な感情で満たされていた。




 「本当によろしいのですか?」


「何がだ?」


「小さな都市とはいえ、あの場所にも数千の人間が暮らしています。

警告もせず、いきなり攻撃して皆殺しにするのは、軍人として恥ずべき行為では?」


副官の、愁いを帯びた言葉に、その艦の艦長は答える。


「それについては、今まで何度か話し合ってきたのだ。

我々には時間がない。

言葉を用いて、あの星の住人達の合意を得ようと努力するための時間が。

我々がここに来た理由を考えれば、これは致し方ないことなのだ」


「・・遣る瀬無いですな」


「せめて、占領した暁には、彼らに少しでも良い待遇を保証してやろう」


その言葉から少しして、他艦から2発の主砲が発射される。

だが、星に届く寸前で、それらはきれいに霧散してしまった。


「何だと!?」


その言葉は、同じようにスクリーンを見ていた他の艦の者達からも発せられたであろう。

驚愕で目を見開く者達の前に、新たな現象が起きる。

その星の前方の空間が歪みを生じ始め、程無く1体の小型ロボットが姿を現す。

宇宙の闇に映える白銀の機体。

それが織りなす美しいシルエットは、自分達の星にかつて存在したと言われる中世の騎士のようだ。


「何だあれは!?

あの星にあんなものが造れる技術があるとは聞いてないぞ!」


艦長が声を荒げる中、旗艦に乗船する総司令官から全艦に向けてメッセージが入る。


『全艦隊戦闘準備。

飛行部隊を出し、先制攻撃を仕掛ける。

可及的速やかに敵を破壊せよ』


「全艦戦闘準備。

全砲門開け。

戦闘機部隊の出撃を急がせろ。

主砲エネルギー充填開始。

終わり次第、レベルAのまま待機」


通信を聴いた艦長から、乗組員全員に指示が送られる。

そうこうする内、100隻の艦隊から、各数十機の戦闘機が出撃し、その内の約1割が敵に向かって発進していく。


「少し過剰攻撃のような気も致しますが・・」


「相手の力量が分からん以上、ある程度は仕方あるまい。

それに、少なくとも奴は、我々の主砲を2発は防いで見せたのだ」


副官の言葉にそう返した艦長は、今まさに攻撃を仕掛けようとする部隊に目を向けた。



 「攻撃開始」


チームリーダーの指示に従い、各戦闘機が一斉に攻撃を仕掛ける。

ターゲットは、現れたままの姿勢で微動だにしない。

もしかして映像なのではと不審に思う程だ。

だが、何百発ものミサイルやレーザーの攻撃を受けて、それは傷さえ負わなかった。

いや、正確には、相手に届く前に、その全てが不可視のバリアーに阻まれていた。


「攻撃が効かない!?

全弾を打ち尽くせ。

何としてもバリアーを破壊するのだ」


リーダーの声に焦りが生じ始める。

さらに数百発の攻撃を受けたはずの相手は、相変わらずの無傷であった。



 一方、和也は少し困惑していた。

ある程度の危機的状況?になるまで、彼女達には出番を待ってもらっている。

こういう戦闘には、お約束ともいうべき流れがあるからだ。

最初から全力で叩き潰してしまっては、ドラマにならない。

相手にもそれなりに活躍してもらわなければ、自分達の攻撃が見せ場にならない。

その後も暫く何もしないで攻撃を受けていたが、簡単な障壁すら破壊できない相手に溜息を洩らし、小うるさい戦闘機を退けて、後ろに控える艦隊に期待することにした。

直後、和也の機体の周囲を、6色の曼陀羅が覆う。

金、黒、赤、青、緑、茶色。

それぞれの魔法陣が強い光を放つと、それは銃の弾倉のように緩やかに回転し始め、そこから1体ずつの機体が躍り出てくる。

それぞれの魔法陣の色をそのまま機体に反映させたようなロボット達は、敵機に向けて各々が示威行為を展開した後、元の魔法陣の前で和也の機体を囲む。


「お父様、素晴らしい贈り物ですわ、これ。

わたくし達が物に触れることができるなんて、こんなに嬉しいことはございませんわ。

本当に有難うございます」


エメワールがかなり興奮ぎみにそう話すと、他の機体からもぞくぞく通信が入ってくる。


「お父様、とても嬉しいです。

物にはそれぞれの重さがあり、それぞれに個性がある。

今、初めて実感できています」


ファリーフラがモニター越しにそう微笑む。


「お父様、偉大なる全能の神よ、心から感謝致します。

身体を動かすという行為は、このような感覚なのですね。

とても新鮮です」


レテルディアが緩みがちな頬を精一杯に引き締めながら、そう伝えてくれる。


「服を着ているというのは、こんな感じなのですね。

何だかとても安心致しますわ」


メルメールが胸を抱き締めるようなポーズを取って、穏やかに瞳を閉じる。


「お父様、このご恩は如何様にしてお返ししたらよろしいですか?

こんな、こんなこと、叶えらえるなんて考えてもみませんでした。

改めて、お父様のお側に居られることを誇りに思います」


ヴェニトリアが瞳を潤ませ、そう言葉を紡いでくれる。

そんな中、ディムニーサただ1人だけが、ずっと不気味な笑い声を発し続けていた。


「フフッ、フフフフフフッ、フフフッ」


「・・ちょっとあなた、そのおかしな笑いは何ですの?

変な物でも食べたのかしら?」


エメワールが若干引きながら、彼女に問い質す。


「お父様に撫でてもらった。

優しく、何度も撫でてもらった。

フフッ、フフフフッ」


「「「!!!」」」


他の5人が一斉に息をのむ。


「・・お父様、わたくしは?

わたくしには、何かしてくださらないのですか!?」


切羽詰まったような声でそう尋ねてくるエメワールの言葉は、1人を除く、他の4人の気持ちも代弁している。


「頭を撫でるくらいなら何時でもしてやれるが、他に何か望みでもあるのか?」


「・・抱き締めてください。

優しく、力強く、想いを込めて、抱き締めてください。

ずっと夢見ておりましたの。

お父様に包まれる、その喜びを。

わたくしの闇は、他者を包みはしても、わたくし自身は包んではくれない。

ファリーフラの光は、わたくしにその存在を感じさせることはできても、決して包み込むことはできない。

それができるのは、この世でただお一人、お父様だけ。

望んでおりました。

ずっと焦がれて参りました。

どうかお父様、この願いを叶えてはくださいませんか?」


「・・勿論だ。

他の皆も、して欲しいことがあれば遠慮するな。

おまえ達は、我の娘なのだから」


「嬉しい、嬉しいです」


いつもなら、和也の前では背伸びをしたがるエメワールも、この時ばかりはまるで子供のように涙を流している。


「有難うございます、お父様。

後程希望をお伝え致しますが、先ずは先程から無粋に攻撃をし続けてくる彼らを、どうにか致しませんか?」


ファリーフラが嬉しさ半分、煩わしさ半分といった表情で、和也に答えてから敵に目を遣る。

相変わらず障壁すら破れないので気にも留めなかったが、彼らは父娘の会話の最中もずっと攻撃を繰り返していた。


「そうだな。

一向にピンチにならないし、適当にあしらって本命をどうにかしよう」


「ピンチになる必要がおありなのですか!?

お父様と私達がいて、それは不可能かと・・」


レテルディアが驚いたように言う。


「戦闘の途中でおまえ達と合体して、1体の巨大ロボットになる予定であるのだが、合体の発動には、このままでは駄目だ、皆で力を合わせなければという暗黙の条件がある。

そういった状況を俟たずに合体しては、『何故最初から1体のロボットとして出てこなかったんだ?』と、子供達に疑問が生じてしまう」


「・・そ、そうなのですか。

合体とは、奥が深いのですね」


「うむ、ある意味ロボットアニメの最大の見せ場だからな。

では、そろそろ行動に移ろう。

おまえ達であの戦闘機を好きに攻撃してくれ。

被害は考慮しなくていい」


「分かりましたわ」


「はい、お父様」


6体のロボットが、それぞれの攻撃を開始する。


「ホーリーカッター」


ファリーフラの機体が輝く刃で1度に数機の敵を切断する。


「ファイヤーランス」


レテルディアの機体が数十本の炎の槍で敵機を貫く。

宇宙空間であるのに、その燃え盛る炎は衰えを知らない。


「お父様、攻撃ボタンにわざわざ名前が書いてありますが、これは何か意味がおありなのでしょうか?」


ヴェニトリアが、律儀にそう尋ねてくる。


「おまえ達が独自に攻撃を生み出して、毎回異なる攻撃を仕掛けては、子供達が混乱するであろう。

だから、その機体にはこの攻撃しかないということを、予め設定しておいたのだ」


「・・あの、何故子供達が出てくるのですか?」


メルメールが躊躇いがちにそう聴いてくる。


「・・我が参考にしたアニメは、その視聴者が主に良い子達であったため、ついその子達が見ることを前提に造ってしまった。

・・まあ、その辺の細かいことは、あまり気にしないでくれると助かる」


「こら、ディムニーサ、ちゃんとわたくしの分も残しておいてよ?」


「めそめそしていて、何時までも攻撃しない方が悪い」


「何ですって!」


精霊王達が繰り出す攻撃に、待機していた分も合わせ、あっという間に2000機の戦闘機が全滅する。



 「・・・味方戦闘機、全滅致しました」


通信士の呆然とした声が、静まり返った艦橋に響く。


「・・一体あの者達は何なのだ?

あの未開の星に、こんな高度な戦闘ロボットがあるはずがない。

何処かの星が、味方でもしているというのか?」


艦長の怒りと諦めの混ざったような声がする中、旗艦より通信が入る。


『これより、全艦隊での総攻撃に移る。

目当ての星に射線が被らないよう、各艦は順次移動して、主砲発射準備。

態勢が整い次第、攻撃に入る』


「・・我が艦は敵左下方より攻撃する。

速やかに移動に移れ。

総員、着席してシートベルト及び遮光ゴーグル着用。

命令が下り次第、総攻撃に入る」


100隻の艦隊が、その内の何隻かを護衛に残して、移動を整える。

その間、和也は宇宙に散らばる戦闘機の残骸を全て回収し、金属部分は1度原子レベルに分解して浄化した後、インゴットにして収納スペースへと放り投げる。


『?』


ファリーフラとエメワールが何かに気付いたようだが、敢えて口にはしない。


『総攻撃を開始せよ』


旗艦の総司令官の命令に、各艦が一斉に主砲を発射する。

その集中砲火を全て消滅させながら、和也は、遠く離れた彼らの故郷である星の、その空中の至る所に巨大なスクリーンを設け、そこに住む者達に、この戦闘が見えるようにした。



 分厚い鉛色の雲が、太陽の光を妨げるようになって約70年。

昼でも薄暗い、荒れ果てた大地で、人々は大きなシェルターに分散して、ひっそりと生活していた。

そこに突然現れた巨大なスクリーン。

外で作業をしていた者達が、何事かとそれらを見上げる中、そこに宇宙空間での戦闘の模様が繰り広げられる。

騒ぎを聞きつけた人々がシェルターからも出てきて、徐々に集団を形成していく。

見覚えのある戦艦達が、小さな7体の戦闘ロボットに向けて猛烈な攻撃を仕掛けているが、一向に効いているようには見えない。

明らかに、自分達の方が劣勢であった。

手を固く結んで戦況を見守る少女の脳裏には、出発前の兄との会話が浮かんでくる。


『行ってくるよ。

必ず星を見つけてくるから、それまで、元気で待っててくれな』


『兄さんもお気を付けて。

長い航海の間、お身体を大事にしてくださいね』


『有難う。

おまえ達の未来を、希望を、きっと繋いで見せるから』


自分の手を取り、艦の乗組員に優先支給された、貴重なチョコレートを渡してくれる。


『じゃあな』


あの時貰ったチョコレートは、何時か2人で食べようと、未だに冷蔵庫に保存してある。

兄さん、お願いだから、お願いだから死なないで、帰って来てください!

別の女性の脳裏には、夫との遣り取りが浮かんでくる。


『息子を頼む。

どうか無事に育ててやってくれ』


『約束するわ。

だから、あなたもきっと帰って来てね』


『ああ。

俺達大人は、世界をこんなふうにしちまった責任を取らねばならない。

たとえそれが、爺さん、曽爺さんの責任でも、逃げるわけにはいかん。

大人は何時だって、子供にとっての希望でなければな。

・・行ってくる』


最後にしっかりと抱き締めてくれたあの温もりは、今でも身体が覚えている。

どうか、どうか無事に。

様々な想いで世界が満ちる中、戦況に変化が生じる。



「そろそろ頃合いだな。

娘達よ、合体しよう」


星が2つくらい破壊されそうな攻撃を浴びて、なお無傷の和也はそう宣言する。


「お父様と合体!

待ちに待っておりました」


「楽しみです。

一体どうすればよろしいのですか?」


「皆で心を1つにして、虹色に輝いたボタンを一斉に押すのだ。

変形して合体する間は、機械が自動的にやってくれるから、おまえ達は腕を組むなり、好きな姿勢で座っていればよい。

ではいくぞ、六精合体、エレメンタルオリジン!」


皆が揃ってボタンを押す。

勇壮な音楽が流れる中、風と闇の機体が両腕へと変形し、火と水の機体が両足に、土が胴へと変わり、光が胸部を形成する。

和也の機体は頭部を形作って、順を追って合体していく。


「・・お父様、この流れているメロディーは何ですの?」


エメワールが若干戸惑うような声音で尋ねてくる。


「合体とは、いわば最大の見せ場であり、ショーでもある。

見ている者をわくわくさせ、さあここからだと感じさせる、華麗で勇壮な演出が必要になる。

そこに、気分を盛り上げてくれる音楽は欠かせない」


「・・歌詞も付いているようですが」


ファリーフラも遠慮がちにだが付け加える。


「恐らくは、その戦闘にかける意気込みのようなものを表現しているのだろう。

我は今回、大切なものを守りたいという願いを形にした」


「流石はお父様。

2人共、一体何を恥ずかしがっている。

最高の栄誉の瞬間なのだぞ!」


レテルディアが、感動で瞳を輝かせながら、そうまくし立てる。

そんな中、敵の艦隊は、僅かに様子を見るような間を取ったが、またすぐに一斉攻撃を仕掛けてくる。


「む、何ということを。

合体の最中は礼儀を持って静観するのがお約束というもの。

そんなことをしては、子供達に『勝てば官軍』のような考えを抱かせてしまうではないか」


和也の不満がオーラとなって、最後のポーズ代わりに、完成した機体を包む。


「待たせたな。

ここからは存分に相手をしてやる。

先ずはこれだ、爆風拳」


和也の機体が右腕を前に出した瞬間、その手首から先が敵へと放たれ、猛烈な勢いで敵艦を打ち抜いていく。


「ハハハハッ、我が風の威力を、その身をもって知れ」


ヴェニトリアが嬉々として敵を打ち抜く。


「次はこれだ」


右腕が戻ると、今度はもう片方の腕を差し出し、その先に魔法陣を描く。


「グラビティホール」


数隻の戦艦の前に生じた、小さなブラックホールのような空間が、戦艦を呑み込み、圧し潰す。


「理由はどうあれ、お父様に盾突いた報いは受けてもらいますわ」


エメワールの言葉が冷酷に響く。


「お父様、私も攻撃したい」


ディムニーサが、ぼそりと呟く。


「うむ、我が学んだアニメでは、腹からミサイルを出していたが、あれは敵の攻撃を受けた時に暴発しないかと心配であったので、この機体には別のものを用意してある。

いくぞ、メテオキャノン」


胴体部分に浮かび上がった魔法陣が、周囲の空間に穴をあけ、そこから銃弾のように巨大な隕石が敵艦目掛けて飛んでいく。


「死ね、壊れろ、お父様に歯向かう愚か者ども」


船体よりも大きな隕石に猛スピードでぶつかってこられた敵の戦艦は、フルスイングのバットに打たれたトマトのごとく、ぐしゃりと潰れていく。



 「第一艦隊壊滅、第四艦隊大破、第七艦隊・・消滅しました。

旗艦からの応答、ありません」


通信士の意気消沈した声が、艦橋の雰囲気をさらに重苦しいものにする。


「・・為す術もありませんな」


「天は我らを見捨てたようだ」


「或いは、初めからいなかったのでしょう」


「第二艦隊の司令官より通信入りました」


『お先に失礼します。

ご武運を』


スクリーンに映し出されたその艦橋では、乗組員全員が起立して、こちらに向かって敬礼している。


「待て、貴君らはまだ若い。

自分達が先に逝こう」


『どの道奴には勝てますまい。

ならば、せめて我らが心意気を見届けていただきたい。

こうでもせねば、残してきた彼らに申し訳が立ちませぬ故』


通信を切った艦隊は、その後、全弾を打ち尽くしながら、全速で敵に突っ込んでいった。


「・・皮肉なものだな。

人は絶望を味わって初めて、他者の命の重さに気付く生き物なのかもしれん。

あと100年、早く気付いておれば、こんなことにはならなかっただろうに・・」


敵の攻撃で全滅していく第二艦隊に敬礼を返し、第八艦隊の艦長である彼は、艦橋に居る皆の顔を見る。

その視線に、皆が無言で頷いた。


「・・・すまん」


軍帽を深く被り、その目元を隠しながら、彼はそれだけを口にした。



 「お父様、どうやら敵は捨て身の特攻を仕掛けてくるようですが・・」


メルメールが、少し彼らを憐れむような声でそう告げる。


「では、そろそろこちらも止めの攻撃に移ろう」


「それはどんな攻撃ですか?」


レテルディアが張り切って尋ねてくる。


「我が学んだところでは、剣で斬るというものであった」


「は?

剣で斬る・・ですか?」


「合体までして、最後の必殺技が剣ですの?」


ヴェニトリアとエメワールが唖然として聴き返してくる。


「我も疑問に思っていろいろと調べてみたのだが、かなり多くの合体アニメがそうであった。

恐らく、剣自体の重さを、合体しないと支えられなかったのだろう」


「・・・」


「大丈夫だ。

我も流石に剣はどうかと思って、別のものにしてある。

・・始原の波動。

おまえ達6精の源が、我に連なる者以外、あらゆる存在を消滅させる」


その言葉が終わると同時に、和也の機体が光り輝き、敵の艦隊に向けて、6色の光波を放つ。

砲撃を浴びせながら突撃を繰り返してくる敵の残存艦隊は、その波動に触れるや、瞬時に分解して消滅していった。



 味方の戦艦が撃墜される度に、集まった観衆から悲鳴が漏れる。

世界各地で同じようにスクリーンを眺め、戦況を注視していた者達は、己の身内が乗船する船体番号の艦の行方を必死で追っていた。


「兄さーんっ!

嫌、嫌ーっ!!」


「あなたーっ!!

あああーっ」


泣き崩れる者達を余所に、その一方的な戦闘は終わりを告げる。

ただでさえ薄暗い世界は、世の行く末を憂う人々が放つ絶望の念で、どんよりと濁っていた。



 「・・お父様に歯向かったとはいえ、少し、可哀想でしたわね」


メルメールがしんみりと口にする。


「分を弁えない彼らが悪い。

それに、元はと言えば、彼らの先祖の身勝手な振る舞いの結果なのだ」


レテルディアは、相変わらず和也に敵対する者には容赦がない。


「さて、それでは最後の作業をして帰るか」


「え?

まだ何かおありなのですか?」


ヴェニトリアが和也の言葉に首を傾げる。


「遊んだら、その後始末をしないとな」


和也はそう告げると、瞬時に遠く離れたある惑星へと転移する。

分厚いガスの層が太陽光さえ遮るその星に向け、6色の曼陀羅を展開した和也は、たった一言、呟いた。


「再生」


6精の力を基にした、その曼陀羅からの光は、徐々に星の大気を回復させ、海の色を鮮やかな青に、雲の層を薄い白へ、大地を豊潤な緑へと変えていく。



 「ねえお爺ちゃん、空から来るあの光は何?

何だかとても温かい」


「・・信じられん。

まさか陽の光なのか?

これが、これが太陽光なのか!?」


地平線から、或いは水平線から、新たな時代を告げる陽光が人々を照らし出す。

そして、その遥か頭上から、1人の男の声がした。


「おまえ達が取った選択は、置かれた状況を考慮すれば、一部を除き、決して許せぬ程の事ではない。

我らの遊びに付き合わせた礼として、今回だけは、特別にやり直す機会を与えよう。

過去に学び、これまでを教訓として、人の幸せとは何なのかを考えて生きるがいい。

地上に残る軍事施設、及び兵器工場は、その代償として我が没収する。

代わりに、大地と生き、海と暮らすための道具は新調しよう。

穢れの取り除かれた大地は、おまえ達に再び生きる糧を与え、汚れとゴミが除去された海や湖などからは、沢山の恵みが約束されるだろう。

だが2度と忘れるなよ。

欲に駆られて恵みを無駄に採り尽くせば、再び同じ道を歩むということを。

先程感じた、大切な者を失う苦しみを。

私欲のために他の国や星を攻めれば、その陰には同様の苦しみを抱える者が出る。

自分達がやることは、立場が変われば、やられることでもあるのだぞ。

最後に、おまえ達の大事な者達を返そう。

今回に限り、全員の身柄を引き渡す」


その声が止むと、世界中で老朽化した軍事関連施設が姿を消し、急速に復元していく大地からは緑が芽吹いて、穏やかな風と、心地よい波の音が戻る。

そして、各々の家の前には、新たな星を求めて旅立った、100隻の戦艦の乗組員達が、1人も欠けることなく立っていた。


「兄さーんっ」


「あなたーっ」


自分達を見つけて、泣きながら駆けてくる者達。

彼ら(彼女ら)は、それを見て、自分達は生きている、そう、強く確信するのであった。



 「お父様もお人が悪いですわ。

わたくし、てっきり皆殺しにしたのかと思っておりましたのよ?」


メルメールが恨みがましくそう言うが、ファリーフラとエメワールは涼しい顔で答える。


「わたくし達は気付いておりましたよ?

冥界の門を訪れる死者の数に、輪廻の列に並ぶ魂の量に、別段の変化があったわけではなかったですし」


「人としての良心を失っていなければ、一見して善より外れたその行動にも、必ず何らかの理由がある。

己の大切な者のため、他者を犠牲にする行為でも、その全てが悪というわけではない。

大切なのはその過程、そして程度だ。

我が無暗に人の暮らしに手を出さないのも、その辺りの加減が難しいからでもある。

今回は、最初からおまえ達との遊びのつもりであったから、ある意味楽であった。

だが、もうこういう遊びはこりごりだ。

助けるつもりがあるとはいえ、誰彼構わず攻撃するのは性に合わん」


「流石はお父様。

その寛大なお心に、このヴェニトリア、感服致しました」


「あなたは嬉々として攻撃してましたわよ?」


「当たり前だろう。

私にとって、お父様の敵は、これ全て悪なのだから」


エメワールの嫌味に、平然とそう返す彼女。


「お父様、じゃあ次は何して遊んでくれるの?」


ディムニーサが、平淡な口調ながらも、心配そうに尋ねる。


「そうだな、この機体はずっとおまえ達に与える物だから、その中で、お茶を飲んだり食事をしたり、時には昼寝をしたりして、まったりと過ごそう。

言い忘れたが、操縦席の裏手には、かなりのスペースが空いている。

壁が回転扉になっているから、そこを通れば、広い部屋にいろんな私物が置けるぞ」


『!!!』


「一緒にご本も読んでくれる?」


「ああ、読み聞かせるのでなければ、べつに構わないぞ」


2人の遣り取りの間、他の5人はそれぞれ同じ事を考えていた。

一体何を置こうか(かしら)?

ベットに洋服ダンス、テーブルにティーセット、アルバムを入れる書棚。

あとは、お父様と相談かしらね、フフフッ。




余談ではあるが、和也が後にディムニーサへ暇潰しにと渡した、とある父娘を描いた数十巻の漫画は、彼女の愛読書の1つとなって、それが縁で、6人の間に本を読む習慣が生まれる。


「ところでお父様、お父様を入れて全部で7体でしたのに、何故六精合体なのですか?」


それは、自分を数に数えなかった、和也の初歩的なミスである。


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