世の理を超えたその先に、その6
「ねえ、早くー」
肩越しに和也をチラ見しながら、痛くないはずの方の左足を、パタパタ砂浜に軽く叩きつけて、行為を急かす皐月。
だが和也は、行動を起こす前に、以前にゲームで学習した、とあるイベントを思い出していた。
それは、浜辺に寝そべったヒロインに、主人公がサンオイルを塗るというもの。
背中のブラ紐を外し、わざとらしくパンツのずれを指先で直すヒロインに、主人公が取るべき行動が、3つの選択肢として画面上に表示される。
1「変な所を触らないように気を付けながら、必要な場所にだけ、丁寧にオイルを伸ばす」
2「ついうっかり手が滑ったふうを装い、胸の隙間に手を入れる」
3「大分身体が凝ってるねと優しく言いながら、マッサージもしてやり、いろんな所を触る」
和也がプレイした時は、当然1番を選んだ。
だが、それに対してヒロインが取った行動は、頬を膨らませながら、『意気地なし』と主人公を非難するというものだった。
驚いてロードし、今度は3を選んだら、『あなたって、マッサージも上手なのね』と、上機嫌で微笑んでくれた。
ちなみに2は、怖くて選べなかった。
全てのイベントを見ないと気が済まない、お気に入りのゲーム以外は、和也はプレイの際に、その攻略本に手を出さない。
この時、和也は、女性はマッサージが好きなのだと、ただ単に認識したにすぎない。
だがもしそのゲームの攻略本を読んでいれば、ヒロインの、その時の主人公に対する好感度によって、反応が変わるということを理解できたのだ。
好感度MAXなら、2の選択肢でさえも、笑って許してくれたのだ。
今、自分の目の前でうつ伏せに横たわっている女性は、ついさっき会ったばかりだ。
あのゲームなら、1番しか正解はあり得ない。
だが、過去にそれで失敗した和也は、女性はマッサージが好きという認識の下、3の選択肢を選ぶことに躊躇いがない。
現に彼女からそれを求められているし、ゲームと違ってロードができないのだから(和也ならできるが)、1度で最適の選択をしなければならない。
プロテクトがかかっている以上、女性を邪な目で見ることはない和也なので、そこには純粋な奉仕の気持ちしかないし、『いろんな所』というキーワードを、変な意味では捉えない。
ただでさえ、彼女の誠意に名前の件では応えることができなかった和也は、ここは全力で期待に応えようと考えた。
「分かった。
では、失礼する」
彼女の足元に移動し、その手に魔力を込めながら、ふくらはぎに手を添える。
「アン!」
いきなり彼女が大声を上げたので、とりあえず手を離す。
自分でも驚いたのか、慌てて口に手を当てて、声を塞ごうとする皐月。
「何今の?
すっごく気持ちよかったんだけど」
変な声を出した自分が少し恥ずかしいのか、照れ隠しにお道化て見せる。
「べつに普通に手を当てただけだが。
・・もしかして、かなり敏感なのか?」
「む、そんな訳ないでしょ?
ちょっと君をからかってみただけよ」
負けず嫌いの皐月は、よせばいいのにそう答えてしまう。
彼をドギマギさせるつもりでいたのに、これでは自分の方が彼にいいようにあしらわれているみたいで面白くない。
その言葉を聞いて、和也は少し眉をひそめた。
これは、あのイベントなのか?
主人公の妹が、兄の部屋のドア越しに、女性の悩ましい声が聞こえてくるので、てっきり不埒なことをしているのかと怒り、『お兄ちゃん、何やってんの!』と怒鳴りながらドアを開けると、そこには兄が自分の彼女にマッサージをしているだけという状況があり、その彼女が勝ち誇ったようにブラコンの妹を見てほくそ笑むというイベント。
和也はこのヒロインより健気な妹の方が好みだったのだが、悲しいことに、妹ルートがなかったばかりに、不憫な想いをさせてしまった。
後にエリカが同じゲームをやったらしく、やはりそのシーンの意味を尋ねてきたので、『あれはな、例えば紙面上でそのイベントが展開されたなら、読者は期待に胸を膨らませ、ページをめくるスピードを加速させるが、最後にああしてその淡い期待をへし折ることで、健全な少年に、世の中そんなに甘くはないと教えているのだ』と答えた記憶がある。
『なぜ少年が対象なのですか?』という彼女の再度の質問には、『成人向けの書物なら、行為の内容を詳しく描写した方が売れるから、ああいうイベント描写は、R15以下の、無垢な少年達をその主な対象としている』と、訳知り顔で解説したら、『まあ、すごく勉強になります』と、エリカに感心されてしまった。
今の和也には、皐月がそのヒロイン役に見える。
あの子も悪い子ではなかったが(ただ主人公のことが好き過ぎて、独り占めしたかっただけなのだ)、時々少し意地悪になった。
ちょっとだけ懲らしめてやろう。
ゲームの中ではできなかったことを、今ここで彼女にやることにした和也。
皐月からすれば、完全なとばっちりである。
「・・そうか。
では、続けるぞ」
和也の掌に、先程より少し多めの魔力が籠る。
その手が彼女のふくらはぎ、太もも、お尻、腰、背中、首、両腕と、優しく押すように這い回る。
「!!!」
和也の魔力が、全身の凝りを完全にほぐしながら、同時にその性感帯まで強烈に刺激して、快感にのたうちまわる皐月。
未だ男性経験のない彼女は、その刺激の前に為す術もなくイキまくる。
彼女のせめてもの矜持が、あられもない声を上げないようにと、両手で強く自分の口を押さえつけさせた。
ビクン、ビクンと大袈裟に身を震わす彼女を見て、『大分凝ってますね』とイベント通りの台詞を吐こうとした和也は、これはまずいのではないかと、慌てて施術を止める。
普通に魔力を持つ者なら、多少気持ちいいくらいで済むような量だが、この世界には魔素はなく、彼女らには魔力に対する抵抗力がない。
和也の予想を遥かに超えて、その効果を発揮してしまった。
ほんのちょっと驚かせてやろうくらいにしか思っていなかった和也は、予想外に反応する皐月に罪悪感を覚え、その痙攣が収まると同時に彼女に頭を下げて詫びる。
「申し訳ない。
まさかこんなことになるとは。
・・身体の方は、大丈夫だろうか?」
快楽の嵐が止み、暫く身体を脱力させたまま、呼吸を整えていた皐月は、自分の先程までの反応が信じられなかった。
彼はただ、普通にマッサージをしていたにすぎない。
その指の触り方に、いやらしさは微塵もなかったし、際どい場所を触ってきたわけでもない。
それなのに、これまで感じたことのない、強烈な快感が襲ってきた。
皐月だって、この歳になれば、お酒を飲んで我慢ができなくなった時など、自らを慰めることもある。
怖いから、軽く触るくらいしかしないが、長くいじっていれば、時々気持ちよくなることもある。
だが、彼から受けた快楽は、その何倍も気持ちよかった。
溜まっていたストレスが、いっぺんに消え去るくらいの心地よさ。
油断すると病み付きにやりそうなその感覚に、僅かな畏怖さえ覚えたくらいだ。
初心な少年をちょっとからかうだけのつもりが、生まれて初めて、自分の方から男性に強い興味を持ってしまった。
これからどう振る舞おう?
これ以上彼を侮ると、手痛いしっぺ返しを受けるのはおそらく自分の方だ。
流石に彼女も、触られたくらいであんなに気持ちよくなるのは不自然だくらいには思っている。
ただ、困ったことに、彼女の心の中では、このまま彼と別れてしまうのは惜しいという気持ちの方がかなり強い。
せめてここに滞在している間くらいは、彼と仲良くしていたい。
これまでのように1人で遊ぶのが味気ないのは確かだし、勇気を出して、誘ってみようかな?
決断力と実行力に優れた彼女は、そう決心すると、和也に向けて言葉を発した。
「君さ、何時までこの島に居るの?」
「何故、今、そのようなことを?」
「私、今日を含めて3日ここに居るの。
もし君もそれくらい居られるのなら、滞在中は時々私と遊んでくれないかな?
必要なら、お連れの方には私からご挨拶するからさ」
身体を起こし、座ったまま膝を抱えて、こちらの眼を見つめながらそう切り出してくる。
「自分も3日の予定だったから、それくらいべつに構わないが」
正式な手続きを経てここに来ているわけではないが、居ようと思えば幾らでも居られる和也は(自分達専用の部屋を1部屋持っている)、彼女の予定に合わせるために、そう答える。
先程の詫びの意味もあるし、彼女が立花皐月だというのなら、それはこれまでの働きに対する労いの意味も兼ねる。
自分の期待に応え続け、グループの貴重な戦力に成長してくれたし、有紗がかなり彼女を褒めているのだから。
「本当!?
嬉しい!
じゃあさ、どこのホテルか教えてくれる?
もしくはスマホのアドレスでもいいけど。
お互いに連絡を取りたい時、困るからさ」
「・・これはあなたを警戒してるとかではなくて、本当のことなのだが、自分はスマホを持っていない。
ここに取った部屋は既にキャンセルしてしまった。
連れが急な用事で来れないと言うので、自分も今日、帰るつもりでいたから」
スマホを所持してないのは事実だし、自分の部屋を言えば身元がバレてしまうので、苦しい言い訳を考える和也。
案の定、和也の返答に対し、皐月は何かを考えていたが、出てきた言葉は予想とは大分異なった。
「ふーん、なら私の部屋に来る?
広い部屋だから、君1人くらい、どうとでもなるよ?」
「それは若い女性の取る選択としてどうなんだろう?
自分はある程度の年齢をした男性なのだが」
「君、そんな『僕は女の子に全然興味がありません』と言ってる顔して、私を襲うつもりがあるの?
もしそうなら責任取ってもらうから、べつに構わないわよ?
島の記録を調べれば、何処の誰かはすぐに分かるから、絶対に逃がさないしね。
・・君、かなりの男前だし、凄くいい体してるし、変に落ち着いていてがっついてないし、私くらいの年齢の女性から見れば、お婿さんには最適の超優良物件かも。
本当に襲う場合は覚悟してね」
そう言いながら、冗談とも本気とも取れる表情で、和也を見つめてくる。
元々そんな気は微塵もない和也は、彼女を労うつもりはあるので、その提案を最終的には受け入れる。
目の前の存在(自分が気に掛ける存在)にはいろいろと気を配る和也であるが、それが周囲にはどう映るかまでは、あまり深く考えない。
他人の目など気にせずに、自分のやりたいようにやる。
そういう神としての傲慢さも、彼には確かに存在するのだ。
「分かった。
自分にその気は全くないから、あなたの所に世話になろう。
3日間、よろしく頼む」
「そう来なくちゃ!
でも、たとえそれが本心でも、もう少しオブラートに包んで言わないと駄目よ?
お姉さん、ちょっと傷ついちゃうから」
「それはすまなかった」
この後、2人で元の浜辺に戻り、互いの荷物を回収して(和也はそれっぽい鞄を、見られないように収納スペースから出した)、彼女の部屋へと共に向かう。
辿り着いた部屋は、確かに広くて豪華だが、元々がカップル用なのか、ベットルームは1つしかない(ツインだからベットは2つあるし、その1つ1つがダブルベット並みの大きさがある)。
皐月が気にしていないので、和也もその事実をスルーする。
「ねえ、お腹空いてない?
シャワーを浴びたら、一緒に食べに行かない?」
「ご一緒させてもらう」
腹が空くということはないが、食べること自体は好きな和也は、己の嫌いな物(者ではない)でない限り、食事の誘いを断らない。
今回躊躇いなくそう答えることができるのは、この施設には、和也の苦手な料理(素材)がないからだ。
朝だけ、それも滞在予約をする際に特別に申し込みさえすれば、とある日本食が用意され得るが。
その辺のことは、愛する旦那様のため、有紗に抜かりはない。
「うん。
じゃあ、先に浴びさせてもらうわね。
覗いたら、私も真似するから」
笑顔でそう言って、鞄から着替えを出すと、バスルームへと消えていく。
終始笑顔で何でもない雰囲気を醸し出していたが、実はそんなに余裕があるわけではない。
何せ初めて男性を自分の部屋に招き入れたのだ。
それも、ついさっき、知り合ったばかりの男性を。
大分歳が離れているとはいえ、身内でもない異性を、プライベートで2人きりになる空間に招くことは、相手から『了承』と取られて行動されても、一方的には相手を非難できないと思う。
グループのモラル研修でも、仕事に託けて、異性を2人きりになる部屋に招かないよう注意させている。
どうしてもそういう誘いを受けなければならない女性には、常に出口を背にしながら、人知れず会話を録音するようにも勧めている。
これまであらゆる可能性を考えて、そういったことに万全の注意を払ってきた自分が、まさかこんなに簡単に警戒心を解いてしまうなんて。
正直に言えば、それ程に、あのマッサージが気に入ってしまったのだ。
社会の柵も、今の自分の歳も考えず、ただ押し寄せる快感だけに身を委ねる行為。
長く真面目に実直に、己の立場を見失うことなく生きてきた皐月ではあるが、やはり心の何処かに、それでは得られなかった、淡い想いが残っている。
和也を見た時、この人は信用できる、その自分の直感を信じる気になれたのも、その想いが後押ししたのかもしれない。
「やだ、やっぱり汚れちゃってる」
脱衣所で、ビキニのパンツを脱いだ時、案の定、快楽の果てに出た体液が、サポーターを汚していた。
浴室に持ち込み、急いでお湯とボディソープで洗い流す。
日焼けとはまた別のほてりを感じながら、皐月は暫くシャワーを浴び続けた。
彼女が和也を連れて行ったのは、屋内の、落ち着いたイタリアンレストラン。
ここはパスタもピッツァも充実していて、少し何かを食べたい時にも重宝する。
ホテルを出る際、彼女はフロントに立ち寄り、自分のルームキーを差し出して、和也の分も登録し直していた。
この島では全ての会計がルーム№で処理されるので(建物ごとにA-○○番というふうに)、無料といえど、何かをすれば退出時にカードキーの提出を求められる。
そこに予めインプットされた人数と違えば、係員にその理由を求められる。
スイートルームのような大人数で利用することを前提とした部屋では、宿泊者全員に使い捨てのカードキーが渡される。
和也と一緒に部屋を使うなら、きちんとその分のポイントを支払って、彼の分も登録しなければならない。
使い切れないポイントを持つ皐月には、負担にすらならなかったが。
「ねえ、彼女はいるの?」
運ばれてくる料理を口にしながら、気になっていることを聴いておく。
まだ明るいから、アルコールは控えている。
「・・それは難しい質問だ。
いると言えばいるし、いないと言えばいないな」
妻が彼女という項目に入るならYESだし、入らないならNOだ。
「何それ、はぐらかしてるの?
興味本位で聴いてるだけだから、もしあなたが誰かとお付き合いしていても、べつに気にはしないわよ(嘘だけど)?」
「はぐらかしてなどいない。
多分、あなたの聴いている意味では、いないと思う」
「・・そう(よかった)。
フフッ、これ美味しいわね」
思わず笑みが零れてしまう。
食事後に訪れたシアターでは、普段はあまり見ない、恋愛系の映画を楽しむ。
部屋に戻るまでの道を、2人で軽く腕を組んで歩いた。
さっき見た映画のシーンを真似て、そのヒロインのように手を差し出して催促したら、彼は苦笑しながらも、それに応えてくれた。
部屋に戻ると、また少し緊張して無口になるが、窓辺から見える美しい夕陽に励まされて、彼にお願いしてみる。
「・・またマッサージしてくれないかな?
今度は全身を、ゆっくりと時間をかけてして欲しいの」
その返事が怖くて、窓辺に立って彼に背を向けたままでいる私。
すぐに、彼は応えてくれた。
「仰せのままに」
幸運なことに、彼はまださっきの映画の内容を引きずっていてくれた。
彼に何かを言われるより早く、服を脱いで、下着だけの姿になる。
『下着のお洒落は大事よ』
何時ぞや社長に力説されたことがあるから、普段から結構良い物を身に付けてはいる。
何も疚しいことはない。
それを証明するかのように、堂々とその姿を晒し、ベットにうつ伏せになる。
それから、徐にブラだけを外して、ベットサイドのテーブルに放り投げる。
近づいて来た彼が、海風を通していた窓を閉め、私の身体にそっと指を這わせる。
至福の時間が、私の嬌声と共に、その始まりを告げた。
今回の和也は、前回の失敗を教訓に、指先に込める魔力の量を微妙に調整し、性感帯を刺激し過ぎないように気を配りながら、丁寧にマッサージを施した。
前回と違うのは、そこに身体の修復機能を持たせたことだ。
加齢による肌の衰えや、生活習慣に原因を持つ臓器の傷みを完全に修復し、瑞々しい素肌と、形成されたてのような、若々しい臓器を生み出させる。
時折物欲しそうな表情で、肩越しの視線を送って寄越した際には、お望み通りに、性感を強く刺激してやった。
そんな時、彼女は柔らかな枕に顔を押し付け、声が漏れないようにする。
しっとりと汗ばんだ素肌を、桜色に染めながら、今度は仰向けになる彼女。
大きめの胸が露になるのもかまわずに、陽が落ちて薄暗くなった部屋の中で、虚ろな目をしてただじっと和也を見つめる。
希望に応え、その身体に指を這わせ続ける和也。
その瞳に邪な色の影はなく、医師の施術のように、的確に修復を施し、快感を送り続けた。
2時間程経ったであろうか、全身を包み込む快感の波に、皐月が肌を覆う最後の1枚を取り除こうと、それに指をかけた時、気付いた和也によって、強烈に性感を刺激され、果てながら、意識を手放していった。
それを見届け、その身体の上に、暑くないように薄い布団カバーの布だけを被せて、和也はリビングへと移動し、備え付けの器具で珈琲を淹れて飲む。
良い豆を使っているのか、立ち昇る芳醇な香りの中で、皐月のことを考える。
有紗を通して、彼女を間接的に知ってから、もう十数年になる。
見込みがあると言っていたので、様々な便宜を図ってやりながら、その成長を楽しみにしてきた。
自分と同じ大学に入ったと有紗が喜んだ時には、既に将来はグループの主要メンバーにしようとも考えていた。
その彼女が、あんなにも大人になっていたことは喜ばしいが、有紗のように、他のことには脇目も振らずに自己研鑽に励んだことは、素直には喜べない。
有紗が嘗て言っていたように、学生の時しか、若い内にしか味わえないものもあると考えるからだ。
グループの立ち上がりを支えてくれた彼女には、これからも目をかけていくつもりでいるが、妻達同様、明確な楽しみを与えてやれるかというと、少し心許ない。
その内エリカにでも相談してみるか。
そう思いながら、寝る前の珈琲を楽しんだ(普通は逆だが)。
夢すら見ない、深く心地よい眠りから覚め、静かに身を起こしてベットサイドの時計を確認すると、深夜の2時。
薄く開けられた窓から、心地よい夜風が吹き抜けて、時折カーテンを揺らしていく。
隣のベットを見ると、彼が穏やかな顔で眠りに就いている。
そっとベットから離れて、シャワーを浴びに行く。
唯一身に着けた下着の違和感が、半端ではない。
案の定、前回と、いや、前回よりかなり酷いことになっていた。
溜息をつきながら、また洗う。
そして今回はもう1つ、大事なことがある。
あまりの心地よさに、ブラをしていないにもかかわらず、堂々と彼に胸を見せてしまった。
今更どうしようもないが、彼ならいいやと思い直す。
多分、いや確実に、自分はまた彼に同じことを求めるだろう。
最早完全に、彼の指先の虜になってしまった。
そこまで考えた時、自分の身体の異変に気が付いた。
身体が軽いのは前と同じだが、肌の張り、その肌理の細かさが全然違う。
気のせいか、随分と若返ったようにも感じられる。
シャワーを終え、浴室の鏡で自分の姿を見て絶句する。
どう見ても、今までより7~8歳は若く見える。
肌に至っては、10代後半のそれだ。
前回も不思議に思ったが、今回ので確信した。
彼は、おそらく何かしらの力を持っている。
素性をぼかすのも、その辺りに原因がありそうだ。
ただ、それをあからさまに追及はできない。
そんなことをすれば、彼が自分から去ってしまいかねない。
今はまだ気付かぬ振りをして、後でこっそり調べた方がいい。
そう心に決めると、彼女はベットルームに戻り、自らの体液で汚れたベットを避け、何も身に着けないまま、和也のベットに潜り込んだ(自分に害を為す悪意が感じられない限り、和也は滅多に途中で目を覚まさない)。
翌朝、目を覚ました和也によって、少し小言を言われたが、『私の部屋なんだから、べつに何処でどういう風に寝たっていいでしょ』と強気に出たら、そういうことを誰かに言われ慣れているのか、溜息をつくだけで、それ以上何も言わなくなった。
それから島を出る日まで、昼は泳いだり散歩や食事をして楽しみ、夜はじっくりと彼にマッサージを受けて、至福の時間を過ごした。
当たり前だが、これまで休暇がこんなに楽しかったことは1度もない。
そしてとうとう島を去る日、私は彼にスマホをプレゼントした。
自分のは既に持っているが、彼専用のを持ちたくて2台買い、その内の1つを渡して、自分のアドレスと電話番号を入力し、メモ欄には住所と勤務先まで記載しておいた。
「一旦ここでお別れだけど、でもまた私の次の休暇の際には、必ず会いに来て。
来てくれなかったら、私の方から押しかけてあげるからね。
だから、きっとよ?」
社用機に乗り込む彼女が、和也に向けて1通の封筒を飛ばして来る。
飛び去った小型機を見送り、封筒の中身を確認する和也。
そこには、ぐっすり眠る和也の傍らに、全裸の彼女が寄り添い、和也の頬に軽く唇を当てながら、カメラ目線で微笑む写真が入っていた。
ご丁寧に、『SEE YOU』とペンで書いてある。
脅迫状のつもりか。
苦笑いした和也は、写真を元の封筒に入れ直すと、妻達に見つからないように、さっさと収納スペースに放り込むのだった。




