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創造神の嫁探し  作者: 下手の横好き


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世の理を超えたその先に、その4

 結論から言うと、アフリカ諸国での5年間はかなり悲惨だった。

1年おきに5つの国を回り、過去2回とは比べ物にならないくらいの粗末な診療所で(それでもグループの力で何とか水回りのことだけは確保してもらったが)、医薬品や食料等は完全にグループの配給頼りの生活を強いられた。

場所によっては、医療活動どころではなかった所もある。

その日を生き抜くのに精一杯で、自分の身体が病気であることを認識すらできない人や、僅かな水のために、日々何十㎞もの距離を往復する子供達、深刻な食糧不足で身体が変形してしまった人など、正直、見ているだけできつかった。

グループの初期方針通り、単なるバラマキ型の援助活動はしていないので、お腹を空かせた人達に、ほいほいと水や食料を配ることはできない。

そんなことをすれば、診療所の前に、毎日何千人もの行列ができるし、それだけで満足して帰っていく人がほとんどだからだ。

言葉は悪いが、貰うことに慣れてしまった人達を、自分達の地道な努力と引き換えに、何かを得させるようにするには、長い時間とかなりの根気が必要になる。

ある場所では、毎日何時間も水のために時間をかける子供達のために、雨水等を利用し、それをろ過して飲料水にする装置を作って屋外に設置し、自由に使えるようにしたら、なんと2晩で、装置の金属部品を盗まれてしまった。

スタッフからも、家の施錠だけはしっかりとするように念を押されている(窓用に使われているのは、特殊な強化ガラスだ)。

アフリカにだって、勿論豊かな国はある。

だが、貧しい国に住む人々からすれば、俺達も、所詮は金持ちの国から来た、自己満足で自分達に施しをする、赤の他人でしかないのだろう。

ただ、1年ずつとはいえ、ある程度の期間をそこで過ごしていれば、中には心を開いてくれる人もいる。

やせ細った、あばらが浮いて、今にも骨が折れそうな子に、毎日少しずつ食事を与え(暫く食べていない人にいきなり沢山の量を与えても、身体が受け付けない)、休ませている時間を利用して、ちょっとずつ勉強や世の中のことを教えていく。

ここで人材を探す際には、他よりかなり神経を使った。

親が非協力的な子はまず駄目だし、グループに預ける際に、見返りを要求するような家も駄目だ。

悲しいことに、口減らしのために、喜んで子を手放すくらいの親の方が、まだましなのである。

子供達にも、要求されることは多い。

ただ単に、良い暮らしがしたいという考えを持つだけで選べば、それこそ大多数の子が対象になってしまう。

俺達が選ぶのは、貧しい中でも他の兄弟達のために懸命にその日の糧を探し求める熱意と優しさを持つ者、稼ぎは極少なくても、その仕事に責任と誇りを持てる者なのだ。

自分達はただ哀れみを受けるだけの存在ではない。

機会さえあれば、自らの足で立って行けるのだという強い気構えが要求される。


 赤道沿いの地域では、女子には別の問題もあった。

女性器切除の問題である。

これは主にアフリカを中心として行われ、約2000年の歴史を持つ風習である。

性欲を抑え、貞淑な妻となることを求めるためなどその理由には諸説あるらしいが、大体は、不衛生な環境下で、鋭利な石等でろくに麻酔もせずに行われ、事後処理も、泥や灰で止血をするだけのこともあるという、その苦痛を想像するだけで顔を背けずにはいられない行為である。

だが、その風習が現地で当然のごとく信じられていれば、余所者の俺達が何を言ってもたいした効果はない。

ここで人権がどうこう言ったところで、その国の憲法でそれが明言されていなければ(もしくは国際人権規約に批准していなければ)、彼女達にはそんなものはないも同然だし(『人は生まれながらにして・・・』の文言や精神が憲法で謳われているからこそ、その国には人権があるのだ)、仮にあったとしても、司法が正常に機能していなけれは、何も救済されはしない。

親からしてみれば、ただの理想の押し付けにしか映らないだろう。

御剣グループに人員を送る際、アフリカの幾つかの国では、他の皆には内緒で(水は貴重だから希望者全員は無理)、その者を入浴させてからにしたが、女の子の場合は江戸川さんが一緒に入り、身体を洗ってやりながら、皮膚病などの病気をチェックする(シャワーから溢れ出るお湯を節約しようと、それに向かって必死に手を伸ばす子供達に、涙が出そうになったと言っていた)。

その際に、その傷跡が残っている子供も数人いたそうだ。


 アフリカでは、様々なことを考えさせられた。

何も知らない子供の頃は、国連の活動で芸能人などに食料を配られている飢えた子供達の写真を見て、可哀想だなくらいにしか思わなかった。

だが、5年という月日をここで過ごした今では、また別の考えも持っている。

アフリカでの出生率はかなり高い。

貧しい国では避妊具をほとんど使わずに、中には乏しい娯楽の代わりに行為を行う者も多いから、そうなるのは必然だが、同時に新生児の死亡率もかなり高いのだ。

先進国では少子化が問題となっているが、例えば日本を例に取れば、あの狭い島国に未だに人口は1億人以上いる。

ベビーブームの時のように子供が産まれ続けたら、一体どうなるだろう?

政治家は、先細りする年金の原資や社会保障費などの維持のため、1人の女性に何人もの子を産むことを奨励する(生まれた子達に負担を背負わせるために)。

だが、人口が増えるということは、都市部での土地の奪い合いや、就職先の競争率等もまた、跳ね上がるということなのだ。

アフリカは、誕生と死亡の割合にさほど開きがないからこそ、まだ人口爆発に歯止めがかかっていると言える。

だが日本など、高度な医療と安全な環境下で平均寿命だけが伸び続ける国で、さらに子供が増えていけば、教育費など、票のために何でもかんでも政治家が無料にしがちなその分の諸費用を、一体誰が負担できるというのか(日本自体の借金は、とうに返せる範囲を超えているのに)?

定年を迎えた高齢者の方は、ほとんどは年金暮らしで、過去に積み重ねた利益に頼っている。

その負担は、現役世代がほとんどを背負うだろう(生まれた子達が稼いでくれるようになるまで、一体何年かかる?)。

税収の主要部分を負担する資産家の人々も、取られることだけで、何の特権も与えられないのでは、やがて国を見限って、自分達をより大切にしてくれる他国へと、移り住みかねない。

国が未だ発展途上であれば、経済もまた、上向く可能性があるが、日本はどうだろう?

今でさえ、貧富の差ははっきりと表れ、完全に勝ち組と負け組に分かれつつあるような気がしてならない。

正規雇用から漏れた約半数の労働者達は、自分達の生活を守るだけで精一杯なのではないか。

そこにさらに人が増えれば、ますます失業率は高まり、支給される社会保障費は減り続けるだろう。

食料もお金も、ゲームのように無限に生産できるものではない。

人数が増えれば、その分で割るしかないのだ。

年金制度の破綻が危ぶまれているのも、平均寿命が想定よりかなり延びて、1人の人間が支給を受け続ける期間がずっと増えたことが一因だろう。

このままで人口が増えれば、生活保護や奨学金の支給額等は、間違いなく減額される(今はちょっと恵まれ過ぎな気がする。アフリカで生活をしていると、『最低限度の生活』とはどの程度なのかを考えさせられる。少なくともそこに、タバコやパチンコは入らないだろう)。

話をアフリカに戻すと、自国で養える人口を超えてしまえば、後は資源を切り売りしながら他国の援助に頼るしかない。

その資源さえ枯渇してしまえば、近代のように武力ではなく、借金を返せないという経済的な理由で、他国の植民地となる以外に道はないだろう。

強国は人口を増やせるが、やはり自国で養える数を超えれば、他国の資源や領土に目を向ける。

言葉は悪いが、古来より続いて来た戦争は、ある意味、その時増え過ぎた人口の調整弁だったようにも感じられる。

先人たちの弛まぬ努力と多大な犠牲により確保された現在の平和を維持していくためには、他国からの干渉を受けずに済む程度の力がいる。

それは武力に限らない。

国の力は民の力。

その民意を育てるには、甘やかすだけでは駄目なのだ。

時には心を鬼にして、厳しい現実に直面させねばならない。

ああしてやれ、こうしてやれと声高に叫ぶ者達の中で、その分の費用まで出している者は、一体どれだけいるであろうか。

興味本位でペットを飼い、世話しきれずに捨てる者がいて、捨てられたペットを殺すなと強く主張する者は多くても、じゃあその保護費用を出してくれと言われたら、どれだけの者がそれに応じるだろう?

俺の知る限り、声を上げずに黙々と労力と身銭を切っている、そういう極一部の人達が、その役目を果たしてくれているのだ。

国を強く、真に豊かにするには、そういった人々を増やさねばならない。

ネット環境の飛躍的な進歩で、人々の声が、時には大きなうねりとなって、国や世界さえ動かすことは知っている。

だが、国や企業を動かすには、そこに彼らにとっての一定の利益が必要になる。

結局は、目先の利益に囚われない、強い意思を持つ人材を育てる方が早いのだ。

俺はこの5年で、60人しかグループに送り込まなかった。

だがその60名は、グループが責任を持って育てれば、きっとアフリカのためになる者達だと確信している。

家族のために、重い水瓶を何十㎞も毎日運んだ女の子。

暴風雨の中でも、毎日来る常連さんが困るからと、売り物を全部買い取られることを拒んだ少年。

その瞳にあった強い意思の輝きが、俺を捉えて放さない。

俺もここで懸命に頑張った。

江戸川さんは頑張り過ぎたくらいだ。

浅黒く日焼けした肌は、俺の勲章でもある(勿論、江戸川さんの白い肌は、日焼け止めクリームで守り通した)。

奴に会っても、それだけは胸を張れる。

10年に及ぶ僻地での修業は、俺を少し逞しく、江戸川さんをさらに美しく変えたと思う。

もうすぐ新たな場所に旅立つ。

今度は複数の人を使う立場になる。

彼らの協力を得て、1000を超える命を救うという、奴との真の約束を果たす時が来た。

病院に来た患者は、絶対に見捨てない。

特にこの5年、見て見ぬふりをしなければならなかったことを思うと、たとえどんなに絶望的な症状でも、全力で戦う。

そして俺のライフワークでもある遺伝子治療。

グループとの話では最新の機器を導入してくれるそうなので、これも進めていきたい。

江戸川さんのような子を、1人でも多く救うために。

この道に入るきっかけはどうであれ、俺は医者になってよかった。

今なら、心からそう思える。




 「ん・・・あっ」


行為後の余韻を、いつものように和也の背中に両腕を回しながら楽しんでいた紫桜は、和也が身体を離す動きと共に、切なそうな吐息を漏らす。

ここは有紗に与えたマンションの一室。

最近何かとこの世界に来ていた和也に、紫桜が、『貸しを返して』と乗り込んできたのは2日前。

以来、1日の約4分の1近くを、彼女との逢瀬に使っている。

かなり広い上に相当な部屋数もあるこのマンションでは、2人が籠っていても有紗に迷惑をかけることはないが、内心では少し面白くないのか、行為後に和也が風呂に入りに向かうと、決まって自分も入りに来て、丁寧に身体を洗ってくれる。

今回もそうだった。


「今日は早く帰れたのだな」


いつもなら、19時まではまず帰って来ることはないが、紫桜が来てからは、18時くらいには戻ってくる。

帰って来てからも、自己が社長をしている企業からの報告書に目を通し、皐月からのメールに返事を出したりと忙しい。

体力と共に知力も人からはかけ離れた存在であるため、たいした手間ではないそうだが、見ていて多少の罪悪感はある。

表立って活動するわけにはいかない自分は、今や株で日々利益を出し続けるだけで(値動きが予め分かるので、それすらもPC任せである)、後の面倒な仕事は、全て彼女に任せている。

嫌な顔一つしないでそれら全てをこなしてくれる有紗の側に、今はなるべく居てやりたいが、他の妻達にもそれぞれの仕事を任せているので、彼女達のケアも欠かすことはできない。

前に1度、妻達の数だけ己の分身(外見や能力、思考共に同一の)を作って、皆に平等に接する案も考えたのだが、それは妻達自身によって強く退けられた。

自分は唯一無二の存在で、たとえ本人の分身であっても、それは受け入れられないのだそうだ。

自分の言うことには大概賛成してくれるエリカでさえ、『それは無理です』と一顧だにしなかった。


「ええ。

早く帰って来ないと、誰かさんは何時までも2人で籠っていそうだから」


「・・言葉に少し棘がある気がするが、べつに自分の意思でそうしているわけでは・・」


「そんな言い訳は男らしくないですよ?

紫桜さんにも失礼です」


「そうよね?」


身体に力が入るようになったのか、紫桜も一緒に風呂に入りに、バスルームへとやって来る。

2つあるシャワーの内の1つで軽く身体を流しながら、自分を見て不満顔をする彼女。


「わたくしはただ、以前に貸した分を取り立てに来ただけです。

あなたが何時までも返しに来ないのが悪いのよ」


「いや、おまえにその気がないのにいきなり訪ねて行ってもしょうがないではないか。

自分としては、おまえが何かを言ってくるまで待っていたつもりなのだが・・」


「あら、わたくしは、べつに何時でもいいのよ?

あなたさえその気なら、毎日でも構わないのだから。

夫婦って、そういうものでしょう?」


此れ見よがしに自分の目の前を通り過ぎ、ゆっくりと湯船に浸かる彼女。


「・・それは流石に違うと思うが。

というか、まるで返すものは夫婦の営みしかないような言い方ではないか」


「だって他に欲しいものなどないもの。

あなたの妻になれて、人とは違う身体になって、大抵のものは自分で手に入れられる。

元からあなたが目当てで妻になったのだもの、当然でしょう?」


「・・・」


絶句して、未だに自分の身体を洗う有紗を見ると、彼女も、『何を当たり前のことを』と言いたげな表情で自分を見る。

自分がこれまで密かに学習してきた恋のバイブルには、女性を楽しませるものは、綿密にプランの練られたデートや買い物、美味しい食事やスイーツだと記載してあった。

その上で、洒落た会話やお金があれば文句なしだと。

もしかして、あれらの書物は未婚者用の本だったのであろうか。

洗い終え、シャワーで流してくれた有紗に礼を言い、紫桜と共に、大きな浴槽に浸かる和也。

今度は自らの身体を洗い始めた有紗が、思い出したかのように言う。


「そういえば、皐月から連絡があったわよ?

あの人達、そろそろ僻地でのボランティア活動が終わるみたい。

それに合わせて建設していた施設も、粗方完成したって。

すぐに働いてもらうの?」


「10年も、慣れない所で頑張ってくれたのだ。

(つき)くらいは休みをやろうと思う。

お互いの家族とも会いたいだろうしな」


「この世界は魔法がないから、いろいろと不便みたいね。

何かわたくしもお手伝いしましょうか?」


紫桜が、和也の胸に背をもたせ掛けながら、そう言ってくれる。


「いや、君にはあちらの世界でやることがあるだろう?

雪月花や神ヶ島を見守りながら、エルクレールやその周辺諸国にも足を運んで、世情をつかむという仕事が。

暇ならまた別の世界も頼みたい」


「えーっ、そんなの大した仕事じゃないじゃない。

菊乃もいるし、他にも何人か、眷族候補の人がいるでしょう?

エレナさんだって管理しているわけだし、わたくしがあの世界ですることは、ほとんどないはずよ。

それに、別の世界って何処よ?

あんまり野蛮な世界は1人じゃ嫌よ?

あなたと一緒じゃなきゃ」


昔から少し焼餅焼きではあったが、この頃は大分甘えてくるようにもなった。

彼女のこれまでの生活を考えれば嬉しくもあるが、他の妻が見ている前だと、その視線が少し痛い。


「大体、エリカさんは今どうしているの?

セレーニアには居ないんでしょう?

まさかずっとあなたの居城に居るの?」


顔をこちらに向けて、疑わしそうに目を細めてくる。


「いや、自分のいない所で、もしエリカに何かあったら大変だし、かといって、あの美貌のままでおいそれと他の世界にはやれないし、たまにエレナの話し相手にもなってもらっているから・・」


「何それ、じゃあわたくし達は、それ程心配していないとでも言うの?」


紫桜の目がさらに鋭くなり、妖しい色を帯び始める。


「そんな、滅相もない。

ただ、何というか、男にとって、初めての人はやはり特別というか・・」


パリン。

和也が苦し紛れにそう口にした瞬間、まるで空間が割れたような錯覚に陥る。

紫桜が、壮絶な美しさを纏って、優し気に微笑んでいる。

先程から黙っている有紗の方は、怖くて顔を向けられない。


「・・そうよね。

やはり初めての人は特別よね。

でもそれは、男に限らないのではないかしら。

そう感じてくれるあなたなら、わたくしがあなたを想う気持ちも理解していただけるわよね?

さあ、これからまた、存分に愛し合いましょう?

わたくしの特別な人に、今のこの気持ちを十分に理解していただきたいわ」


湯船から静かに立ち上がった紫桜に、そっと腕を取られる。

思わず助けを求めようとして、咄嗟に有紗の方にも目を向けてしまう。


『!!』


そこには、何かを決意したような彼女が、思い詰めたような顔で佇んでいた。


「・・紫桜さん、私もご一緒させてくださいませんか?

私1人では、あの方には到底及びませんが、あなたと2人なら、たとえほんの一時でも、彼からエリカさんのことを忘れさせることができるかもしれません」


「・・・そうね。

まあ、あなたならいいわ。

わたくしの邪魔をしないというのなら、好きにしなさい。

ただし、前にも言ったけれど、わたくしにそちらの()はないわよ?」


「有難うございます。

私にもその気はないので、どうかご安心ください。

今夜はちょっと、彼に抗ってみたいのです。

本音を言うと、めちゃくちゃに愛したい。

・・それだけのことを、彼は私達に言ったのですから」


「やっぱりそう思うわよね?

話が合ってよかったわ」


有紗がこちらに近寄って来て、もう片方の腕も取られる。


「自分と婚姻を結ぶ際、エリカが少しだけ特別なことも、ご理解いただけたはずでは?」


恐る恐るそう口にして、最後の抵抗を試みるも、彼女達の次の台詞に観念させられる。


「「ええその通りよ。

でもね、女心は何より複雑なものなの。

こればかりは、わたくし(私)達にもよく分からないわ」」


この夜のことは、以後暫く、3人だけの秘密になるのであった。


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