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創造神の嫁探し  作者: 下手の横好き


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紫桜編その6

 「すみませーん」


仕事がある菊乃と別れ、昼過ぎになってから、再び紫桜の屋敷にやって来た和也。

玄関の扉を開け、声をかけると、先程とは別の女性が短刀を持って出てきた。


「何を謝る?

・・まさか、姫様によからぬことでも企んでいるのか?」


「謝ってなどいない。

これは、とあるハイソな世界で行なわれている、他人に声をかける時の挨拶だ」


「ハイソ?」


「上流社会くらいの意味だ」


「ほお。

わかっているではないか。

姫様に対するご挨拶に相応しい」


「・・そうだろう?」


少し機嫌がよくなった女性に案内され、先日と同じ部屋で紫桜と目通りが叶う。

頭を下げて待っていると、紫桜がやって来て、御簾のある、1段高い場所に座った。


「面を上げなさい」


何だかあまり面白くなさそうな顔をして、こちらを見る紫桜。


「・・それで、土地を買いたいということでしたね」


「そうだ。

最低400坪くらいは欲しい。

べつに、整備された土地でなくても、荒地でも何でも、土さえあれば、それでいい」


「この島の土地は、森を含め、全てが領主であるわたくしの所有になっており、村人には、一時的に貸し出すという形式を採っています。

領地というのは売買の対象にはなりません。

わたくしも、この島を本国から預かっているだけだからです。

また、この島の性質上、仮に売ることができるとしても、いつまで生き残れるかわからないうえ、土地を残す子孫もいないのですから、あまり意味がありません」


「勝手に子供をつくれないのだったか?」


「人数が増えればそれだけ税が重くなるので、わたくしの側近の方々以外は、今は自粛してもらっています」


「できてしまった場合はどうするのだ?」


「まだ実際には例がありませんが、男女ともこの島で、ある罰を受けるか、できた子供を残して、鉱山送りになるかを選ばせます」


紫桜の表情が硬くなった。

領主として、己の気持ちに反することを言わねばならないからだろう。

余計な質問をしてしまったな。


「・・では、売ってもらうことは諦めるが、借りることならできるか?」


「それはもちろん。

現在村人が使用している土地でなければかまいませんが、あいにく、400坪以上となると、田畑を望むなら、ここから大分離れた場所になってしまいます。

あなたに貸し与えた家からも、随分離れていますね」


「荒地でいい。

実は既に目星を付けた場所がある。

そこなら、1000坪以上あるからな」


「どちらです?」


「島の西側に共同の風呂があるだろう?

そこから少し離れた、川沿いの場所だ」


「確かあの辺りは、岩と石しかない川原でしたね。

・・岩や石をどければ、土くらいあるでしょうが、相当な労力が必要でしょうし、ひと月やそこらでできるものではありませんよ?」


「大丈夫だ」


「・・わかりました。

その場所でかまわないと言うのであれば、自由に使ってかまいません。

ちなみに、何をするつもりですか?」


「今はまだ内緒だ。

・・大丈夫だ、決して迷惑はかけないから」


紫桜の両側に控える、2人の女性からの視線が険しくなったので、一応、そう付け足しておく。


「他に用件はありますか?」


「ある。

ここの蔵の中を見せてもらってもいいか?」


「蔵を?

・・なぜです?」


「君に今回の件を頼むにあたり、貢物を用意した。

それが入り切るかを確かめるためと、何が不足しているかを確認するためだ」


この屋敷の敷地内には、4つの蔵がある。

本国への年貢には火狐の素材が充てられる以上、あの蔵の中には、彼女の個人的な財産や村人から納められた米などの食料が入っているはずだ。


「・・そんなに沢山のものを納めていただけるのですか?」


あまり見られたくはないのか、少し渋っている。


「たぶん。

・・もちろん、君の個人的な物が入っているなら無理にとは言わないが」


「・・・わかりました。

特別に許可しましょう」


「姫様、よろしいのですか?」


側に控えるあやめから、何かを気遣うような言葉が彼女にかけられる。


「かまいません。

彼相手に見栄を張っても、あまり意味はありませんから」


言葉の意味がわからぬまま、和也は、屋敷の裏手にある蔵まで案内された。


 「どうぞ、ご覧ください」


蔵の前まで来て、順番に中を見せられる。

1つ目の蔵には、彼女の祖父や父のものと思われる、鎧や兜、刀、槍などの武具が収められていた。

それ以外には、高価な陶器の大皿や壺などが十数点あるだけだ。

2つ目の蔵には、米や大豆、麦の入った麻袋が数十個ずつ置かれていたが、他には、保存の利く野菜が、これまた数十個ある以外には何もない。

3つ目と4つ目の蔵は、・・空だった。


「・・・これは、どういうことだ?」


驚きを隠せない和也は紫桜に尋ねる。


「見たままです。

姫様は、只でさえ苦しい村人から、必要以上に税を取りません。

村で賄えないものは、本国から火狐の素材と交換で購入していますが、それすらも、足下を見られているので、満足には手に入りません。

なので、姫様は、御屋形様から受け継いだ財産を少しずつ処分しながら、なんとか暮らしてきたのです」


目を伏せて、己を恥じ入るような紫桜に代わり、あやめがそう答える。

和也は、その果てしなく長い年月の中で、この時程、自分の考えを恥じたことはない。

今まで様々な星の暮らしを観察してきて、皆が皆、豊かでないことくらいは知っていたはずなのに、たとえ国王や殿様と呼ばれる人種でさえも、貧しい者もいることを理解していたはずなのに、セレーニアでの豊かな暮らしを体験し、ここに来て、紫桜に気をとられて、そんなことすら忘れていた自分が、無性に情けなかった。

自分がろくに考えもせずに頬張っていたあのおにぎりに、一体どれ程の価値があるかを考えもしなかった己が許せない。


「すまない。

・・本当にすまない」


紫桜に向かって深く頭を下げる和也。


「お気になさらずに。

全ては何の力もない、わたくしの不徳の致す所。

お恥ずかしい限りです」


「恥ずかしい?

違う!

それは断じて違う!!

本当に恥ずかしいのは、自分の欲のことしか考えず、抵抗できない者達から暴利を貪り、苦しめることだ!

その場所のことをろくに考えもせず、脳天気に出されたおにぎりを頬張っていた自分のことだ。

君は己を犠牲にしてまで、弱き者達を守っている。

誇ることはあっても、決して卑下することではない!!」


普段の緊張感に欠けた、つかみどころのない和也からは想像もできない程の力強い口調に、側にいた3人が驚く。

自分に感じた怒りをそのまま言葉にぶつけてしまったことに気が付いて、和也は気まずそうに視線を逸らした。


「大体わかった。

では、この空いている蔵に、物資を置いてもいいか?」


「?

いいですけど、何も持ってないではないですか。

・・もしかして、収納の魔法が使えるのですか?」


「そうだ」


そう言うと、和也は宙を向き、少しの間、何かをしているような仕種を見せた後、右手を伸ばし、自らの収納スペースに保管した物資を出していく。

米10トン、砂糖、塩ともに1トンずつ、味噌、醤油、みりんともに20樽ずつ。

これで、1つの蔵が一杯になる。

次の蔵に行く。

大吟醸10樽、清酒30樽、海苔、鰹節、昆布、胡椒、七味各30kg、林檎、蜜柑、それぞれ20箱。

それに、海で採った魚を90匹ほど付け加える。

・・とりあえず、ここまでにしておく。

自分の情けなさに少しキレてしまった和也は、先日購入した分に、自らの力で創造した物資を大幅に足して、怒りのままに放出した。

丹精込めて作られた、生産者達の思いのこもった品には及ばぬかもしれないが、購入したものの成分を分析し、全く同じものを創ることで、とりあえずは自分を納得させる。

見ていた3人は、呆然として、声も出ない。

やがて、我に返った3人が、大慌てで蔵に納められた物資を検分していく。

蔵の中にうず高く積まれた袋が皆、米や塩、砂糖であることに驚き、醤油や酒の樽があるのに歓喜し、果物や魚といった普段口にできない食べ物を見て、微笑んだ。

細かいことまで気にする和也が、物資を収納する際に、長く使われていなかった蔵の内部に浄化の魔法をかけ、食材が傷まないように、腐りやすいものに時間凍結の効果までつけていたことは、言うまでもない。


「あなた、本当に何者なの?

もう聴かない約束だったけど、こんな大量の物資を保管できる魔力も、これだけの物を買い揃えられる資力も、並大抵ではないわ」


「・・すまんがもう少しだけ待ってくれ。

時が来たら、必ず話すと約束する」


紫桜がじっと和也の目を見る。


「いつものように、ノーコメントとは言わないのね。

・・いいわ。

それまでは我慢してあげる。

それから、・・有難う。

本当に、有難う」


静かに和也に抱き付いてくる彼女。

いつもなら、決してそんなことを許さないであろう、あやめ達2人も、この時ばかりは何も言わずに、静かに2人を見つめていた。


 夕食に、皆に食べさせたいものがあると和也は3人に伝え、その時には源と、残りの精鋭とやらを呼ぶように言って、一旦、屋敷を出る。

紫桜の言質をとった和也は、川沿いの荒地に佇み、己が魔力を発動する。

岩や小石が粉々に砕け散り、粉状になる。

現れたむき出しの硬い地面を深く掘り起こし、魔力で創った大量の腐葉土と、粉状になった石をよく土と混ぜ、そこに、岩を砕く前に予め除去しておいた、多くの虫達を放す。

周囲を木製の柵で囲い、鶏達が身を休める鶏小屋を作り、逃げられないように敷地全体に結界を施して、今はまだいないが、人や外敵からも守れるようにしておく。

柵には看板を付けた。

『御剣養鶏場』

適度な湿り気を与えたその1000坪の敷地に、粟やひえなど鶏の餌になりそうなものを撒いて、手に入れた阿波尾鶏20羽を放す。

オス5羽、メス15羽。

眠りを解かれた鶏達が、広い敷地を自由に歩き回り、虫や餌をつつき始めた。

これでよし。

あとは、できるだけ沢山の卵を産んでくれればよいだけだ。

それまでの暫くの間は、購入したものでやりくりしよう。

そう考えた和也は、卵を買い、養殖に使う川魚を獲りに、とある世界に出向いて行く。

2時間程度で戻った和也が、養鶏場の隣に、すぐ側の川の水を引き入れた循環型の大きなため池を造り、獲ってきたイワナやヤマメを200匹程度放流して、ため池全体を結界で覆う頃には、日の沈みが早くなった空に、夕焼けが現れ始めていた。



 (とある世界の農家)


その日も大量に売れ残った新鮮な野菜や卵を前に、若い夫婦は長い溜息をついていた。

農業に憧れ、都会から仕事を辞めて田舎に移り住み、早4年。

自治体から、5年住めば無料で貰えるという広い土地を譲り受け、2人で米や野菜を作り始めたが、無農薬の有機栽培に拘り、害虫の駆除に地鶏も飼い始めた。

土地の広さに応じて十数羽を購入し、最初はその卵を喜んで自分達で食べていたが、次第に毎日食べても余るようになり、他の野菜も売り上げが伸びなくなってきた。

お互いにそれなりの収入があった仕事を辞め、やりたかった農業を始めたのには、テレビで連日、各地の道の駅が紹介され、そこに毎日沢山の客が買いに来ているのを見て、これなら十分採算がとれそうだとの考えがあった。

しかし、そううまくはいかなかった。

夢が叶うという思いが強すぎて、ろくに現地調査もせずに、ど田舎に移り住み、見よう見まねで始めたはいいが、いくつもの誤算が重なり、生活が立ち行かなくなってきたのだ。

最大の誤算は、自分達の住む村の周辺に、道の駅がなかったことである。

道路があれば、田舎の何処かにはあるだろうと高をくくって住んでみたら、1番近い道の駅まで50km近くあった。

初めのうちは、仕方がないので毎日そこまで車で運んだが、往復2時間半もかかるうえ、ガソリン代を引くと、1日3000円の利益にもならなかった。

まわりにいくつもの農家があるうえ、同じような商品ばかりで値段を安くしないと売れず、最近は売り上げがさらに落ちてきた。

近所(隣の家まで100mくらいあるが)の人に話を聞いて、農協に入ろうとしたり、農園の側に無人販売所を設けて売ろうとしたり、ホームページを作成してネットで販売しようと試みたが、農協では、いろいろと作物に対する注文や規制が多く、自分達の好きに作れずストレスが溜まりそうだし、無人販売では、売れた野菜の代わりに別の野菜を置いていかれて、ネットでは、知名度もなければ、配送料が値上がりし、野菜の値段が倍近くになってしまい、全然売れなかった。

2人の貯金が底をつき始め、あと1年で土地を貰えるという時に、農業を諦め、引っ越すかどうかの決断を迫られていた。


 2人はこの土地での生活が気に入っていた。

コンビニすらない、人口3000人程度の年寄りしかいない村だけど、自然に囲まれ、空気や水はきれいだし、のどかで、なにより、都会のように日々時間に追われて生活せずに済む。

仕事先へ急ぐあまり、他人を押しのけて赤信号の歩道を渡り、ぎゅうぎゅうの満員電車に慣れてしまったせいで、人にぶつかっても謝罪すらしないのが当たり前になってしまった自分達に嫌気が差して、ここに移り住んだ。

お金を稼ぐのは大事だが、人としての大切なものも失いたくはない。

病院に行くのが半日がかりでも、欲しいものを買うのに通販しか手段がなくても、子供が生まれたら、学校まで20kmの道のりを毎日送迎しなくてはならなくても、生活さえできれば、ここに住みたかった。


 無人販売所に陳列した、ほとんど何も売れなかった商品を引き揚げようとした時、見知らぬ男から声がかかった。


「ここに卵ありますと書いてあるが、それはもう売れてしまったのか?」


振り向くと、黒ずくめの衣装を身に纏った、若い男が立っていた。

自分達の他には、年寄りしか住んでいないこの村の住人ではないのは明らかだが、近くにこれといった観光施設があるわけでもないのに、一体どこからやって来たのだろう。


「卵は傷みやすいので、冬以外は家に冷蔵してあるんです。

よろしければお持ちしますが、何個くらいご入用ですか?」


「全部欲しい」


「全部ですか?

今日採れたてのものは10個しかありませんが、4日くらい経ってしまったものでもよろしければ、32個までお売りできますが」


「全部もらう。

それと、そこに並んでいる野菜も全部買いたい。

余っている野菜があるなら、それも全部買う」


黒いサングラスをかけてはいるが、少年にしか見えない男からの、願ってもない要求に、飛びつきたくなるのを我慢して、一応、確認だけはしておく。


「失礼ですが、それですと20万円近くになりますが、お金は大丈夫でしょうか?

うちは、カードは使えませんが」


「大丈夫だ。

これでいいか?」


男はジャケットのポケットから100万円の束を取り出して見せる。


「・・はい。

疑ったりしてすみませんでした。

すぐにお持ちしますが、お車はどちらに?」


「・・後で迎えが来ることになっている。

申し訳ないが、卵は紙でできた専用容器に、野菜はダンボールに入れてまとめてくれないか?」


「それはかまいませんが・・。

少々お待ちください」


農園主の妻は家へと戻って行く。

倉庫で売れ残っている野菜を見て、溜息をついている夫に声をかける。


「あなた、今、お客さんが来たのだけれど・・」


「客?

無人販売のか?

それがどうかしたのかい?」


「全部欲しいって」


「全部?

よかったじゃないか。

久々に利益がでるな」


「違うの。

ここにある、売れ残りの野菜も、冷蔵庫の卵も、全部」


「・・本当か?

どこかの旅館か食堂かな?

いずれにしても、・・よかった。

これで少しは持ちこたえられる。

急いで準備しよう。

もしかしたら、今後も買ってくれるかもしれないし」


「それがね、まだ子供、ううん、高校生くらいにしか見えないんだけど」


「はあ?

お金は持ってるのかな?

カードは使えないと説明したかい?」


「ええ。

100万円の束を持ってたわ」


「・・・僕も話をしてみよう。

とりあえず、待たせて帰ってしまわないように、準備を急ごう」


「そうね」


2人は急いで野菜を詰め始めた。



 「遅くなってすみません。

こちらで全部になります」


20分後、2人共、野菜を沢山詰め込んだダンボールを何十も乗せたリヤカーを引いて、少年の前までやって来る。

無人販売所の前で、手持ち無沙汰に待っていた少年に、農園主の男性が話しかける。


「今回は大量にお買い上げくださり、本当に有難うございます。

当農園へは初めてのお越しだと思いますが、どちらでお知りになられたのかをお尋ねしてもよろしいでしょうか?」


「・・以前、ホームページを見たことがあってな。

この近くに来たので、寄ってみようと思ったのだ」


「そうでしたか。

ご指示通り、ダンボールにおまとめ致しましたが、お車に入りますでしょうか?

60箱近くございますが」


「大丈夫だ。

迎えが来るまで少しここで待たせてもらうが、かまわないだろうか?」


「それはもちろん。

それで、代金のほうですが、19万2800円になりますが・・」


少年は男性に20万円を渡しながら、尋ねる。


「時に、今後も定期的に買いたいと考えているが、どんな野菜を作っているのだ?」


「当農園は、無農薬の有機栽培のみを行なっており、栽培する野菜は季節ごとに異なります。

カボチャ、大根、ナス、白菜、キュウリ、サツマイモ、トマト、キャベツなどが主力の商品ですが、いろいろ試している段階なので、今後も増える可能性があります」


少年からの期待していた言葉に、内心で大喜びしながら、気合を込めて説明する男性。


「次にこちらに伺うのは、だいたい1か月後になる。

その時に、できれば契約を交わしたい。

内容は、この農園の作物を、月に20万円分、向こう2年にわたって買い取るというものだ。

農作物の種類や数は、そちらに任せる。

全て宅配で、指定先まで送ってくれ。

支払いは銀行振り込み。

2年以後は、お互いが了承すれば、2年ずつ、更新したい」


「・・大変有難いお申し出ですが、私どもの農園の作物をお買い上げいただくのは今日が初めてのはず。

なのに、そのような好条件をご提示いただける理由がわかりません。

ご説明いただいてもよろしいでしょうか?」


あまりの好条件に、少し疑心暗鬼になる男性。

女性の方も、不安そうな顔をしている。


「農園の作物を手に取り、その作っている様を確認して、農園全体を見渡せば、買うに値する品物だと理解できる。

お金という利益だけを追い求めたものではなく、作り手が試行錯誤を繰り返し、理想を追い求めて、日々土と対話をしていることが伝わってくる。

なにより、人としての品位を大事にしたいと願う、若い夫婦を応援したかった」


「「!!」」


「車が来たようだ」


田舎の舗装もされていない道を、1台のトラックが走り寄って来る。

目の前で止まり、降りてきた中年の男は、黙ってダンボールを荷台に積み始めた。

あっという間に積み終わり、そのトラックの助手席に乗り込んだ少年は、何かの衝撃を受けて黙ったままの夫婦に声をかける。


「では、失礼する。

契約の件、考えておいてくれ」


そう言うと、トラックは走り去る。


残された2人は、暫く呆然とした後、声に出す。


「どうするの?」


妻の言葉に夫が答える。


「お願いしてみよう。

悪い人には見えないし、今は、これまで以上に農業を楽しみたい気分なんだ。

納得のいくまで拘って、精一杯頑張って、彼を満足させる作物を育てたい。

君も、そう思わないかい?」


「・・考えていることは同じね。

今日の夜は、久々にご馳走にしましょう」


2人は穏やかに微笑み、家へと戻っていった。



 「兄ちゃん、本当にこの辺りでいいのか?」


人気のない場所まで来ると、トラックの持ち主は、少年に声をかける。


「ああ。

有難う。

荷物を降ろすのを手伝ってくれ」


中年の男は、こういう作業に慣れているのか、実に手際よく荷を降ろしていく。


「約束の後金あときんだ。

助かった」


そう言って、少年は男に2万を渡す。


「有難うよ。

こっちもいい商売をさせてもらったぜ」


トラックの持ち主は、上機嫌で走り去っていく。

それを見送ると、和也は道端に積まれたダンボールを収納スペースに放り込む。

魔法を人前で使えないと、本当に面倒だな。

5km先のスーパーで、荷を降ろし、荷台が空になったトラックを見つけ、その運転手に4万でバイトをしないかと誘った和也。

話が旨すぎると訝る男に、前金の2万を払って信用させ、どうにか事無きをえた。

でもまあ、卵を買うついでに、常識と意欲のある若者達に手を貸せたのだからと、満足しながら紫桜のいる世界へと帰って行く和也であった。


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